上 下
25 / 33

だから、教えて④

しおりを挟む
「ジルベルト、その……本当にする、のか」
「うん」

 真上でジルベルトが頷く。こくり、と音でもしそうな仕草にうっかりかわいいと思ったが、その手はアーサーの服を容赦なく剥いている。やっぱりかわいくないかもしれない。
 両想い(推定)のふたりがベッドにいれば、することはひとつ。もともと押しの強いジルベルトである、あっという間に押し倒され、魔力を混ぜられればアーサーは否と言えない。

「君、僕に安静にしろだの、顔色が悪いだのさんざん言ってたくせに」
「……とにかく、外に出したくなかったんだ」

 せめてもの抵抗にそう言い返せば、ジルベルトはきまり悪そうに答える。アーサーは喉の奥で唸った。どうりで体調が良くなってからも世話を焼いてくると思った! すべて口実だったわけである。

「アーサー」
「ん、む」

 覆いかぶさってきた男が、アーサーの唇に吸いついた。角度を変えて唇肉を押し付け、つまむ。舌先で唇のあわいを撫で、そのままより深くへと差し入れた。触れ合ったところからじわじわと熱が広がっていく。
 この男はキスが好きなのかもしれない、とふと思う。これまでもずっと、身体を重ねるときは必ず唇を重ねてきた。
 アーサーは合間になんとか息を継いで、その背を抱きしめる。

「ジルベルトってキス好きだよね」
「……うん」

 少し考え込んだジルベルトは、頷いた。

「確かにそうだ。好きだ」
「そ……そっか」

 好きだ、という言葉に動揺する。頬が熱くなるのがわかった。キスの話だから、と言い聞かせて肩口に顔を埋めた。たったこれだけで動揺するなら、本当に言われたらどうなってしまうのだろう。

「だがこれはキスという行為に対しての好悪か、アーサーが対象だからか、どちらだろう」
「……」

 ああ、やはりジルベルトだ。ムードを期待してはいけない。だが、こういうところも愛しいのだから手遅れだ。いつか従姉が「相手をかわいいって思い始めたらもう手遅れ」と言っていた気がする。本当にその通りだ。
 気長に付き合うしかない。アーサーは首を伸ばしてジルベルトの頬に口づけた。ジルベルトは嫌がらない。

「僕以外とキスしたことは?」
「ない」
「僕以外の誰かとキスしたいと思ったことは?」
「ない」
「……祭りで一緒にいた女の人、とか」

 あ、すごい嫌そうな顔した。

「……あれは、技術交流で来た魔術師だ」
「その割には距離が近かったと思うんだけど」
「向こうが勝手に近づいてきた」

 ふうん、とアーサーは呟く。

「なら、僕とキスしたいと思う?」
「うん」

 即答だった。少し溜飲を下げる。

「じゃあ僕だからじゃないかな」

 だがそれにしてもなんだろう、この恥ずかしい問答。だがジルベルトは納得したらしい。なるほど、と頷いている。

「アーサー」
「ん?」
「キスするのが好きだ。同じ理屈でセックスも好きだ。相手がアーサーだからだ」
「……うん、えっと、気づけてよかったね」
「うん」

 うわ、わ。アーサーは悶えて埋まりたくなった。ジルベルトの物言いはいつだって直球で、情緒に欠けるがアーサーに効く。これで「恋かもしれない」ってどういうことだ。

「アーサー」
「な、なに……」
「好きだ」
「っ」

 思わぬ言葉に固まると、ジルベルトがふむと息を吐く。

「やはり、ぼくが「好き」と言うと反応するな」
「……」
「魔力の波が瞬間的に大きく乱れて、その後も速くなる。いまもそうだ」

 その口調は実験結果をまとめるとき同様に淡々としたもので、試されたのだと気づく。
 それにしたって、気づいても言わないで欲しい。だがジルベルトはその賢い頭を活用してその先まで考察する。まさか、と気づいたように眉を上げた。

