ゲス王子への手向けは悪女からの微笑みを

奏重

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売られた喧嘩は買いますわよ

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 今夜行われたパーティーは、若い世代の王侯貴族のみが参加していた。

 つまり、あの場には国王陛下や私のお父様はいらっしゃらなかった。

 ゲス王子は、私を辱めるだけのつもりのようでしたけど、裁判官を同席させたことで引くに引けなくなりましたわ。

 事前にエティエンヌとアイリスの会話を聞いていたから、今回のことにはこのように対処した。

 今頃は国王陛下に叱られていることでしょうけども、あちらから何を言われようともこの機会を逃してはさしあげませんことよ。

(カトリーヌ!)

 あら。

 幻聴かしら。

(カトリーヌ!!)

 盛大な足音も聞こえますわ。

「カトリーヌ!!!!婚約破棄されたとは、本当か!?」

 お父様が文字通り、部屋に転がり込んできました。

 乙女の部屋に無断で入るなんて、いくら家族といえど失礼なことですわ。

 床に手と膝をつき、肩で息をするお父様は、この世の終わりのような情けない顔で私を見上げていますの。

 国中に影響力がある公爵家当主の威厳はどこへやら。

「本当ですわ、お父様。もう、裁判所での婚約破棄の手続きは整っています」

「お、お前が殿下から婚約破棄されただと……?」

 その言葉を聞いたお父様の頭髪は限界を迎えていた。

 唇はワナワナと震え、呆然と床を見つめている。

「大丈夫ですわ、お父様。公爵家は守ってみせます」

 我が家を踏み台にしようとした報いを王子殿下にはきっちりと受けさせて差し上げましょう。

「いや、お前は何もしなくてもいいんだ!我が家は大丈夫だから!むしろ、頼むから私に任せてくれ!」

 そんなお父様の叫びは聞こえないふりをしましたの。

 私が何かするつもりだと悟ったお父様は、すぐさま立ち上がると私の両腕を掴んで必死に言い縋ってきた。

「愛しい我が娘、カトリーヌ。お前が傷付けられたのだ。私だってはらわたが煮えくりかえっている。だから、お前が自ら手など下さなくていいんだ」

「あら、お父様。手を下すなんて、私、別にそんな大それたことをしようとは思っていませんわ」

「お前にとっての些細なことが、世の中の大事になるんだ!」

「そんなに心配でしたら、私はこれからしばらく領地でのんびり過ごしますわ。それなら安心ですよね?」

「う、うん?まぁ、それなら……本当に領地に行くんだな?」

 お父様は少しだけ訝しんでいましたけど、私が王都から離れることには賛成したようですわ。

「殿下とはこのまま婚約破棄で話を進めてくださいね。もう一度あのゲス王子と婚約なんてことになれば、私、悲しくて何をするかわかりませんわ」

「わかっている。王家からはきっちり、違約金ももぎ取ってくるから!」

 それなら、そこだけはお父様に委ねますわ。

 あら。

 開け放たれた扉の影で、お兄様が達観した表情のまま空気のように佇んでいますわ。

 なんとなく額が後退しているように見えるのは気のせいでしょうか。

 お兄様にも心配をおかけしましたが、迷惑をかけないようにしますから安心してください。

 お母様がいない今、家族は私が守らなければならないと、強く強く、改めて思った瞬間でもありましたわ。



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