上 下
18 / 58

怒涛の新歓パーティー side A

しおりを挟む

 再びハムウェイス様からサロンへのお誘いがあった。今回は兄はついて来てくれない。朝から緊張が隠しきれていない私を、友人達が「大丈夫よ」と優しく励ましてくれる。ありがとう。がんばります。

 昼休み、いつもより姿勢を正して、ハムウェイス様の待つサロンに向かう。するとサロンの扉の前に人影があった。

 エイデン・ウェスティン伯爵令息。男性にしては小柄な方で、黒髪に黒い瞳、見かける度に眉間にシワを寄せている印象があるけど、今も寄せている。同じクラスだけどほとんど話したことはない。

「ノーステリア伯爵令嬢。お前も呼ばれたんだな」

 初対面ではないし挨拶を省略されたのは、まぁいいのだけど、いきなりお前呼びなのは気になる。

「ごきげんよう。ウェスティン伯爵令息様。『お前も』とはどういう意味でしょう?」

 私がにっこりと微笑んで言うと、眉間のシワを深くした。今にも舌打ちされそうだ。

「俺は伯爵家と言っても三男だ。エイデンでいい。お前もハムウェイス侯爵令嬢に生徒会の話で会いに来たのだろう」

 お前呼びは変わらないのね……。

「では私のことはアリシアと。ではご一緒に参りましょうか」


 サロンの中にはハムウェイス様だけでなく、他の生徒会役員の方々がいらっしゃった。思わずカーテシーをしてしまいそうになるのをぐっと堪える。ここは平等に学ぶ学び舎、そのような態度はそぐわない。

 ハムウェイス様が今日も美しく微笑まれる。

「来てくれてありがとう。今日は、次の役員を引き受けてくれたおふたりと、現役員との親睦を深めるために席を設けたの。どうか緊張なさらずに楽しんでね」

 緊張するわ~、と内心冷や汗を流していると、隣に立つエイデン様が爽やかにこたえた。え?誰?

「こちらこそ、私達を生徒会役員という大役に取立ててくださり感謝申し上げます。これからは皆様の働きに追いつけるよう尽力致します」

 エイデン様が右手を胸に当てて礼をしたので、私もあわせて礼をする。『私達』って言ってくれたしいいわよね。

「うふふ。頼もしいわ。役員は今6名いるのだけど、3名卒業するから新役員はもうひとり、春に入学する公爵令嬢にお願いしているわ」

 なるほど。公爵令嬢は第三王子の婚約者だ。一人娘なので王子は公爵家へ入婿予定だけど、王族扱いなのだろう。

 それからの時間は、親睦会という名の引き継ぎの場となった。仕事は進級してからだと思ってたけど、実質卒業生をお送りするところから始まるようだ。
 言われてみれば、そうよね……。


 覚悟してたよりずっと早く、役員としての忙しい日々が始まった。卒業パーティーはほとんど段取りがされていたのでお手伝い程度で済んだけど、春休みは新体制を整えることと、新歓パーティー準備に奔走することになった。
 前回はお気楽に歓迎されてたけど、こんなに大変だったのね。もっといろいろなことに感謝しよう。

 それから兄の婚約も正式に結ばれた。おめでとうお兄様。


 無事2年生になり、今日は新歓パーティーだ。
 当日の私の仕事は、入場者数と飲食物の量を管理すること。パーティーの間中ずっと気を抜けない。先輩方は進行、エイデン様は警備の担当をしている。公爵令嬢は新歓パーティー後に生徒会にご加入予定だ。

 ……あれ?来年は第三王子達が入学されるということは、もっとこの時期手薄になるってこと?……今考えるのはよそう。

 今日の私は、ボリュームを抑えたドレスに生徒会の腕章を着けている。制服の方が動きやすいけどそれだと逆に目立ってしまうから。

 会場に現れた彼はダークグレーのタキシード姿だった。制服よりも大人びて見える。
 友人達とは軽い挨拶しかできなかったけど、みんな応援してくれてるから頑張ろう。


 それからの数時間はよく覚えていない。
 ひたすら会場を歩き回り足りないものがないか確認し、タイミングを計って指示を出す。私が不慣れなのがいけないのだろうけど、何度も走ってしまいたい衝動に駆られた。

