【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒

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番外編

宮廷魔法師団長の選択②

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「当然来て申し訳ないわね。」

「構わないさ。君を拒む扉など、この国にありはしないよ。」

「そう言ってもらえてありがたいわ。早速本題に入りましょう。偽る必要もないから、簡潔に言うわね。」

「何だ?」

「エルーファセ宮廷魔法師団長は、今日限りで団長の地位を剥奪されるわ。」

「え…?」


ディルジアは驚き、目を見開いて口を開けたまま固まった。
そしてすぐに咳払いをして、私を見てきた。


「いや……まぁ、エルーファセが宮廷魔法師団の団長でなくなることは吉報かもしれないが………、何があった…?」


ディルジアの反応は間違っていない。
私は昨日、エルーファセが態度を改めるだろうと伝えていたのだ。
それが急に地位剥奪となれば、何があったのかと聞いてくるのは当然である。


「あのハ……じゃなくて、エルーファセが魔法省でエフェンに対して嫌がらせしようとしていたのよ。そこで彼が魔法省の近くに来た時に、エフェンの方から会いに行き、そのまま戦闘になったわ。」

「戦闘に…?」

「ええ。エフェンの圧勝で終わったから、今頃エルーファセは捕えられているでしょうね。」

「なるほどな。ついにやってしまったのか、エルーファセは。」

「詳細については、もうすぐエフェンから報告があると思うわよ。」

「先に伝えに来てくれたのか。感謝するよリフィ。」

「私も当事者だから、関わりがないとは言えないもの。」


その時、書斎の扉を誰かが叩いた。
気配はどう考えてもエフェンだ。
ディルジアもそれを分かっているようで、名を名乗る前に「どうぞ。」と言って入室を許可した。


「名乗る前に入室を許可するのは、少し危険だと思うけど?」

「どう考えてもエフェンだと分かるだろう。」

「もし私のような変身魔法の使い手だったらどうするんだ…。」

「問題ないさ。リフィも居るのだからな。」

「はぁ……。今日はため息しかついていない気がするよ…。ヴァリフィアから少し聞いていると思うけど、これは詳細な報告書だ。」


エフェンがディルジアに手渡した書類には、エルーファセについての事が書かれていた。
事の顛末が詳細に記され、普通ならばこの短時間で準備出来ないはずの文字量と文の丁寧さ、そして正確さだった。
まるで初めから準備していたかのようだが、これがつい先程書かれたものだと私は知っている。
頭の回転が早いエフェンは、魔法を使って一瞬で報告書などを作成することが出来るのだ。
仕事の効率化の為に一部の者に教えたらしいのだが、魔法を発動させた状態で文章を考えることは、誰も出来なかった。
当然と言われれば当然なのだが。
私は出来たが、エフェンほど頭の回転が良いわけではないので、使う機会はほとんどない。


「……自業自得だな。処分はそちらに任せても?」

「構わない。もとよりそのつもりだ。」

「なら、新しい宮廷魔法師団長もエフェンが決めてくれ。私としては、宮廷魔法師全体を見直してくれるとありがたい。」

「了解だ。良い魔法師団となるよう最善を尽くすとしよう。では私は失礼するよ。仕事が増えたしな。」

「ああ。また何かあれば言ってくれ。」

「私も失礼するわ。少し用が出来たからね。」

「分かった。2人とも助かったよ。これでまた国が良くなるだろう。」


その言葉を聞いた後、私とエフェンは同時に書斎を退室した。
目的地までの道のりはほぼ同じなので、エフェンと歩きながら話す。


「動いた甲斐があったわね。まぁ、エフェンはまだ終わっていないけれど。」

「宮廷魔法師を見直さなくてはならないからな。それで、ヴァリフィアはこれから奴の所へ行くのか?」

「そうよ。様子でも見に行こうかと思って。牢に入れられているのよね。」

「ああ。私は見に行かなくてもいいと思うがな。」

「…?まぁ何かされる危険性は無いから、別にいいでしょう?」

「見に行くのは構わないさ。ただ殺さないようにな。」

「殺すわけないじゃない。では行ってくるわね。」


私はその場を転移魔法にて離れ、エルーファセのいる場所へと移動した。
看守の案内のもと、薄暗い廊下を歩いていく。
すると、少し広い牢が見えてきた。
魔法を封じる効果を持つ牢だ。


「ここです。」

「案内ありがとう。」

「とんでもございません…!では失礼致します。」


看守が去っていくのを見送り、牢に向き直る。
私が来たことに気付いたエルーファセが、笑みを浮かべた。


「まさか王妃陛下が会いに来られるとは、私も驚きですよ。」

「私も驚いたわ。あなたがここまで馬鹿な行動をしたことにね。」

「……馬鹿な行動…ですか。なら、陛下に私の気持ちが分かるのですか?部下を……」

「分からないわ。」

「なっ!」

「分かる必要はないし、そもそも知る必要がないもの。」


私の言葉に、エルーファセは怒りに満ちた表情になる。
最後まで聞かずとも、何を言おうとしたのかは分かることだ。
おそらく今までの自分の苦労話を聞かせ、私の同情を誘おうとしたのだろう。
そんなもの、聞きたくもない。

