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悪女の本懐
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「カトリーヌ・ムルジナ!貴様との婚約など破棄してやる!お前のような悪女は王妃に相応しくない!!」
パーティー会場で私を呼び止めた王子殿下は、意気揚々とそれを告げ、それはそれは傲慢な笑みを私に向けていましたの。
私を悪女と呼びますか。
ならば、貴様はゲス野郎ですわ。
三大公爵家の一つ、ムルジナ公爵家の一人娘の私との婚約を一方的に破棄しますのね。
大事なことですから最初に言っておきますが、それはそれで本望ですのよ?
王子の隣には、さも困惑したような態度で立つビェッチ公爵令嬢のアイリスの姿がありますわ。
そのさらに後方に控えている、アイリスを養女として迎えた対立貴族のビェッチ公爵は、下品な笑いを浮かべていましたの。
随分な狸ですこと。
化けの皮を剥がして差し上げましょうか。
本当に手に入れたい男なら、媚薬を盛って部屋に一緒に閉じこもるなり、惚れ薬に漬け込むなりするけど、こんなゲス野郎なんかこちらから丸めて捨ててやりたいくらいですわ。
それに、アイリスに視線を向けると、一瞬だけ怯んだ様子を見せたけど、すぐに勝ち誇った不敵な笑みを向けてきて。
お可哀想に。
弄ばれて、ヤリ捨てにされる未来しか想像できませんことよ。
今までそんな貴族女性を何人も見てきましたの。
もちろん、そんな女性達にはそれぞれに忠告はしましたわよ?
でも、抗う手段を持たない平民とは違って、野心をお持ちになった高位貴族が喜んでゲス野郎の元へ向かうのを、自らの労力を消費して止めることはしませんことよ。
アイリスはどうなさるのかしら。
落ち目の公爵家の養女ごときに、このゲス野郎の妻が務まるとは思えませんの。
手綱を握れる器ではありませんわ。
「では、王子殿下からの婚約破棄でよろしいでしょうか?」
「貴様など、俺の方から捨ててやる」
「裁判長。そのように記録に残してくださいな」
そこで王子が驚いた顔を見せたのには、ほんの少しだけ嬉しく思いましたわ。
「何故、バリー・ロイド、貴様がここにいる」
気配を消して私の後方に立っていた彼に、今、初めて気付いた様子ですの。
まさかパーティー会場に裁判官がいるとは思わなかったようですわね。
愚かなこと。
「貴方様が名前をご存知の通りに、裁判所からお越し願った、ちゃんとした裁判官ですわ。貴方様が何か言いたいことがあるようでしたので、来ていただきましたの。貴方の発言の記録を担い、証人となってもらいます」
「法典に誓って、虚偽の記録は残しません」
堅物の代名詞であるバリーは裁判長の信頼も厚い。
彼の記録なら、信頼たるでしょう。
「それで、王子殿下。話の続きをなさいます?後日、お互いの両親に委ねます?」
王子殿下、エティエンヌ・ゲェスは怒りを隠せていないようね。
今日、このゲス野郎が私に婚約破棄を突きつけると事前に知ることができましたから、その準備をしたまでですわ。
「俺は、自分の言葉を撤回するつもりはない。貴様とは、この時点で赤の他人となる。二度と俺に話しかけるな」
「それはそれはとても喜ばしいことです。では、私はこれで貴方の視界から消えて差し上げますわ。バリー・ロイドさんもご苦労様でした」
挨拶がわりに裁判官が一礼したので、周囲の混乱など無視してさっさと退場して家に向かうのは自然の流れでありましたのよ。
パーティー会場で私を呼び止めた王子殿下は、意気揚々とそれを告げ、それはそれは傲慢な笑みを私に向けていましたの。
私を悪女と呼びますか。
ならば、貴様はゲス野郎ですわ。
三大公爵家の一つ、ムルジナ公爵家の一人娘の私との婚約を一方的に破棄しますのね。
大事なことですから最初に言っておきますが、それはそれで本望ですのよ?
王子の隣には、さも困惑したような態度で立つビェッチ公爵令嬢のアイリスの姿がありますわ。
そのさらに後方に控えている、アイリスを養女として迎えた対立貴族のビェッチ公爵は、下品な笑いを浮かべていましたの。
随分な狸ですこと。
化けの皮を剥がして差し上げましょうか。
本当に手に入れたい男なら、媚薬を盛って部屋に一緒に閉じこもるなり、惚れ薬に漬け込むなりするけど、こんなゲス野郎なんかこちらから丸めて捨ててやりたいくらいですわ。
それに、アイリスに視線を向けると、一瞬だけ怯んだ様子を見せたけど、すぐに勝ち誇った不敵な笑みを向けてきて。
お可哀想に。
弄ばれて、ヤリ捨てにされる未来しか想像できませんことよ。
今までそんな貴族女性を何人も見てきましたの。
もちろん、そんな女性達にはそれぞれに忠告はしましたわよ?
でも、抗う手段を持たない平民とは違って、野心をお持ちになった高位貴族が喜んでゲス野郎の元へ向かうのを、自らの労力を消費して止めることはしませんことよ。
アイリスはどうなさるのかしら。
落ち目の公爵家の養女ごときに、このゲス野郎の妻が務まるとは思えませんの。
手綱を握れる器ではありませんわ。
「では、王子殿下からの婚約破棄でよろしいでしょうか?」
「貴様など、俺の方から捨ててやる」
「裁判長。そのように記録に残してくださいな」
そこで王子が驚いた顔を見せたのには、ほんの少しだけ嬉しく思いましたわ。
「何故、バリー・ロイド、貴様がここにいる」
気配を消して私の後方に立っていた彼に、今、初めて気付いた様子ですの。
まさかパーティー会場に裁判官がいるとは思わなかったようですわね。
愚かなこと。
「貴方様が名前をご存知の通りに、裁判所からお越し願った、ちゃんとした裁判官ですわ。貴方様が何か言いたいことがあるようでしたので、来ていただきましたの。貴方の発言の記録を担い、証人となってもらいます」
「法典に誓って、虚偽の記録は残しません」
堅物の代名詞であるバリーは裁判長の信頼も厚い。
彼の記録なら、信頼たるでしょう。
「それで、王子殿下。話の続きをなさいます?後日、お互いの両親に委ねます?」
王子殿下、エティエンヌ・ゲェスは怒りを隠せていないようね。
今日、このゲス野郎が私に婚約破棄を突きつけると事前に知ることができましたから、その準備をしたまでですわ。
「俺は、自分の言葉を撤回するつもりはない。貴様とは、この時点で赤の他人となる。二度と俺に話しかけるな」
「それはそれはとても喜ばしいことです。では、私はこれで貴方の視界から消えて差し上げますわ。バリー・ロイドさんもご苦労様でした」
挨拶がわりに裁判官が一礼したので、周囲の混乱など無視してさっさと退場して家に向かうのは自然の流れでありましたのよ。
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