【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた

文字の大きさ
上 下
28 / 58

合格の知らせと求婚 side J

しおりを挟む

 今朝はいつもより早く目が覚めた。
 学園は休みだけど、今日は大学の入学選考試験の結果がわかる。昼前には知らせが届くはず。

 何となく落ち着かない。
 ベッドから立ち、窓からバルコニーに出て庭を見下ろす。冬の朝の冷えた空気の中、母のお気に入りの白いガゼボと花のない薔薇園が見える。お気に入りと言っても、客をもてなす装置としての意味だけど。

 部屋に戻り、少し早いけど服を着替えることにした。鏡を覗きこみ髪を整える。気を紛らそうと髪に集中してたら、いつの間にか凝った髪型になってしまった。

 しばらくして年嵩のメイドのエマがお茶を持って入ってきた。僕の髪を見ておっとりと笑う。

「素敵でございますね」

「少し手間がかかったよ」

 肩をすくめて戯ける僕を見る目は優しい。エマは僕が子供の頃から屋敷にいて、きっと母よりも共にいる時間が長い。

「……きっと良い知らせが届きますよ」

 カップを置きながら静かに言う。

「うん……。僕もそう思うよ」

 本当に試験の手応えとしては自信はあるんだ。それでも結果が出るまでは緊張してしまう。
 ゆっくりとお茶を飲む間、僕の傍らにはエマが静かに立っていた。
 

 気晴らしで読み始めた本に思わず没頭していると、家令が王立大学の印璽がおされた封蝋のある手紙と、厚みのある封筒をトレイにのせてきた。待っていたことを思い出して急いで受け取り、封を開ける。

 手紙を読む僕を、気遣わしげに見ている家令に向かって微笑む。

「合格したよ」

「おめでとうございます。旦那様、奥様もお喜びになりましょう」

「……そうだね。ありがとう。入学手続きの書類は後で持ってくと父上に伝えておいて」

「畏まりました」

 家令は一礼して部屋から出ていった。

 ひとりになって深く息を吐く。……合格していてよかった。
 彼女に伝えたら喜んでくれるかな……。彼女の嬉しそうな笑顔を思い浮かべる。記憶の中でも可愛い。そうだ、今から会いに行こう。
 僕が早速立ち上がり、出かける支度を始めると、エマが入ってきた。

「失礼いたします。ご昼食はどうされますか?……外出されるのですか?」

「そうだね。彼女に合格を伝えに行くよ」

「彼女、とはノーステリア伯爵家の……。それでは先触れをお出しします」

「必要ないよ、何度も行ってるから……」

「それはお約束してらしたでしょう。突然行ってはいけません」

「……わかった」

 エマにきっぱりと言われたので、結局、彼女に会いに行くのは昼食の後になってしまった。


 彼女のタウンハウスに着くと、庭にある温室に通された。そう言えば屋敷の中に入ったのは初めてだ。
 温室は大きくはないけどよく手入れされていて、優しい色合いの花が重なるように咲いている。僕はコートを脱いで白い椅子に座った。

 すぐに現れた彼女は、珍しく淡いピンク色のドレス姿だった。

「おまたせしました」

 彼女は何故か緊張した顔をしている。……そうか、きっと今日が試験結果の日だと知ってるんだ。気にかけてくれてることに嬉しくなる。

「突然来てしまってごめんね。君には早く伝えたくて……。大学、進学が決まったんだ」

 彼女は目を大きく見開いた後、破顔した。胸がどきんと鳴った。

「おめでとうございます!やったわ!よかった。本当におめでとう!」

 おめでとうって2度も言ってくれた。想像していたより喜んでくれたから、僕の中にあった嬉しい気持ちが、何倍にも膨らんだ気がする。

「ありがとう」

 僕が言うと、彼女は首を傾げてにっこりと微笑んだ。可愛い。

「僕と婚約してくれませんか?」

 気がついたら口から言葉が出ていた。

 近くに控えていた伯爵家のメイドが小さな悲鳴を上げ、彼女は固まったまま動かない。まずい。何か言わないと。

「僕は大学でまだ学ぶことがあるし、君は王宮事務官としての仕事が始まる。しばらくはそう言ったことは考えにくいと思う。けど、学園を卒業した後に、君に会えなくなるのは嫌だ。だから、君と婚約したい」

 僕は立ち上がり彼女の前に跪く。彼女は僕の顔を見つめたまま、僕の動きを追っている。
 右の手のひらを差し出す。勢いで言ってしまってるから、花すら持ってないけど仕方ない。

「この先の時間をまだ君と一緒にいたいと思う。だから、この手を取ってください」

 彼女の頬が赤く染まり、瞳が落ち着きなく左右に揺れた。

「その……、私は王宮事務官を続けたいんです。だから……」

「僕の家は領地のほとんどない男爵家だし、父の事業は僕が引き継ぐから、君は君のしたい仕事を続けても大丈夫だよ。……たまに意見が欲しいかもしれないけど」

 彼女を初めてうちの店に連れて行った時を思い出して思わず笑みが溢れた。

「では……、よろしくお願いします」

 手のひらに彼女の柔らかい手が触れる。嬉しくて、両手でその手を掴んだ。

「ありがとう」

 心からの感謝の気持ちを伝えた。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。 卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。 二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。 私は何もしていないのに。 そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。 ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。 お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。 ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

希望通り婚約破棄したのになぜか元婚約者が言い寄って来ます

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢ルーナは、婚約者で公爵令息エヴァンから、一方的に婚約破棄を告げられる。この1年、エヴァンに無視され続けていたルーナは、そんなエヴァンの申し出を素直に受け入れた。 傷つき疲れ果てたルーナだが、家族の支えで何とか気持ちを立て直し、エヴァンへの想いを断ち切り、親友エマの支えを受けながら、少しずつ前へと進もうとしていた。 そんな中、あれほどまでに冷たく一方的に婚約破棄を言い渡したはずのエヴァンが、復縁を迫って来たのだ。聞けばルーナを嫌っている公爵令嬢で王太子の婚約者、ナタリーに騙されたとの事。 自分を嫌い、暴言を吐くナタリーのいう事を鵜呑みにした事、さらに1年ものあいだ冷遇されていた事が、どうしても許せないルーナは、エヴァンを拒み続ける。 絶対にエヴァンとやり直すなんて無理だと思っていたルーナだったが、異常なまでにルーナに憎しみを抱くナタリーの毒牙が彼女を襲う。 次々にルーナに攻撃を仕掛けるナタリーに、エヴァンは…

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

処理中です...