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本編
20.ウィル
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ピンポーン。
華里とカフェですぐさま別れ、勢いで咲夜の家の、その目の前へ向かった4人。息をつく暇もなくフィルがインターホンを鳴らすと、すぐに応答が帰ってきた。
「どちらさまですか?」
「神川咲夜です。前に住んでいます。あの、少しお聞きしたいことがあって、お時間よろしいでしょうか?」
「あぁはい、構いませんよ」
中から聞こえたのは男の声。表札を見るとそこに日本人の名前はなく、ただローマ字でウィリアムとあった。
もう少し早くフィルから話を聞けていればあるいは……咲夜はそう考えてしまうが、過ぎたことはもうどうにもできない。
「お待たせしました。立ち話もなんなので、どうぞ」
出てきたのはフィルより数段劣るが、それでも一般基準からすればイケメンな男。フィルが浮世離れした美しさで崇められるのなら、こっちは親しみやすく人が集まってくるイメージだろうか。
しかしフィルとは違う柔和な雰囲気も、親しげな笑みも、優しげな声音も、全て咲夜達からすれば胡散臭い。どこか嘘のようで、信頼できない。
「いえ、結構で……」
「せっかくだしお邪魔させてもらうぜ」
「うんうん、外ではできない話だしね」
「そうなのですか?……それではどうぞ」
ウィルがにっこり微笑むと門が独りでに開き、咲夜達を通した。玄関のドアを支えながら立つウィルの隣を緊張4、警戒6の気構えで過ぎる咲夜。しんがりの一が通れば、また独りでに門が閉じた。
「それで、外では話せないお話とは?」
「知ってるだろうが。というかそのヘラヘラ笑うのやめろ、気色悪い」
「気色悪いとは失礼ですね。それに、僕と貴方は特に親しくもないでしょう?知っているだろうと言われましても」
そう言って何が面白いのか、ニタァ……と笑みを深めたウィル。その笑顔にぞわりと虫唾が走る。その瞳に映る確かな狂気を、咲夜は見てしまったのだ。
「お前が大学の女達に魔力を当てて理性を狂わせ、俺のサクヤに手を出させたことだよ」
「ふむ。……では、それを僕がしたという証拠はありますか?」
「華里に聞けば証言してくれるぞ」
「面白いことを言ってくれますね、丸山一さん。でも、ヒトごときの記憶、書き換えるのは簡単ですよ?」
必要とあらば華里の記憶を書き換える。そして自分はそれが可能なのだ。そう暗に言って馬鹿にしたように、また笑うウィル。しかし何を思ったか、すぐに残念そうな表情になった。
「……本当はもっとお話したかったのですが、タイムアップですね」
「……。おいどういうつもりだ、ウィル」
ウィルの体から突如発せられた巨大な力を感じて、フィルの声のトーンが下がる。その力の大きさゆえにゆあや一でも違和感を感じたその時。
「っ、!?」
「「な、に!」」
ドンッ!と。地震でも何でもなく、ただ力の衝撃が咲夜達を襲う。反動でぐらりと傾いた咲夜の体を支えたフィルは、汚物を見るような目でウィルを睨み。
「こんなことをして無事で済むと思ってるのかよ。正気か?」
「ご忠告どうも。あいにく僕は正気だし、流石に違う世界まで人族ごときが追いかけてこれないしねぇ」
「逃げるのか」
「いや?目的を達したから帰るだけさ。そんな事より、僕に構ってていいの?」
「……クソが」
砕けた口調で、でもあの怪しい笑みはそのままに、ウィルはそう言った。そしてその足元には既に魔法陣が展開されていて。
「それじゃあ、せいぜい頑張ってー」
無責任にそう言って、ウィルは消えた。後に残ったのはフィルがいた世界から無理やり呼び出された、この世界においてイレギュラーな存在。
「フィ、フィル……。あれ……」
「あれはヤバいよー……」
「リュカ、どうするんだ!?」
「どうするも何も、討伐するに決まってんだろ」
そしてフィルは外にいるモノを睨む。咲夜達が衝撃を受けてふらついたのは、ソイツがこの世界にやってきた反動。
フィルに習ってソイツを見た咲夜達が、カタカタと震え出す。どうにも出来ない本能的な恐怖。それに耐えきれず、ゆあと一が意識を失った。
【逃げろ、逃げろ。ただひたすらに逃げろ。勝ち目はない。ぼーっとしていると殺されるぞ。体を引き裂かれて、あっという間に】
その場にいるヒトの誰もが、本能の鳴らす警鐘に戸惑い怯えていた。そしてソレがフィルの存在を感じて、こちらに顔を向ける。
「ひ……っ!?」
ガクガクと膝が笑っていて動けず、涙の滲んだ瞳で咲夜が見たのは、赤い悪魔。山羊の角が生えた、神話内に生きるはずの化け物。
「ごめんな、サクヤ。丸朔も、巻き込んじまって。……すぐに終わらせる」
「まっ……フィル!」
苦しげに笑ったフィルがかろうじで意識を保っている咲夜の頭をくしゃりと撫で、立ち上がる。咲夜の呼び止めも聞かず、外に出たフィルは。
