竜王の番は大変です!

月桜姫

文字の大きさ
上 下
17 / 79
本編

14.ティオの説教

しおりを挟む
「奴、リュカは竜王なのじゃが、知らんのか?」

「知りません!」

「そうか。ならばそこから話した方が良さそうじゃの」

「あ、はい」

それからティオが語ったのはフィルが咲夜の元へやって来た詳しい経緯だった。向こうの世界にある竜人の国、ラフィリア。その国で1番の実力を持つ者が竜王となり、それはフィリアスであった。

しかしフィルは番を持たず、他人に無関心で無表情、冷徹な人物であった。それを見かねたフィルの妹と前竜王である父がフィルにより王らしく、人らしくなってもらうため番探しの旅に出す。

「そうして世界中を回っても番を見つけれんかったリュカは、ついに別世界へと足を伸ばした……という訳じゃ」

「そうなんですか……」

咲夜にとってフィルはいつも笑顔で、少々過保護すぎるきらいはあれど優しい人である。そんなフィルを知っているからこそ、いや、そんなフィルしか知らないからこそ、ティオの口から語られる過去に衝撃を受けていた。

「番を得た竜人は変わる。皆そのようなものじゃ。そして、それ程番の影響はおおきい。ヒトの子であるお主には到底理解出来ぬだろうが、自覚はしておくのじゃ」

「はい」

「キツイことを言うておるのは分かっておる。だが、次はあのように上手くいかないかもしれん」

「……」

「今回奴は魔力切れで眠りにつく寸前だったためお主の安全を優先したが……。普通、番が傷つけられ、命を落としかけたなどというようなこと、辺り一面血の海と化してもなんら疑問はないのじゃ」

淡々とした口調とは裏腹に、その内容は咲夜にとってとても重いものであった。分かっていたつもりで、本当は全く解っていなかったのだと思い知らされたのだ。

あの事件の時、確かに咲夜は何もしていない。華里達が勝手に暴れただけなのだが、逆に言うと咲夜は"何も"していないのだ。

段々とヒートアップする華里達の行動を誰に相談するでもなく、フィルがいれば大丈夫、と。あの時も2人が別行動しなくてすむ方法を深く考えたりはしていない。

「(私の行動でどれだけフィルを苦しめたんだろう。種族や文化が違っても、ある程度わかり合わなければいけないのに。
"竜人"の文化に、本能にどうして私が従わなければいけないのな、じゃない。……フィルは"人"の文化を受け入れようとしてくれていたのに。
私は、ただ。ただ、拒んでいただけなんだ)」

ティオに言われた事に咲夜が考えを巡らせ反省していると、ティオが打って変わって優しい声で言葉をかける。

「それでも、己の犯した過ちを理解し、反省したのならばそれで良いのじゃ」

「……そう、ですか?」

「うむ。二度と、繰り返さねばな」

「繰り返したりなんて、しません」

「ならば今回無事であったことを喜ぶのじゃ。奴もそれを望むじゃろう」

「っ、はい……!」

元気のいい咲夜の返事に笑顔で答えたティオは、とても優しげであった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件

なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。 そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。 このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。 【web累計100万PV突破!】 著/イラスト なかの

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...