幽霊居酒屋『ゆう』のお品書き~ほっこり・じんわり大賞受賞作~

及川 輝新

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9品目:あなたのためのチキン南蛮(550円)

(9-2)手紙

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 行真さんへ



 突然の手紙を失礼します。

 わたしは雑誌記者のイオリと申します。先日は梅茶漬けご馳走様でした。

 あなたが望海すみかの知人と知り、筆をとりました。わたしは現在、芸能関係の記事を担当していますが、かつて通常業務外で教育関係の取材も行っていました。これからお伝えするのは、その時に調べた情報です。

 二人の関係性については、ユウさんから少しだけ聞いています。

 あなたに伝えたいことは二つあります。心して聞いてください。



 ひとつ目。彼女が教職を退いた理由について。

 彼女が複数の教え子に関係を迫ったとして学校を辞めさせられたことは、既にご存知かと思います。


 ですが、真相は異なります。


 彼女は実直な教師でした。教え子に分け隔てなく接し、いわゆる不良やはみ出し者と呼ばれる生徒にも真剣に向き合っていました。彼女にだけは心を開いていたという子も少なくないそうです。

 ところが、それを面白くないと思う子もいたのです。彼女をAと呼称します。

 Aは校内でとある噂を立てました。

 それは、望海すみかがクラスのBと付き合っているということ。

 もちろん根も葉もない嘘っぱちです。

 しかし噂は噂を呼び、次第に尾ひれを付けていきました。

 望海すみかは大勢の生徒と関係を持っている。逆らえば成績を落とし、大学の推薦も取り消す。生徒から金銭を巻き上げている。噂は原型を留めぬ怪物と化し、彼女に襲いかかりました。

 彼女はどんどん心をすり減らしていきました。いくら噂を否定しても、いえ、否定するたびに、校内に味方は減っていきました。「裏切り者」「ビッチ」「さっさと消えろ」など、容赦ない罵倒が続きました。

 このままでは保護者や受験者の耳にも届いてしまう。懸念した学校側は、半ば強制的に彼女を学校から追放したのです。真偽など無関係に。

 これが伝えたかったひとつ目の内容です。



 二つ目は、ある意味もっと残酷な現実です。



 諸悪の根源であるAには、因果応報が訪れました。

 前述の件が原因なのかは不明ですが、Aはいじめを受けるようになったのです。望海すみかと同じように、校内でもネット上でも罵詈雑言を浴びせられ、やがて心療内科に通うほど追いつめられたようです。

 そして事件は起きました。

 登校中の交差点で、Aは赤信号の中大通りに飛び出したのです。判断力の低下からか、あるいは自殺願望があったのかはわかりません。大型車が迫ってくるにもかかわらず、逃げる様子はなかったという証言もあります。

 そんな状況で、果敢にも車が往来する道路に割って入り、Aを助けようとした者がいました。


 望海すみかです。


 なぜ彼女があの場にいたのかは突き止められませんでした。偶然か、あるいは学校で何か手続きが必要で、向かう途中だったのか。

 経過の詳細は省きます。結果的にAは助かり、望海すみかは死亡しました。

 彼女は最後まで教師として生き、亡くなったのです。

 行真さん、あなたは真実をどこまでご存知でしょうか。もしかすると事実の一部を誤解したまま現在に至るのではないかと思うと、いてもたってもいられませんでした。



 これがわたしの知っているすべてです。

――――――
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