【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒

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番外編

近衛騎士団、特別強化①

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--ある日--



「国王陛下、ヴァリフィア並びにエフェン・アーリグェー、お呼びとのことで参りました。」

「入れ。」


私はディルジアに呼び出しをされ、書斎へと来ていた。
隣に居るエフェンも同じ様子。
何か頼み事があるのだろうと、軽い気持ちだったのだが…。


「よく来てくれたね。」

「ディア、本題に入る前にひとつ聞きたいのだけれど。」

「何だい?」

「少し、魔法を使ってもいいかしら。危ない魔法ではないから安心して。」

「許可するよ。」

「ありがとう。」


魔力反応があった為、パチンッと私は指を鳴らす。
すると誰もいなかった場所から、人が現れた。
ディルジアの少し後ろに2人立っている。


「あはは……やはりバレていたか。」

賢華義姉さんには敵わないなぁ…。」

「その程度の隠蔽魔法では、私の目は欺けませんよ、シュン義兄様、レイ。」


立っていたのはディルジアの兄弟、
元第1王子であり今は『王兄殿下』のシュレンジア・ツィレイルと、
元第3王子の今は『王弟殿下』、レイジア・ツィレイルだった。
家族となった証に愛称で呼んで欲しいと頼まれ、この呼び方になっていた。
そして彼らは私のことを『リフィ』と呼んでいる。

シュレンジアが人払いをした為、何か重要な案件かと思いエフェンと2人で身構える。


「そんなに固くならないでくれ、リフィ。」

「シュン兄さんの言う通りだ。そう身構える必要はないよ。」

「そうですよ義姉さん。少し手伝って頂きたいだけですから。」

「「?」」


3兄弟は少し笑みを浮かべながら、しかし真面目な表情で私とエフェンを見ている。
その様子に、より強く身構えてしまう。
そしてそれは正解だった。


「端的に言うと、我が国の兵士達に魔法を……」

「「却下よ(だ)。」」


ディルジアが全てを言い切る前に、私とエフェンは同タイミングで断った。
その理由は簡単だ。


「まだ最後まで言ってないじゃないか…。」

「ディル。私やヴァリフィアの魔法を教えるとなると、国家間の軍事バランスを崩しかねない。戦争でもするつもりか?」

「まさか。平和が一番だと分かっていて、自ら地獄へ足を踏み入れるような真似はしないさ。」

「なら何故?」


エフェンはディルジアを鋭く睨む。
私も無言で見つめていた。

確かに私達が魔法を教えれば、兵士達は飛躍的に強くなるだろう。
つまり軍事力も桁違いに上がる。
だがそれは、国家間の軍事力のバランスが崩れるということだ。

1つの国が強い力を持てば、周辺諸国が警戒するのは当然だ。
そして勢力を拡大させる前に、他国と同盟を結び協力して潰すという行動に移る可能性もある。
しかし心配はいらないとディルジアは言う。


「2人が考えているようなことではなく、単純に一度だけ模擬戦をしてもらいたいんだ。」

「つまりディアが頼みたい事は、兵士達に魔法を叩き込む……私とエフェンで彼らを攻撃してくれないか、といったところかしら。」

「その通りだよ。強敵を想定した訓練をしてもらいたくてね。」

「……。」

「……。」

「2人とも、どうしたんだ?」

「「面倒ね(だな)。」」

「…え?」


私とエフェンの同時に出た言葉に対し、ディルジアは驚いて顔が固まっていた。
正直に、面倒だった。
つまりこれは本音だ。
本音がつい漏れてしまったのだ。


「えっと……断られるのか…?」

「…ディア、貴方が言う『この国の兵士達』って、騎士団や宮廷魔法師達も含まれるのかしら?」

「…?そうだが…。」

「なら、この国に『兵士達』とは、一体何人いるんだ?」

「万を軽々と超えるな。」

「つまり私達はそれだけの人数を相手にしなければならないということ?」

「そうなるな。」

「「……はぁ…。」」


私とエフェンが交互に質問をし、ディルジアが答えていく。
何の問題もないだろうという様に、淡々と答えている。
しかし問題なんて大ありだ。
それだけの人数が入れる訓練場など、世界のどこを探しても無い。
かと言って国境付近で訓練するわけにもいかない。
それになにより、面倒なのだ。
これが一番の理由。


「悪いが、私達はそんなに暇ではないぞ。」

「なら近衛騎士団だけでもいい!少しでいいから……少しで…!」

「私からもお願いしたい。リフィ、エフェン。どうか引き受けてはくれないだろうか…?」

「僕からも…。近衛騎士団は強いのですが、宮廷魔法師達には敵いません。しかし同等の実力にさせたいのです。」


3人の必死さが伝わってきた。
確かに最近こんな噂を耳にする。
『宮廷魔法師達は、近衛騎士団よりも自らが強いと確信し、勝手に騎士団の仕事を行う為、両者の間に溝ができている。』
というものだ。
騎士達も魔法を扱うが、宮廷魔法師達との差は歴然。
剣が届く距離に近寄れないが為に、騎士団の方がどうしても弱くなってしまう。


「これ以上宮廷魔法師達を暴走させるわけにはいかないし、位としては騎士団と同格の存在だ。だからせめて、近衛騎士団だけでも…!」

「……分かった。」

「本当か!?」

「ああ。近衛騎士団ヴァーツィのみの相手なら…だ。」

「そうね…。模擬戦とはいえ、万を超える相手と戦える場所なんてないし、戦いたくもないわ。それこそ、これだけの人数と戦うのは戦争くらいでしょうね。」


近衛騎士団『ヴァーツィ』。
それはこの国で最も強い騎士達が所属する騎士団だ。
彼らは魔法と剣を上手く利用した戦術を用いる。
人数は20人程度。
選び抜かれた優秀な者のみで構成されている。


「近衛騎士団のみで構わない。それでよろしく頼む。」


ディルジア達は安堵の表情を見せる。


「いつ模擬戦してやればいいんだ?」

「いつでもいいさ。早ければ明日にでも。」

「了解。なら明日にしてくれ。ちょうど空いているからな。」

「私も明日は問題ないわ。」

「では明日2人が訪ねると、騎士団長に伝えておこう。引き受けてくれてありがとう。」

「「どういたしまして。」」

そうして、私とエフェンは書斎をあとにするのだった。
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