【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた

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彼女の欲しいもの side J

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 彼女が自分の好みも聞いてほしいと言ったので、一緒に買い物に行くことにした。一緒にいる時間が増えれば話すことも増えるし、我ながらいい案だと思う。

 今も店に向かう馬車の中で、彼女からノーステリア領の花祭りについて聞いている。
 婚約解消を彼女から切り出されたことは今思い出してもモヤモヤするけど、要は彼女の家族や領地に気を配ればいいんだ。嬉しそうに話す彼女は可愛いし、いい感じだ。

 今日は母の管理するブティックで普段着用のドレスを見にきた。母は不在のはず。事前に話しておいたから従業員が待っていて出迎えてくれた。彼らの視線が一斉に彼女に注がれる。

「彼女に似合いそうなドレスをいくつか持ってきてくれるかな。彼女は洗練されたものを好むから。それから着心地のいいものを選んで」

「畏まりました」

 恭しく礼をする従業員達は機嫌がよさそうだ。そうだよね、彼女ほど綺麗な令嬢にドレスを選ぶのは楽しいよね。

 待つあいだ店の様子を聞いたりしながら、店の片隅に静かに立っている彼女に目をやる。さらりとした白銀の髪に抜けるような白い肌、青い瞳は穏やかな水面のように輝いている。学園を卒業してから雰囲気が落ち着いた感じがするけど、それでも雪の妖精のように可愛らしい。

 準備ができた従業員が戻ってきたので、奥の部屋に向かう。用意されたドレスは予想よりも多かった。それでも柔らかい色味が多いかな。確かに似合いそうだ。隣で躊躇いがちにいる彼女に「好きなものを選んでね」と言うと、おずおずと白い指先をドレスに伸ばした。

 しばらく彼女を眺めていたけどなかなか決められないようだ。たくさんあるから迷うよね。僕も見てみよう。
 あ、この白のレース繊細で綺麗だな。手に取ると隣から従業員の手が差し出されたのでそのまま渡す。ローズを着てるのは見たことないな。似合いそうだ。僕の瞳の色は外せないよね。レモンイエローは彼女の肌に映えそうだ。
 気がつくと4着選んでた。彼女に勧めてみよう。見るとまだ何も選んでないようだった。

「これなんてどうかな?」

 振り向いた彼女は目を丸くしたけど、すぐに笑顔になった。

「素敵だわ」

 気に入ってくれてよかった。早速着てもらうことにした。
 今日のためにメイクのできる者も頼んでおいた。着替えるたびに違う雰囲気になる。どれも可愛い。着替えを待つ時間は長いけど十分楽しめた。

 全部買ってあげようとしたのに遠慮されてしまった。「次の楽しみのために」と言うなら仕方がないか。
 彼女の選んだローズのドレスを着てデートの続きをすることにする。いつもよりメイクも華やかだ。気分がいい。
 けどやっぱり次のデートのためのも必要だと言ったら、僕の瞳の色を選んでくれた。

「想像しながら選ぶのも楽しかったけど、やっぱり一緒に選ぶ方がいいね。今度は別の店に行こうよ」

「そうね。新鮮で楽しかったわ。ありがとう」

 彼女を屋敷に送り届けた別れ際、また行こうと約束した。



 今日、僕は大学に行ったあとロブのいる店に来ている。支配人室のソファに少しだらしなく座ってるけどロブは何も言わない。
「彼女に勝手に選んだ品を贈ってたのを少し反省したんだ」と言ったら、眉尻を下げて「そうですか」と返された。

「女性はお買い物がお好きですからね。一緒に選ぶのもよいでしょうな」

「それが彼女は遠慮してしまって、あまり欲しがってはくれないんだよね。この間も全部買ってあげるって言ったのに、ひとつでいいっていうんだ」

「婚約者様は限られたものを大切にしたい方なのかも知れませんね」

「……そうかもね」

 ロブの言うことは理解できるけど、何となくよくわからない。たくさんあるものの中で、彼女の大切にしたいものをどうやって選べばいいんだろう。

 もやもやは晴れないけど、何時までも仕事の邪魔はできないので帰ることにした。店の扉を押し開けると外から「きゃっ」と小さな声がした。しまった、お客がいたかな。

 笑みを浮かべて謝罪の言葉をかけると、大きな新緑色の瞳が僕を見上げてきた。ピンクブロンドの髪。バラ園であった子だ。第三王子お気に入りの。
 制服姿と違って可愛く着飾っている。何ていうか、女の子であることを楽しんでる感じがする。
 可愛らしく小首をかしげて親しげに話しかけてきた。

「どうしてこのお店にいるんですか?あ、もしかして恋人へのプレゼントとかですか?」

「違うよ。ここは父の店だから、用があったんだ」

「そうなんですか!すごいですね」

 目を丸くして少し大袈裟に驚かれた。

「父のものだから、僕は凄くないよ」

「そんなことないですよ!すごいです!」

「ふふ。ありがとう」

 ほとんど初めて話す子なのに何故か褒められて、思わず笑ってしまった。おもしろい子だな。


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