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怒涛の新歓パーティー side A
しおりを挟む再びハムウェイス様からサロンへのお誘いがあった。今回は兄はついて来てくれない。朝から緊張が隠しきれていない私を、友人達が「大丈夫よ」と優しく励ましてくれる。ありがとう。がんばります。
昼休み、いつもより姿勢を正して、ハムウェイス様の待つサロンに向かう。するとサロンの扉の前に人影があった。
エイデン・ウェスティン伯爵令息。男性にしては小柄な方で、黒髪に黒い瞳、見かける度に眉間にシワを寄せている印象があるけど、今も寄せている。同じクラスだけどほとんど話したことはない。
「ノーステリア伯爵令嬢。お前も呼ばれたんだな」
初対面ではないし挨拶を省略されたのは、まぁいいのだけど、いきなりお前呼びなのは気になる。
「ごきげんよう。ウェスティン伯爵令息様。『お前も』とはどういう意味でしょう?」
私がにっこりと微笑んで言うと、眉間のシワを深くした。今にも舌打ちされそうだ。
「俺は伯爵家と言っても三男だ。エイデンでいい。お前もハムウェイス侯爵令嬢に生徒会の話で会いに来たのだろう」
お前呼びは変わらないのね……。
「では私のことはアリシアと。ではご一緒に参りましょうか」
サロンの中にはハムウェイス様だけでなく、他の生徒会役員の方々がいらっしゃった。思わずカーテシーをしてしまいそうになるのをぐっと堪える。ここは平等に学ぶ学び舎、そのような態度はそぐわない。
ハムウェイス様が今日も美しく微笑まれる。
「来てくれてありがとう。今日は、次の役員を引き受けてくれたおふたりと、現役員との親睦を深めるために席を設けたの。どうか緊張なさらずに楽しんでね」
緊張するわ~、と内心冷や汗を流していると、隣に立つエイデン様が爽やかにこたえた。え?誰?
「こちらこそ、私達を生徒会役員という大役に取立ててくださり感謝申し上げます。これからは皆様の働きに追いつけるよう尽力致します」
エイデン様が右手を胸に当てて礼をしたので、私もあわせて礼をする。『私達』って言ってくれたしいいわよね。
「うふふ。頼もしいわ。役員は今6名いるのだけど、3名卒業するから新役員はもうひとり、春に入学する公爵令嬢にお願いしているわ」
なるほど。公爵令嬢は第三王子の婚約者だ。一人娘なので王子は公爵家へ入婿予定だけど、王族扱いなのだろう。
それからの時間は、親睦会という名の引き継ぎの場となった。仕事は進級してからだと思ってたけど、実質卒業生をお送りするところから始まるようだ。
言われてみれば、そうよね……。
覚悟してたよりずっと早く、役員としての忙しい日々が始まった。卒業パーティーはほとんど段取りがされていたのでお手伝い程度で済んだけど、春休みは新体制を整えることと、新歓パーティー準備に奔走することになった。
前回はお気楽に歓迎されてたけど、こんなに大変だったのね。もっといろいろなことに感謝しよう。
それから兄の婚約も正式に結ばれた。おめでとうお兄様。
無事2年生になり、今日は新歓パーティーだ。
当日の私の仕事は、入場者数と飲食物の量を管理すること。パーティーの間中ずっと気を抜けない。先輩方は進行、エイデン様は警備の担当をしている。公爵令嬢は新歓パーティー後に生徒会にご加入予定だ。
……あれ?来年は第三王子達が入学されるということは、もっとこの時期手薄になるってこと?……今考えるのはよそう。
今日の私は、ボリュームを抑えたドレスに生徒会の腕章を着けている。制服の方が動きやすいけどそれだと逆に目立ってしまうから。
会場に現れた彼はダークグレーのタキシード姿だった。制服よりも大人びて見える。
友人達とは軽い挨拶しかできなかったけど、みんな応援してくれてるから頑張ろう。
それからの数時間はよく覚えていない。
ひたすら会場を歩き回り足りないものがないか確認し、タイミングを計って指示を出す。私が不慣れなのがいけないのだろうけど、何度も走ってしまいたい衝動に駆られた。
私が淑女としてギリギリ許される速さで頑張っていた時、遠目に警備を担当してるエイデン様を見かけた。何やらご令嬢に苦情を言われているようだ。大丈夫かしらと心配していたら、なんと手を払ってご令嬢を追い払っていた。本当にあの方大丈夫かしら……?
あんな風になれたら楽なのかしら……と変に感心した。
そしてやっと、パーティーが無事お開きとなった。
人の減った会場を見回りながらバルコニーに出た。今日初めて中庭に咲く花をぼんやりと眺める。疲れた。
気配に気づいて振り返ると、エイデン様が立っていた。
「お疲れ様。無事に終えられてよかったですね。そちらは大丈夫でしたか?」
「はしゃいで羽目を外しそうになった奴らがいたが、想定の範囲内だ。お前の方もうまく仕切れていたみたいだな」
「そうね、なんとか。……それよりも貴方、私に対して態度が雑よね?」
ずっと気になっていたことを疲れているついでに聞いてみた。エイデン様は珍しく表情をきょとんとさせた。
「それは……、お互い王宮事務官志望だし、成れたら付き合いも長くなるだろう。だったら面倒は省いた方がいいだろ」
それって、将来同僚になりそうだから、手っ取り早く自分にとってストレスのない関係を築いておこうってことね。まぁ、いいけど……。エイデン様も王宮事務官を目指してたのね。
「生徒会で王宮事務官志望なんて、雑用係の実働部隊だろ。お互いせいぜい働いて、学園長推薦をもらうしかないだろ」
エイデン様は眉間にしわを寄せたまま笑う。私も「そうね」と笑った。
「そう言えば、これを頼まれた」
小さな封筒を渡された。彼の瞳と同じ空色だ。開けるとカードが入っていた。
『生徒会の仕事お疲れ様。君のお陰で素晴らしい時間が過ごせたよ。ありがとう。今度美味しいケーキをご馳走させて』
短い言葉けど、嬉しい。思わず頬が緩んだ。
エイデン様はそんな私を何も言わずに見ていた。
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