竜王の番は大変です!

月桜姫

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本編

2.竜人族のフィル

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「……ヤ。…クヤ」

「(…ん、誰、だろ?)」

「いーかげん起きろ、サクヤ」

ふわふわしたまどろみの中、りんと響く男の声。ハッとして勢いよく起き上がれば、ガツンと頭に何かがぶつかった。

「ってぇ。いきなり起きんなよ」

「……。……!?」

驚愕に目を見開く咲夜のそばに、男が1人。頭突きされた所をさすりつつ、言葉の荒さのわりには決して怒っていなさそう。しかし咲夜にとって問題はそこではなく、今ここに男がいることで。

「な……な、なな、なん……で!?」

「んだよ人の顔みて2回も叫ぶんじゃねぇ」

そう言って、今度は不機嫌そうに前髪をかきあげる男。ソファに寝かされた咲夜を覗き込んでいたせいで流れたのが、気に入らないらしい。

「待って待って、聞きたいことが多すぎて逆に聞けないっていうか、とにかく私から離れて!?(ダメダメ、何この人外の美形は!心臓がもたないよ!?)」

「さっきから青くなったり赤くなったりおもしろいな?サクヤ」

咲夜の言い分をサラっと無視した男は、そう言ってニヤリと笑う。そしてその笑顔を超至近距離で見てますます赤くなる咲夜を見て、また笑う。

「あ……あなた誰、どうしてここに?ゆあは?どうやってさっきドア開けたの!?あとなんで私の名前!?」

「ん?あぁ、自己紹介まだだっけか。……俺はフィル。竜人族で、番を探しに来たってとこか?さっきのは魔術使ったに決まってんだろ。あとあの女はやっぱり竜人族だった、って言って、サクヤのこと任せたよーって出てったぜ」

「ゆあ……」

普通このいかにも不審な人物と友人を一緒の部屋に置いていくかなぁ!?しかも男女だよ、万が一……とか考えなかったの、あの子は!とまぁ咲夜が心の中で叫びたくなる気持ちも分からなくはない。

「……っあ、そうだ、あのチビ竜!どうしたんだっけ」

「どうしたもこうしたも今目の前にいるだろ」

「え、?」

「え、じゃなくて。さっき竜人族だって言ったろ?あのチビ竜も、この俺も、両方”俺”だ」

「りゅ、うじん……ぞく」

目の前でフィルがチビ竜になったのを見て、咲夜が小さな声で呟いた。それもそのはず、先程チビ竜が言っていた番とやらが咲夜の事で、さらに人になったフィルはありえない美形なのだから。

加えて、竜人族。人と竜の姿を持つ種族で、とても長寿。その身に流れる血の力によって強靭な肉体と回復力を持つ。

そして、唯一無二の存在である番に出会うとその番からは決して離れない。番への執着心はどの種族よりも強い。

「(え、それで、私はその竜人族の……番?)」

「あーもう何急に怯えた顔してんだよ?心配しなくても人族と俺達が違うことぐらい分かってるから、そんなに束縛とかしねーよ」

「そんなに!そんなにって言ったよこの人!」

「ったく。番って要するに一目惚れした奴のことなんだよ。んで、竜人族はそれを大切にするだけ。サクヤだって好きな奴なら離したくないだろ?」

つまりフィルは咲夜に一目惚れした。そう暗に言われた事に気づいた咲夜がまたもや顔を赤くする。ずっと、なにをどうすればいいかわからず、ただ美形をずっと見つめているなんて出来ないので俯いていたのが、災いした。

「今サクヤが嫌がっても、俺はサクヤを絶対におとすからな。……とりあえず顔あげろ。んで、俺の名前を呼べ」 

「……フィル」

「だから顔あげろって」

俯いたままぼそりと名を呼んだ咲夜のあごにフィルの手が伸びる。そして、強引に自分と目線を合わさせた。それだけで咲夜の動きはピタリと止まる。

「ほら、サクヤ。名を呼べ」

「……っ、フィ、フィル……」

「ん、よく出来ました」

動きが止まったままの咲夜の頭をゆっくりと撫でたフィル。その状況に、美形慣れしてるはずもない咲夜がずっと耐えれるはずもなく。

「も、ムリ……」

「サクヤ?」

「神川咲夜、終了のお知らせです……」

「え、あ、おい!」

そうして咲夜は極度の緊張から、また気を失ってしまったのだった。
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