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で、一緒にお買い物 side A
しおりを挟む「で、絆されて婚約は続けることにした、と」
私の話を聞いたあと、室長はサンドイッチを口に放り込みながら言った。ずいぶん私への態度が崩れてきたわ。
先日話を聞いてもらい助言までいただいたので、お昼休みに報告しようと室長の分までお弁当を用意してきたのだ。
「はい。……やはり大切なことですし、それなりに時間をかけて解決する努力をすべきかと……。私も一方的に考えてしまっていたと反省しましたし」
「そうか」
室長が食べる手を止めることなく相槌を打つ。……何となく残念な子を見てるような目ね。偶にマリがするわ。
確かに婚約解消を一度は申し出ておいてあっさり取り下げるなんて軽々しいわよね。自分の至らなさに落ち込む。長々話を聞かされた挙げ句これじゃ室長も呆れるわよね……。
「おそらくお前が今考えてることは違うと思うぞ。……まぁいいから食べろ。とにかく前向きに頑張ることにしたんだろう?」
室長がカラフルなサンドイッチの入ったバスケットを差し出してくる。……うちの料理人が作ってくれたものだけど。黙って受け取り一口食べた。美味しい。
あの日から彼が目に見えて変わったことは、休日私を街に誘うようになったことだ。次々と贈られてくるドレスについて話したら、それなら一緒に選びに行けばいい、ということになったのだ。そういうことでいいのかしら……?
そんなふうに考えてしまうけど、移動する馬車の中などではうちの領地を話題にしたりして、彼も私の気持ちに歩み寄ろうとしてくれてると思う。
そして今日は彼の家のブティックに来ている。店の扉を開けるやいなや、数名の従業員が恭しく迎え入れてくれた。
彼は慣れた様子で軽く挨拶をする。
「彼女に似合いそうなドレスをいくつか持ってきてくれるかな。彼女は洗練されたものを好むから。それから着心地のいいものを選んで」
「畏まりました」
彼の中で『シンプル』が『洗練された』に変換されてる。
けど、機嫌のいい彼とキビキビと動き出した従業員達に何かを言うつもりにはなれない。大人しくしていると、彼が他の従業員と店の様子や商品の飾り方について話してるのを目にした。
彼はお義父様のあとを継ぐ人なのだから、私も彼に相応しくなれるよう努力しないといけないわ。
密かに自分を戒めてると、最初の従業員が出てきて奥に案内された。通された部屋には壁に沿って色とりどりのドレスや小物がずらりと並んでいる。こんなに……。隣りにいる彼を見るとキラキラした笑顔で「好きなものを選んでね」と言ってきた。
私も一応は伯爵令嬢だからそれなりに贅沢をすることはある。けど領地を預かっている身として必要以上は望まないようにしてきた。
それに対して彼の家は多くの事業を抱え、次々と新しいものを売り出している。きっと家族としては新商品を次々と消費していくことが正解なのだ。
私は自分を諌めながら笑顔でドレスに手を伸ばす。お願いした通り洗練されたデザインだけど、彼の好みを考慮してかやっぱり可愛らしい感じが多い。
…………たくさん見てたら、何だかよくわからなくなってきたわ。どれでもいいなんて思ってはダメよ、私。
「これなんてどうかな?」
声に振り返ると彼がいて、後にはふたりの従業員が白、ローズ、水色、レモンイエローのドレスをそれぞれ手に下げていた。何だか圧を感じるわ。
「素敵だわ」
そのまますべて着てみることになった。ドレスにあわせて小物とメイクまで変えられて、小さなファッションショーのようだ。お茶を飲みながらソファで待つ彼は、着替えた私を見るたびキラキラの笑顔で褒めてくれた。
結局全部買ってくれようとしたけど、やはりどうしても気が引けてしまう。「次の楽しみのために」とローズのドレスをひとつ選び、そのまま着ていくことにした。メイクもバッチリだ。よし帰ろうと思ったら、次のデートのためにと水色のも一式追加された。
「想像しながら選ぶのも楽しかったけど、やっぱり一緒に選ぶ方がいいね。今度は別の店に行こうよ」
上機嫌で歩きながら彼が言うので、私も笑顔で返す。
「そうね。新鮮で楽しかったわ。ありがとう」
…………疲れた。
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