「アーサーはぼくに恋しているのか?」
「……」

 本当にやめてほしい。というより、ここまできて気づいていなかったのか、この男は。さすがに気づいていると思っていたのに。

「そうだよ……」

 アーサーも、もはや自棄である。

「好きだよ、ずっと。でなきゃ抱かれたりしない」
「ぼくだけか」
「……そうだよ」

 ほう、という相槌から感情は読めない。だが触れたところから魔力が大幅に乱れたのがわかった。

「アーサー」
「……なに」
「胸のあたりが苦しい」
「えっ」

 顔を上げると、真っ赤な顔があった。あのジルベルトが、赤面している。初めて見た。目を丸くするアーサーに、ずいとジルベルトは身を寄せる。

「アーサー、もう一回好きだと言って欲しい」
「え……す、好きだよ」

 う、とジルベルトは唸った。また魔力も思いきり乱れた。そのままジルベルトはずるずると圧し掛かってくる。

「うわっ、ちょ、重い、えっ」

 ごり、と腹に硬いものが当たる。気のせいでなければ服が湿っているような。

「え、ジルベルト、これ」

 いま、射精した? アーサーに好きだと言われただけで?
 嘘だろう、と思った。そんなことあるのか。呆然としていると、のろのろとジルベルトが顔を上げる。顔どころか耳まで赤い。彼は途方に暮れたように呟いた。

「アーサーに「好き」だと言われると苦しい。どうすればいい」
「……え、えぇ」

 もうこれは恋だろう。もうそれでいいだろう。

「と、とりあえずキス、する……?」
「する」

 間髪入れず飛びついてきた唇は、さきほど以上に熱かった。






 あれよあれよと下衣も下着も脱がされ、足の間を晒す羽目になる。まだ陽の明るいのが恥ずかしくて足を閉じようとするが、がっつり開かされた。容赦というものがない。しかもいままでと違ってジルベルトの視線の熱量が違う、気がする。
 混ざりあう魔力もあいまって、酒を空けたときのように身体が熱をもった。

「こっちも、脱がす」
「え? う、うん」

 いつもならすぐ挿入しようとするのに、今日はなにか違うらしい。
 ジルベルトの手が伸びて、アーサーの上衣のボタンを外す。露になった身体をじっと見られた。その掌がアーサーの胸を覆い、撫でる。薄い皮膚を這う感触はくすぐったく、首を竦めた。不慣れな手つきに、おかしみが募る。
 腹に残る痣に、ジルベルトが一瞬眉をひそめた。ユージェフに殴られたところだ。見た目は目立つが、痛みはだいぶ引いている。

「ジルベルト、好きに触っていいよ」
「……うん」

 ジルベルトがおそるおそる身を伏せ、首筋に顔を埋める。ふ、と吐息がかかってくすぐったい。濡れた感触が肌を伝った。舐められている。耳の下から頸動脈を辿り、アーサーが息を詰めるのを楽しむように硬い歯が掠めた。その間に手は胸をたどたどしく触っていて、柔らかさを確かめるように揉んだかと思えば、指の腹で乳首をつぶしてくる。やわやわと撫でるような触れ方はくすぐったいのに、だんだんそのなかに別のものが混じってくる。

「ひっ」

 乳首を弾かれて腰が跳ねた。びりびりと走った感覚は経験のないもので、ジルベルトも目を瞠る。

「……なるほど」

 ジルベルトが頷いた。なにが「なるほど」なのか、なにを納得したのか。そう問いかける前にジルベルトが胸元に顔を埋めた。べろぉ、と濡れた感触に背が浮く。

「え、あ」

 ちゅぷちゅぷと乳首を吸われ、舌先で乳暈をくすぐられる。そのたびにぞわぞわと腹の下あたりが震えて、アーサーは足をもぞつかせた。とろとろと雄から先走りが垂れて、それが足を伝う感触にすら感じてしまう。

「ジルベルト、まって」
「なぜ」
「うぁ、口つけて喋んないで……」

 おかしい、と脳が警鐘を鳴らす。おかしい。触られただけでこんなふうになるのだろうか。

「好きに触っていいと言った」
「言った、いったけど……あ、っ」

 かり、と軽く歯を立てられて痺れるような快感が走る。軽い気持ちで許したが、もしやとんでもない約束をしたのではないだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

処理中です...