竜王の番は大変です!

月桜姫

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本編

14.ティオの説教

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「奴、リュカは竜王なのじゃが、知らんのか?」

「知りません!」

「そうか。ならばそこから話した方が良さそうじゃの」

「あ、はい」

それからティオが語ったのはフィルが咲夜の元へやって来た詳しい経緯だった。向こうの世界にある竜人の国、ラフィリア。その国で1番の実力を持つ者が竜王となり、それはフィリアスであった。

しかしフィルは番を持たず、他人に無関心で無表情、冷徹な人物であった。それを見かねたフィルの妹と前竜王である父がフィルにより王らしく、人らしくなってもらうため番探しの旅に出す。

「そうして世界中を回っても番を見つけれんかったリュカは、ついに別世界へと足を伸ばした……という訳じゃ」

「そうなんですか……」

咲夜にとってフィルはいつも笑顔で、少々過保護すぎるきらいはあれど優しい人である。そんなフィルを知っているからこそ、いや、そんなフィルしか知らないからこそ、ティオの口から語られる過去に衝撃を受けていた。

「番を得た竜人は変わる。皆そのようなものじゃ。そして、それ程番の影響はおおきい。ヒトの子であるお主には到底理解出来ぬだろうが、自覚はしておくのじゃ」

「はい」

「キツイことを言うておるのは分かっておる。だが、次はあのように上手くいかないかもしれん」

「……」

「今回奴は魔力切れで眠りにつく寸前だったためお主の安全を優先したが……。普通、番が傷つけられ、命を落としかけたなどというようなこと、辺り一面血の海と化してもなんら疑問はないのじゃ」

淡々とした口調とは裏腹に、その内容は咲夜にとってとても重いものであった。分かっていたつもりで、本当は全く解っていなかったのだと思い知らされたのだ。

あの事件の時、確かに咲夜は何もしていない。華里達が勝手に暴れただけなのだが、逆に言うと咲夜は"何も"していないのだ。

段々とヒートアップする華里達の行動を誰に相談するでもなく、フィルがいれば大丈夫、と。あの時も2人が別行動しなくてすむ方法を深く考えたりはしていない。

「(私の行動でどれだけフィルを苦しめたんだろう。種族や文化が違っても、ある程度わかり合わなければいけないのに。
"竜人"の文化に、本能にどうして私が従わなければいけないのな、じゃない。……フィルは"人"の文化を受け入れようとしてくれていたのに。
私は、ただ。ただ、拒んでいただけなんだ)」

ティオに言われた事に咲夜が考えを巡らせ反省していると、ティオが打って変わって優しい声で言葉をかける。

「それでも、己の犯した過ちを理解し、反省したのならばそれで良いのじゃ」

「……そう、ですか?」

「うむ。二度と、繰り返さねばな」

「繰り返したりなんて、しません」

「ならば今回無事であったことを喜ぶのじゃ。奴もそれを望むじゃろう」

「っ、はい……!」

元気のいい咲夜の返事に笑顔で答えたティオは、とても優しげであった。
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