上 下
1 / 119

1話

しおりを挟む
1話


っ・・・
瞼が最高に重い。
目を開けることが出来ない。
体もダルく上手く動かす事が出来ない。

俺の体はどうなっているんだ!?

オギャーオギャー!誰か助けてくれ!

やっと声が出せたと思ったら泣き声だと!?
俺は突然の衝撃と動揺で考えがまとまらない。

待て待て!
俺は日本で暮らしていた・・・筈だ!
いたって平凡な生活を送っていた・・・様な気がする?
・・・ぐっ!!
自分の生い立ちを思い出そうとすると、
鋭く激しい頭痛が襲ってくる。

生前だったら耐えられたであろう痛みも、
流石に赤ん坊の俺には耐えられる訳も無く
泣き叫んでしまう。

暫くすると、誰かに抱っこされ、あやされている。
しかしその人物がどう見ても人間ではない。

・・・完全に豚顔のオークだった。

だが、驚く事に俺は先程とは違い、
冷静さを保ったままだった。
確かに少し残念という思いと嫌悪感はあるが、
その反面、当たり前だろ?と思っている所もある。

まあ、そう思うってことは、俺も恐らくオークって事なんだろうな。

なんて難しい事を考えていたら抗えない眠気に襲われ、そのまま意識を失った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

何日経っただろうか?
食っちゃ寝て・・・の
何の変化も刺激もない日々が続いているが、
人間と比べて明らかに違う成長速度で
急速に成長しているのが分かる。
恐らく2週間程度経った位でもう二足歩行が可能となっていた。
4週間程度で戦闘訓練へ連れていかれ、
8週間程度で実戦へ投入された。
どこに居たのか分からないが、俺と同年代だと思われる逞しいオーク達が、真新しい棍棒を持っていた。
勿論その頃には同世代の奴等の体格は俺達を世話したり、訓練をしてくれていたオークと遜色ない位まで成長していた。

・・・俺だけを除いて。

同年代の奴らは、真新しい棍棒を振り回し、体を鮮血で染め上げながら
無慈悲な一撃を獲物へ叩き込み躊躇無く獲物を狩っていく。
自身の食い扶持を確保するために。
自身の更なる成長の為に。

だが、俺は明らかに成長も遅く、
体格もオークとは思えない位貧相だった。

容姿に至っては、オークも人間の感性から言えば
醜いが、まるでオークとゴブリンを混ぜて
更に醜くしたような格好だった。
正直自分で言いたくは無いが、
形容しがたいレベルで醜かった。
冗談抜きで水面に写った自分の姿を見て、
吐き気を催してしまう程醜かった。

当然、体格も力も体力も圧倒的に劣っている俺は、
棍棒も満足に扱えず、狩りに出ても当たり前の様に
足手纏いにしかならなかった。
最初こそ温情をかけられていたが、
時が経つ程、どんどん孤立していった。

そう時間が掛からずに同世代のオーク達からは完全に無視され、すれ違いざまに舌打ちされるのがデフォだった。
だが幸いにも、直接的に暴力を振るわれる事は無かった。

俺もそんな状況を挽回しようとして、
影で血の滲むような猛特訓をしたが、
成長している実感が全くと言って良いほど無かった。
まるで俺の成長限界が此処までかの様に・・・。

なんで俺ばっかりこんな目にあうんだと、
悔しくて悔しくて何百回思ったか分からない。

弱肉強食の縦社会では俺の様な雑魚の仕事は、
誰もやりたがらない最下層の仕事が割り振られた。
一応群のボスから任命・・・と言っても言われただけだが。

それは他のオーク達が食い散らかした
獲物の死体処理だ。
自身で狩りが出来ない為、
食い散らかした死体残飯を卑しくあさり、
俺自身の命を繋ぐ意味も含まれているようだった。

動物であれ、モンスター、魔物だったとしても、
全て等しく亡骸を放置するとアンデット化してしまうらしい。
そのため穴を掘り、埋葬してやることでアンデット化を防ぐ事が出来る。

ある意味、足手まといの雑魚にはうってつけの仕事ってわけだ。

オークの群の施しか、単なる役割分担なのか、
俺には分からない。
こんな仕事をしているのは俺しか居ないので
仕事に関して聞ける相手も居ない。
他のオーク達へ俺が話しかけようとしても、
こんな醜悪な容姿を誰も直視などせず、言葉を交わす事無く、嫌悪感を露骨に出し
足早に何処かへ行ってしまう。
完全に群からは無視されている状態だった。

前世で俺はそんなに極悪非道な事でもしたのか?
だからといって、こんな中途半端な前世の記憶を残し、無駄に卑しく命を繋ぐ事に一体何の意味があるのか。
本当に俺は何のために生きているのか分からない。
さっさとこんなくそったれな人生に幕を下ろしたい。
だが、自殺出来る様な環境ではなかった。
四六時中何処かしらに同胞はいるし、怪しい行動をすれば即座に警告される。
以前仕事でしくじり、アンデット化させてしまった時も、色々な奴等から袋叩きにされたが、
確実に殺されると確信出来る程ボッコボコにされた様な気がしたが、
俺自身が驚く事に再び目を覚ますことが出来た。
完全に全身の骨が砕け、内臓が破裂し、吐血し、呼吸出来ているか怪しく、小指一本すら全く身動き出来ない状況になったが、
とりあえず動けるまでは手厚く・・・
かどうかは分からないが介抱してもらえたようだ。
勿論、目、鼻、口の場所だけ穴が空いた袋を被された上で、全く会話は無いという環境ではあったが・・・。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

晴れときどきモブおじさん

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:6

リモートアイランド〜極上αの統べる孤島の監獄と囚人Ω〜

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:25

【R18】逆上がりの夏の空

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:55

そして還るもの

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:12

華から生まれ落ちた少年は獅子の温もりに溺れる

BL / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:4,279

闇堕ち聖女の軌跡

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:282

最強魔法少女レイナはクズ彼氏に逆らえない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:77

ヤンキーの従姉を更生させるつもりが、俺の方が……

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:398pt お気に入り:1

【改】わたくしの事はお気になさらずとも結構です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:575pt お気に入り:4,202

処理中です...