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新歓パーティーの彼女 side J

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 彼女が生徒会の勧誘を受けてから、すぐに忙しくなった。進級してからだと思った仕事は、卒業式前から始まったみたいだ。

 その上、兄君の婚約も決まったそうだ。貴族同士の婚約は必ずではないが、双方の領地へ招き合い、その後婚約式を行うため、とても手間と時間を取られる。

 春休みなのに誘うこともできない。僕は早くも、彼女の生徒会入りを応援したことを後悔していた。

 それから、エイデン・ウェスティン伯爵令息。学年首席の男も生徒会に加わっていた。黒髪のいつもしかめっ面の男。
 彼女があの男に靡くとは思えないけど、近くにいることが増えたので面白くない。

 今さら辞めて欲しいなんて言えないけど。


 2年生になり、クラス替えはあったけど、成績順なのでほとんど変わらなかった。今年も彼女と同じクラスだ。

 新歓パーティーの日。本当はエスコートを申し入れるつもりだったけど、彼女は生徒会の役割がある。
 内心不貞腐れて会場に向かうと、そこでドレス姿の彼女を見つけた。

 モスグリーンのエンパイアラインのドレス。背が高めで細身の彼女にはとても似合っている。壁際で会場を見守るように立つ姿は女神のようだ。

 やっぱりエスコートしたかった……。見惚れていると、彼女は僕に気がついた。途端に柔らかく微笑み、こちらに向かって歩いてくる。モスグリーンのドレープがふわりと揺れた。彼女が大勢いる中で僕を選んで来てくれた。彼女のドレスの色を聞いておけばよかった。知っていたらチーフの色でも合わせたのに。

「今日はあまり皆といられないけど、頑張って準備したから、楽しんでいってね」

「ぜひそうするよ。ありがとう。もう一息、頑張って」

 僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑う。応援したのを後悔していたのに、また応援してしまった。


 新しい生徒会長の言葉で新歓パーティーが始まると、彼女は会場の中、颯爽と歩きだした。人の間をひらりひらりと動き回る姿は、本人は気づいていないようだが、だいぶ視線を集めていた。

 今年の新入生で一番身分の高いのは公爵令嬢だ。意思の強そうな大きな緑の瞳と、青みがかった銀髪が印象的な少女だ。とても美しいが彼女の方が綺麗だ。

 今日はきっともう彼女と話すことはできないかもしれない。会場を少し離れ、後で渡せるように彼女宛のカードを用意した。

 会場に戻る時に中庭を通ると、ベンチに女子生徒がひとりで座っているのに気づいた。ベビーピンクのドレスにベージュの髪。きっと新入生だろう。気になって声を掛けた。

「どうかしましたか?」

 女子生徒は驚いて顔を上げると、見る見るうちに顔が赤く染まった。緊張させてはいけないと笑顔を作り、女子生徒をそっと観察する。片方の靴を脱いでいた。

「もしかして靴が合いませんでしたか?」

 跪いて投げ出されていた靴を拾う。

「少し大きいけど平気かと思ったのですが、痛くなってしまって」

 女子生徒は顔を赤くして今にも泣き出しそうだ。僕はハンカチを取り出して半分に割き、小さく畳んで踵に入れ、そのまま履かせてあげた。

「これで少しは歩けると思うので、手当てして貰えるところまで送りますよ」

 女子生徒の手を取ってゆっくりと歩き出すと、何も言わずについて来た。途中、バルコニーで女子生徒と揉めているエイデンを見かけたけど、そのまま通り過ぎた。


 パーティーが終わり、帰る前にカードを渡そうと彼女を探したが見当たらなかった。不本意だけど、参加者の見送りに立っていたエイデンに頼む。相変わらずのしかめっ面で「わかった」と短く言われた。


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