 私が淑女としてギリギリ許される速さで頑張っていた時、遠目に警備を担当してるエイデン様を見かけた。何やらご令嬢に苦情を言われているようだ。大丈夫かしらと心配していたら、なんと手を払ってご令嬢を追い払っていた。本当にあの方大丈夫かしら……?
 あんな風になれたら楽なのかしら……と変に感心した。


 そしてやっと、パーティーが無事お開きとなった。
 人の減った会場を見回りながらバルコニーに出た。今日初めて中庭に咲く花をぼんやりと眺める。疲れた。
 気配に気づいて振り返ると、エイデン様が立っていた。

「お疲れ様。無事に終えられてよかったですね。そちらは大丈夫でしたか?」

「はしゃいで羽目を外しそうになった奴らがいたが、想定の範囲内だ。お前の方もうまく仕切れていたみたいだな」

「そうね、なんとか。……それよりも貴方、私に対して態度が雑よね?」

 ずっと気になっていたことを疲れているついでに聞いてみた。エイデン様は珍しく表情をきょとんとさせた。

「それは……、お互い王宮事務官志望だし、成れたら付き合いも長くなるだろう。だったら面倒は省いた方がいいだろ」

 それって、将来同僚になりそうだから、手っ取り早く自分にとってストレスのない関係を築いておこうってことね。まぁ、いいけど……。エイデン様も王宮事務官を目指してたのね。

「生徒会で王宮事務官志望なんて、雑用係の実働部隊だろ。お互いせいぜい働いて、学園長推薦をもらうしかないだろ」

 エイデン様は眉間にしわを寄せたまま笑う。私も「そうね」と笑った。

「そう言えば、これを頼まれた」

 小さな封筒を渡された。彼の瞳と同じ空色だ。開けるとカードが入っていた。

『生徒会の仕事お疲れ様。君のお陰で素晴らしい時間が過ごせたよ。ありがとう。今度美味しいケーキをご馳走させて』

 短い言葉けど、嬉しい。思わず頬が緩んだ。

 エイデン様はそんな私を何も言わずに見ていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します

水空 葵
ファンタジー
 貧乏な伯爵家に生まれたレイラ・アルタイスは貴族の中でも珍しく、全部の魔法属性に適性があった。  けれども、嫉妬から悪女という噂を流され、婚約者からは「利用する価値が無くなった」と婚約破棄を告げられた。  おまけに、冤罪を着せられて王都からも追放されてしまう。  婚約者をモノとしか見ていない婚約者にも、自分の利益のためだけで動く令嬢達も関わりたくないわ。  そう決めたレイラは、公爵令息と形だけの結婚を結んで、全ての魔法属性を使えないと作ることが出来ない魔道具を作りながら気ままに過ごす。  けれども、どうやら魔道具は世界を恐怖に陥れる魔物の対策にもなるらしい。  その事を知ったレイラはみんなの助けにしようと魔道具を広めていって、領民達から聖女として崇められるように!?  魔法を神聖視する貴族のことなんて知りません! 私はたくさんの人を幸せにしたいのです! ☆8/27 ファンタジーの24hランキングで2位になりました。  読者の皆様、本当にありがとうございます! ☆10/31 第16回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。  投票や応援、ありがとうございました!

婚約破棄で絶望しましたが、私は愛し愛される人に出会えて幸せです

腹鳴ちゃん
恋愛
卒業パーティーで婚約破棄されたフロリアーヌ。愛されていると思っていたお父様と信頼していた婚約者に裏切られ、絶望する。 しかし、精霊様の力を借りて記憶を消し、新たな世界へ!そこでは今までの生活とは全然違う!真に愛する人も見つかって、フロリアーヌは幸せになります。 元『気持ちの切り替えだけは得意です。』連載版に合わせて変えました。 死を表現するところがあるため、保険でR15にしておきます。 当方、処女作のため温かい目で見てくださると助かります。 お話書くのってむずかしい ※なろう様にも掲載しております。 お気に入り・しおり登録ありがとうございます!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」  これが婚約者にもらった最後の言葉でした。  ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。  国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。  やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。  この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。  ※ハッピーエンド確定  ※多少、残酷なシーンがあります 2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2021/07/07 アルファポリス、HOT3位 2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位 2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位 【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676) 【完結】2021/10/10 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~

Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。 その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。 そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた── ──はずだった。 目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた! しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。 そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。 もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは? その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー…… 4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。 そして時戻りに隠された秘密とは……

処理中です...