竜王の番は大変です!

月桜姫

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本編

5.嫉妬心

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さて、フィルが咲夜の大学に編入してきてはや1週間。いつでもどこでもフィルは女性に大人気で、教授もふくめ学園内の女性陣は時間の許す限りフィルについてまわった。

そしてこの1週間、もみくちゃにされながらも何とか耐え抜いてきた咲夜はあることを痛感していた。それは水を引っ掛けられる、などの些細なイタズラの裏にある嫉妬心の強さ。

「……サクヤ、気を付けろよ」

「ん、ありがと」

少しボーっとしていればすかさず足が出てきて咲夜を転ばそうとする。そんなイタズラの数々は咲夜を惨めにしてフィルの気を逸らすどころか、保護欲を大いに掻き立てていた。

「(いつも守ってくれるのはいいんだけど、これ以上エスカレートしたらフィルのいない時がヤバそう……)」

咲夜の最近の心配事である。トイレとかは仕方ないにしろ、それ以外の場所では常にフィルと行動するよう心がけている。

「あ、神川さん。ちょうどいい、これをこの休憩時間中に持って行ってほしい。あぁ、ラフィリア君はこっちを」

たまたま通りかかった教授が、場所をしるしたメモと大量の資料を2人の腕にのせて去っていった。

「私のが北館、フィルのが南館。両方行く時間はないし……別々に動こうか」

「大丈夫か、サクヤ?どう考えてもヤバいぞ」

「うん、でも……手伝い頼める人いないし。流石にいつも以上の事はしないと思う、よ?」

「そうか……?まぁ、出来るだけ早くな」

「うん」

この会話を取り巻きが聞いていないはずもなく、2人が離れる滅多とない機会を逃すまいとコソコソと話し合いを開始。

ここが人の世だからこそ、フィルは咲夜にそこまで付きまとわないし、(一般人と比べるのはNG)竜人の習性を押し付けてはいない。ただ、この状況は誰が見ても危なかった。 

「じゃあ、またあとで」

「おう」

そう言って少し緊張気味に別れた2人。話し合いが終わったのか、取り巻きも二手にわかれた。

この時、取り巻きの中に教授がいなかった事、廊下に人気がなかった事、男子がいなかった事が咲夜の運の尽きだろう。

「神川咲夜。貴方はいつもいつも、ラフィリア様について回って、あの方の邪魔になっていると気付かないの?」

「……(いやむしろ私がつきまとわれてるんだけど!)」

フィルの姿が見えなくなるなりこれである。こんな事はトイレにいけばずっとやれていたから、咲夜は油断してしまった。

「ふん、身の程を……知りなさい」

「華里さ……っ!?」

ガッと腕を後ろから掴まれ、資料が床に散らばる。流石に冗談では済まされないので咲夜も正当防衛に入ろうとしたその時。

掴まれていた腕を背中で羽交い締めにされ、さらにしめった布が口と鼻をおおう。思わず吸い込んでしまってから、後悔する。

「(ちょ、これ……は、ガチで……や、ば……)」

強制的に眠りの世界へと引きずり込まれる寸前。咲夜が見た華里の瞳には、本来あるべきはずの理性とか感情とかが、何も無かった。
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