竜王の番は大変です!

月桜姫

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本編

1.ちび竜との出会い

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「……何、コレ?」

神川咲夜、19才。彼女は今大学へ向かう足を止め、地面に転がる奇妙な生き物を凝視していた。もっと正確に言うと自宅玄関前に転がる両手のひらサイズの竜……を凝視していたのだ。

「おはよ、咲夜。あれ、何固まってるの?」
「あ、ゆあ。ねぇちょっと助けて。コレ、どうにかして」
「んー?」 

思わず中学からの付き合いである親友のゆあに助けを求める私。だってこんな、非現実的なモノの対処を私一人で出来るわけない。

「……わっ、竜!?おもちゃ……じゃないよね。息してるし、あったかい」
「やっぱコレ、本物?私が夢見てるとか、タチの悪いイタズラに引っかかったとか、頭がオカシクなったとかじゃないよね?ね?」

夢じゃないよ、ほら痛いでしょ?のほほんと笑いながら私のほほをむにーっとつねってきたゆあ。確かに痛いから夢じゃないんだろうけど。それ以外の可能性を否定してくれない辺り心配なんだけど!

『……お前、か』
「……。……、……ゆ、ゆあ」
「んー?ゆあは何も言ってないよ」
「そ、そう?なら空耳かな」
『あぁ?なに言ってんだよ』
「あーあー、聞こえなーい!」

地面にちょこんと座り直してこちらをそのクリっとした青い綺麗な瞳でじっと見ても、ゆあにも聞こえてるらしくっても、何も見てない知らない聞こえない。

「大学に体調不良の連絡入れとくね」
「察しがよくて助かるよ、ゆあ」
「でしょ?」

得意気に笑うゆあと、何言ってるんだコイツら、見たいな目でみてくるチビ竜。私はとりあえずチビ竜を抱き上げ、そっと全身を見る。何をするにもまず、怪我してないか確認しないとだしね。

「……どこも怪我はなさそう。とりあえず警察に届ける?」
「落ち着いて、咲夜!警察にとどけてどうするの?」
「あ、そ、そうだね。じゃあ保……痛っ」

保健所に連絡、と言おうとして顔をしかめる。チビ竜の、キラキラ光を反射する銀色の鱗で手を切ってしまったのだ。

『な、血……!?』

バサリ。そんな羽ばたく音がして、腕の中から重みが消える。私の前で器用にホバリングし、薄く血のにじむ手を見てオロオロしているチビ竜。

……っていやそれよりそんなことより!喋ったよこのチビ竜!せ、せっかく空耳で済まそうと思ったのに!今ははっきり聞こえた!

『だ、大丈夫か?俺の鱗が悪いんだな?そうだな?』
「え、いや」
『 つがいを傷つけるならこんな鱗など……』

チビ竜ちゃん、見た目可愛いのに口悪いね!私が呑気につっこもうとする間にチビ竜はあろうことか鱗に爪を引っ掛け、ペリペリと剥がそうと……。

「す、ストップ!ダメダメダメ!」

何をどうとち狂ったか、このチビ竜!とか心の中で叫びつつ慌てて止めに入る。鱗なしも見てみたい気もするけど、竜にとっての鱗って人の皮ふのようなものでしょ?流石に止める。

「ねぇチビ竜ちゃん、番ってなにかな?」

私が止めに入ったことでなんとか鱗ペリペリをやめてくれたチビ竜に、さっき聞こえた言葉を質問するゆあ。確かにそれは気になる。番って、だって……。

『もちろん、唯一無二の一生のパートナーのことに決まってるだろ』
「要するに夫妻?」
『まぁそんなもんだ』
「ふーん、私君の妻なの?」
『あぁそうだ 』
「へーぇ……。……。…………」

少なくとも、嘘や冗談を言ってるようには見えない。でも、この、チビ竜の、人ですらない、ましてや竜の、妻?私が?……いやいや。有り得ないでしょ。

「……。ゆあっ!」
『あっおい何処に行く!』

有り得なさすぎることに思考停止していたが、チビ竜の言葉の意味を、急速に理解した。そしてくるりときびすを返すと。ゆあの手を引っつかみ、電光石火の速さで自宅に飛び込んだ。

カギを2つ、きちんと閉めて、チェーンもかける。外でチビ竜が叫んでるけど、知らない。ズルズルと玄関に座り込み、深呼吸。

「ゆ、ゆあ……あの、あのチビ竜!」
「よかったね、咲夜!咲夜にははやくいい ひとを見つけてほしかったから!」
「いやそういう問題じゃないでしょ!?」

そうつっこんでみるものの、ゆあの言うことは一理ある……かもしれない。何しろ私の両親は中三の時に事故で他界、それ以来ずっと1人で生活していたから。

「でもさ、ゆあ。人外だよ!?喋れる人外!しかも架空の生き物!……ね、こんなので幸せになれると思う?」
「うーん……確かにそうかもしれないけど。私は別にいいと思うよ?(だって多分あのチビ竜……)」
「えぇー……」 
『何だ、俺が竜体だからダメなのか?……流石に番に避けられるのは勘弁して欲しい。これくらいなら無駄遣いじゃないだろ』

会話がまさかの筒抜け。ゆあとコソコソ話していたのに。何が無駄遣いなのか知らないけど、チビ竜諦めてくれ……って、いやいや。なんで、カギが……。

「~~ッ!?」
「うーん、これはホラーだねー」

ガチャリと回って、開いた2つのカギ。そして向こう側から開けられるはずのないチェーンが、独りでに動いて、僅かな音と共にはずれる。

そして。

ドアがゆっくりと開き。

何事もなかったかのような顔をして立つそのヒトを見て。二重の意味で驚いた私は、ついに意識を手放してしまったのだった。
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