エルーファセは、歳下のエフェンが魔法大臣になったことが気に食わなかった。
だからこそ、逆らえないならギリギリの範囲で嫌がらせをしようと思ったようだ。
嫌味を言ってきたり、近衛騎士団の仕事を奪ったり…。
エフェンはあえて無視し、怒りを募らせたエルーファセが不正でもしないかと期待したが、無駄に終わった。
とはいえ今回の事があった以上、結果オーライと言えるかもしれないが。


「……お前さえ…、お前達さえいなければ、こんな事にはならなかったのだ…!」

「それはどうでしょうね。」

「…なんだと?」

「この世界……いいえ、この国にあなたより強い人は普通にいるわよ。」

「……何が言いたい?」

「私達が動かずとも、いずれあなたは捕まっていたということね。」

「言ってくれる。この私が捕まることなど、有り得なかったのですよ。それは陛下もお分かりでしょう?」

「確かに不正をしていた、なんてことはなかったわ。でも、証拠を作る方法は幾らでもあるのよ。誰かが陥れようと動いていたかもしれないのだからね。」

「何があろうと、返り討ちにしてやりますよ。」

「そう…。」


エルーファセは知らない。
裏で様々な人間が動いていたことを。
近衛騎士団に所属する貴族出身の者が、実家に宮廷魔法師団についてのことを知らせ、秘密裏に調べを進めていたのだ。
動いていた貴族は3つで、貴族の中でも有力者だった。
そしてそれだけではない。
ディルジアの命により、私とエフェンを除けば王国内1位の実力者である『ネアス・コルワーヌ』が、エルーファセの周辺を調べていたのだ。

これらの情報は、勿論エフェンから聞いたもの。
エルーファセの実力では、知ることなど出来ようはずもない事実だった、
私もネアスが動いていることは知っていたが、有力貴族が動いていることは知らなかった。
その気になれば、王国で起こっている事全てを把握することが可能だが、そんな面倒なことはしない。
その事柄に適した人がするのが1番なのだ。
私は魔法好きなただの王妃。
エフェンのように情報収集・管理などをしているわけではないので、彼から直接聞くだけで十分なのである。


「昨日、私達に手を出せば本気を出すと言ったけれど、エフェン大臣の機嫌が良くて助かったわね。下手をすれば死んでいたかもしれないのだから。」

「私が死んでいた?陛下は冗談が上手い。私が宮廷魔法師団長である以上、殺すことなどしないと思いますがね。」

「あなたは自分の行いが悪いと思っていないのかしら?……そもそも、悪いと思っていたらこんなことしないわよね。」

「はい?何を言っているのか聞こえませんが、私が何をしようと私の勝手でしょう。私に合わせない周りが悪いのですよ。言うことを聞かない宮廷魔法師なんて必要ありません。」

「なるほど……、反省の様子は欠片も無いようね。」

「あの時、奴に勝ててさえいれば……!」


拳を握りしめ、歯軋りするエルーファセ。
怒っている様子から、後悔も反省もしていないと分かる。
慈悲を与える必要の無い人とは、こういう者のことを言うのだろう。


「あなたが彼に勝てるわけないじゃない。」

「そんなはずはない!奴は私より弱いんだ。何か卑怯な手を使ったに違いない!私が……ッ!?」


私は殺気を放った。
エフェンを侮辱したも同然のエルーファセに、憤りを感じたからだ。


「--あら、この程度の殺気にも耐えられないとは。」

「くっ……はぁ、はぁ、………。こんな場所で殺気を放てば他の奴らが!」

「問題ないわ。殺気を向けたのはあなたにだけだもの。問題になるような行為はしていない。それよりも、自分の心配をしたらどうかしら。」

「なに……?」

「魔法大臣だけれど、友人でもあるエフェンを侮辱されて黙っている私ではないのよ。」

「ッ…。」

「もう二度と会うことはないでしょうから、私からの餞別よ。ありがたく受け取りなさい。」

「なっ……あ………くッ…!?」

「ふふっ。たっぷりと楽しみなさい。……エフェンが殺さないようにと言ってきた理由が分かった気がするわね…。まぁもう気が済んだけれど。」


私はその場を去った。
エルーファセにかけた魔法の効果は、
『現実の5分を1時間に感じさせ、その間ずっと拷問を受け続ける感覚を与える』という、幻覚魔法の一種だ。
半日や1日に感じさせることも出来たが、そこまでしてしまうとエフェンが何かをする前に、エルーファセの精神が壊れてしまいそうな気がした。
なのでかなり少ない1時間程度にしておいた。
私に怒りを覚えるでしょうね。


「ヴァリフィア陛下、話は出来ましたか?」

「ええ。あ、彼は5分ほど唸っていると思うけれど、気にしないでね。」

「え、……は、はっ!承知致しました!」

「では失礼するわね。」


私は転移魔法にて王城へと戻った。

翌日--
何故かエフェンに話があると、念話魔法で呼び出された。
特に忙しいわけではなかったので、魔法省へと転移する。


「それで、話って何?」

「わざわざ来てもらって悪いね。魔法省を離れられそうになかったから、呼んだんだ。いつ来てくれても良かったんだけど、まさかすぐに来るとは…。」

「私だって暇じゃないわよ?」

「ま、まぁまぁ怒らないでくれ。簡潔に話すから。--私が聞きたいことは1つだ。ヴァリフィア、エルーファセに何をした?」

「あ……。」
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