単身で、赤い悪魔に突っ込んでいった。
華里とカフェですぐさま別れ、勢いで咲夜の家の、その目の前へ向かった4人。息をつく暇もなくフィルがインターホンを鳴らすと、すぐに応答が帰ってきた。
「どちらさまですか?」
「神川咲夜です。前に住んでいます。あの、少しお聞きしたいことがあって、お時間よろしいでしょうか?」
「あぁはい、構いませんよ」
中から聞こえたのは男の声。表札を見るとそこに日本人の名前はなく、ただローマ字でウィリアムとあった。
もう少し早くフィルから話を聞けていればあるいは……咲夜はそう考えてしまうが、過ぎたことはもうどうにもできない。
「お待たせしました。立ち話もなんなので、どうぞ」
出てきたのはフィルより数段劣るが、それでも一般基準からすればイケメンな男。フィルが浮世離れした美しさで崇められるのなら、こっちは親しみやすく人が集まってくるイメージだろうか。
しかしフィルとは違う柔和な雰囲気も、親しげな笑みも、優しげな声音も、全て咲夜達からすれば胡散臭い。どこか嘘のようで、信頼できない。
「いえ、結構で……」
「せっかくだしお邪魔させてもらうぜ」
「うんうん、外ではできない話だしね」
「そうなのですか?……それではどうぞ」
ウィルがにっこり微笑むと門が独りでに開き、咲夜達を通した。玄関のドアを支えながら立つウィルの隣を緊張4、警戒6の気構えで過ぎる咲夜。しんがりの一が通れば、また独りでに門が閉じた。
「それで、外では話せないお話とは?」
「知ってるだろうが。というかそのヘラヘラ笑うのやめろ、気色悪い」
「気色悪いとは失礼ですね。それに、僕と貴方は特に親しくもないでしょう?知っているだろうと言われましても」
そう言って何が面白いのか、ニタァ……と笑みを深めたウィル。その笑顔にぞわりと虫唾が走る。その瞳に映る確かな狂気を、咲夜は見てしまったのだ。
「お前が大学の女達に魔力を当てて理性を狂わせ、俺のサクヤに手を出させたことだよ」
「ふむ。……では、それを僕がしたという証拠はありますか?」
「華里に聞けば証言してくれるぞ」
「面白いことを言ってくれますね、丸山一さん。でも、ヒトごときの記憶、書き換えるのは簡単ですよ?」
必要とあらば華里の記憶を書き換える。そして自分はそれが可能なのだ。そう暗に言って馬鹿にしたように、また笑うウィル。しかし何を思ったか、すぐに残念そうな表情になった。
「……本当はもっとお話したかったのですが、タイムアップですね」
「……。おいどういうつもりだ、ウィル」
ウィルの体から突如発せられた巨大な力を感じて、フィルの声のトーンが下がる。その力の大きさゆえにゆあや一でも違和感を感じたその時。
「っ、!?」
「「な、に!」」
ドンッ!と。地震でも何でもなく、ただ力の衝撃が咲夜達を襲う。反動でぐらりと傾いた咲夜の体を支えたフィルは、汚物を見るような目でウィルを睨み。
「こんなことをして無事で済むと思ってるのかよ。正気か?」
「ご忠告どうも。あいにく僕は正気だし、流石に違う世界まで人族ごときが追いかけてこれないしねぇ」
「逃げるのか」
「いや?目的を達したから帰るだけさ。そんな事より、僕に構ってていいの?」
「……クソが」
砕けた口調で、でもあの怪しい笑みはそのままに、ウィルはそう言った。そしてその足元には既に魔法陣が展開されていて。
「それじゃあ、せいぜい頑張ってー」
無責任にそう言って、ウィルは消えた。後に残ったのはフィルがいた世界から無理やり呼び出された、この世界においてイレギュラーな存在。
「フィ、フィル……。あれ……」
「あれはヤバいよー……」
「リュカ、どうするんだ!?」
「どうするも何も、討伐するに決まってんだろ」
そしてフィルは外にいるモノを睨む。咲夜達が衝撃を受けてふらついたのは、ソイツがこの世界にやってきた反動。
フィルに習ってソイツを見た咲夜達が、カタカタと震え出す。どうにも出来ない本能的な恐怖。それに耐えきれず、ゆあと一が意識を失った。
【逃げろ、逃げろ。ただひたすらに逃げろ。勝ち目はない。ぼーっとしていると殺されるぞ。体を引き裂かれて、あっという間に】
その場にいるヒトの誰もが、本能の鳴らす警鐘に戸惑い怯えていた。そしてソレがフィルの存在を感じて、こちらに顔を向ける。
「ひ……っ!?」
ガクガクと膝が笑っていて動けず、涙の滲んだ瞳で咲夜が見たのは、赤い悪魔。山羊の角が生えた、神話内に生きるはずの化け物。
「ごめんな、サクヤ。丸朔も、巻き込んじまって。……すぐに終わらせる」
「まっ……フィル!」
苦しげに笑ったフィルがかろうじで意識を保っている咲夜の頭をくしゃりと撫で、立ち上がる。咲夜の呼び止めも聞かず、外に出たフィルは。
単身で、赤い悪魔に突っ込んでいった。
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