溢れる愛は、どうやって?

甘栗

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伍 幸せとは儚きユートピアである。ただ、幸せとは主観により変わる概念である。

崩れる幸せは泡沫のように儚く

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@誰かの手記
 目が覚めたら、そこが日常だったら良かった。
 でも神様は俺に、自由をくれなかった。
 血にまみれ、息が出来ず、絶望した俺に、死という自由をくれなかった。
 死ぬ勇気は無かった。ただ、生き残った。
 枯葉を食べ、木の枝を食べ、時にはムカデも食べた。
 口の中はパンパンに腫れ、身体中傷だらけで、満身創痍だった。
 助けて。その言葉さえ言う気力がないほど、ボロボロだった。
 そんな時、ずっと彼のことを考えていた。
 彼と話したい。彼の吐息を感じたい。彼の声にクスクスと微笑みたい。彼との日常を取り戻したい。
 ねぇ、笠井?失った時を戻すには、失った物をもう一度手に入れるしかないんだ。
 虚像でもいい。それを洗脳すればいいだけだから。君らしく……ね?でも、ダメだった。
 どいつもこいつもゴミばっかり!
 君のように優しく俺に微笑んでくれるような人は君を除いていなかった。
 君のように繊細で守ってあげたいと思った人はいなかった。
 だから俺は、ホンモノの君を手に入れる。
 例え君の友達を犠牲にしたとしてもね。
 失われた空白の時を戻したいんだ。



♢(世羅視点)
「もーし……もしもーし……おかしいなぁ……出かけたのかな……」
 朝、目が覚めるとそんな声が耳に入った。
「どうした、方見?そういえば愛音と笠井がいないが……二人でどこかに出かけたのか?」
「いや……書き置き無しで、どこかに行ったっぽいんだ……でも、電話に出ないし、LINEにも出ないしで、今どうしようか考え中なんだ……」
 方見は笠井がいなくてかなり心配らしく、心ここに在らず、という感じだった。
「なら、愛音の電話はど……」
 そう尋ねようと思った瞬間、ブゥーと俺の電話が鳴り震えた。
 俺の携帯に、"愛音"と白い文字で書かれた、電話用画面が現れた。
 俺はもちろん緑色の方のボタンを押した。
 すると電話から、愛音ではない、聞いたことがない声が聞こえてきた。
「おはようかな……?時間的に。……確か君は……世羅君だったけ?」
「お前……誰だ?」
 方見も俺に近寄ってくる。
「うーん……こう言ったら世羅君になら分かるかな?死んだはずの存在。……かな?」
「お前まさか……佐竹か!?なぜお前が生きているんだ!?」
「酷いなぁ、あんまり僕をディスっちゃうと、君の大切な愛音君を殺しちゃうよ?」
「愛音!愛音がそこにいるのか!」
「もちろん、笠井もね?」
 方見と俺の顔が青ざめていく。
 その後暫く、佐竹と話したが、あちらの要求は、"笠井を彼の物にし、今後一切、警察にそのことについて訴えないこと"それだけだった。
 尚、この件を警察に訴えたら、愛音を殺す、とも言っていた。
 そして取引場所だが、"あの小屋"らしい。
……あの小屋とは多分、山中にある、二人が誘拐犯に拉致されていた所だろう。
「通報しても意味無いし、とりあえず向かうぞ。確か、佐竹の暫定的な墓の近くにある、って昔聞いたことがあるからさ」
「あぁ、分かった……」
 方見は変わらず心配過ぎてまだ、心ここに在らず、という感じだった。
 多分、笠井が彼に殺されたら発狂しそうなレベルで。
 とりあえず俺達はあの崖に向かった。
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