溢れる愛は、どうやって?

甘栗

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陸 それぞれの甘苦い夜

後悔先に立たず。されど彼の運命は優しきものでありけり。

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♧(方見視点)
 佐竹は致命傷だと思われたが、なんとか銃弾が急所に当たっていなかったらしく、少し足に後遺症は残るそうだが、なんとか生き残ったらしい。
 しかし、問題は笠井だ。彼は肩に銃弾が当たったのだが、当たりどころが悪く、かなりの重傷らしい。確か、肩の最近リストカットした場所に当たったらしく、傷口がもう一度開き、銃弾が体内に入り、それに加え、そのまま五、六分程度病院まで行くのに掛かったので、生命の危機をさ迷っているらしい。
"命短し恋せよ乙女"というが、いくらなんでも笠井が恋してからの命の長さが短過ぎではないだろうか。
 私は病院の待合室で、ただ、慟哭していた。あまりにも可哀想に見えたのか、周りの患者さん達が相談に乗ってくれたり、飴をくれたり、慰めてくれたりした。
 そして今。あの出来事から三時間ほど経っているものの、手術室のランプはつきっぱなしのまま、変わっていない。
 手を組んで祈っても、祈っても、祈っても、後悔しか出てこない。なぜ、あの夜に先走ってしてしまったのだろうか。あの夜の行為の疲れで、笠井は佐竹に対して、抵抗出来なかったのではないだろうか。
 そんな感じで悩んでいると、ついにランプが消えた。
 ゴクリ、と唾を飲む。最悪の場合を頭の中で考え、少し泣きそうになる。
「ガタン!」
 手術室の扉が開いた。
 そこからゆっくりと笠井が乗ったベッドが出てくる。
 するとベッドを一番奥から押していた年老いた医者が、もう大丈夫ですよ、と柔らかい声で言った。
 私は、ポロポロリと涙を溢れるように流した。
二、三日程度安静にしておけば、もう退院できるらしい。
「あの……」
「はい?」
 私は聞き損じていたことを聞いてみた。
「佐竹の方はどうなったんですか?」
「彼……実は、逃げたんですよね……普通に考えて、あの傷だったら、動くこともままならいはずなのにね……」
「そう……です……か……」
 医者はベッドをコロコロと動かして去っていった。
……もし、笠井が起きた時、佐竹が失踪したと聞いたら、きっと彼は佐竹を探すために、ここに暫く留まろうと言い始めるかもしれない。
でも、私の直感だが、多分佐竹はしぶとく生き残っていると思う。
 さすがに暫くは身を潜めると思うが、ある程度経ったら、また笠井を誘拐しにくるだろう。
 その時は、今度こそは、誘拐されないようにしよう。私はそう心に誓った。
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