【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒

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番外編

盗賊団

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~10年後~


私は今、馬車に揺られていた。
商人に扮して、お忍びで外出中だったのだ。
その帰り、夕暮れ時の道を走っていると、少し遠くの方から女性の悲鳴が聞こえた。
私は馬車を止めさせ、待っているように命令する。


「貴方達はここで待っていて頂戴。」

「ですが、貴方様に何かあればっ!」

「これは命令です。拒否しようものなら、力ずくでこの場に留まってもらうわよ?」

「っ……。」

「心配しないでいいわ。私を誰だと思っているの?」

「…承知致しました。お気をつけて。」

「ええ。」


私は急いで悲鳴が聞こえた場所へと向かう。
変身魔法で、姿と服装は変えてある。
子連れの女性が、盗賊に襲われているようだ。
盗賊の数は十数人。
2人を囲むようにして、じりじりと詰め寄っている。


「どうかっ…どうか見逃してくださいっ……!」

「あぁ?見逃すわけねぇだろ。」

「かしらァ!そのガキ、高く売れそうですぜ。」

「そのようだなぁ。よし、2人まとめて生け捕りにしろ!」

「「「おぅ!」」」


飛びかかる盗賊達。
しかし見えない何かにぶつかって、弾き返される。
そう、私の結界だ。
2人を守る為に、見えた瞬間に発動しておいた。


「なっ!?」

「ぐっ…!」

「攻撃が当たらねぇどころか、弾き返さるぞ!?」

「お前達何をしている!さっさと捕らえんか!」

「それが無理なんですぜ。」

「何ィ!?」

「見えない何かに当たって、弾き返されるでやんす!」

「はぁ?何を馬鹿なことを……うおっ!?」


盗賊から頭と呼ばれている男が、2人を剣で斬りかかろうとしたが、私の結界に阻まれる。
驚いた声を上げ、今度は手で触れようとする。
結界は悪意ある攻撃を弾くようにしてある。
それが故に、男の手は結界に当たって止まった。


「これは…結界か?!まさか、このガキ……魔法使いじゃ…。」

「残念、はずれよ。」

「何者だっ!」

「こんにちは。もうこんばんはかしら。」

「誰だ貴様は。」

「私は通りすがりの魔法使いよ。」

「何っ?まさかこの結界は……。」

「その通り。これは私の結界魔法。悪意ある者の攻撃を防ぐもの。」

「ちっ…!」

「貴方達こそ何なのかしら?盗賊?」

「ふっ、俺達の前に姿を表したことを後悔するがいい!我らの名は『狼影盗賊団』だっ!」

「っ……。」

「恐ろしさに言葉を失ったか?」

「~~っくくく……ふふっ!」


思わず笑ってしまった。
ラノベによくある盗賊団の名乗りシーン。
こういう奴らは大抵、すぐに捕らえられて終わる。
まさか本当にいるとは思わなかったけれど。


「何を笑っている!我らは盗賊団だぞ!」

「……っくく!恥ずかしげもなくそういう名を名乗る奴らが本当にいたのね…ふふっ。小説の読みすぎじゃない?」

「何を言っている!」

「まぁいいわ。さて、貴方達は盗賊…でいいのよね。」

「そう言っているだろう!」

「なら捕らえるまで。」

「たった1人で、この女とガキを守りながら十数人相手出来るとでも?」

「ええ、問題ないわ。もう終わっているもの。」

「何っ!?」


盗賊団の頭が後ろを振り向くと、謎の光が盗賊達を捕らえていた。
身動きが一切許されていない。
声も発せずにいるようだ。
それもそのはず。
魔光縛に声封じをかけたのだ。
例えどれほど強い者だろうが、私の魔法からは逃れられない。


「さて、あとは貴方だけね。」

「ま、ま待ってほしい!お願いだ!悪いことはもうしない、だから見逃してくれぇ!」

「いいでしょう。」

「ほっ……。」

「なんて言うとでも思った?最近こんな噂を聞いたの。『王都から少し離れた森で盗賊団が出るらしく、その森の道を進む行商人や森の実りを採っている人々を襲っている。』という噂よ。正しく、貴方達の事よね。そういうわけだから、逃がす気なんてさらさらないわ。」

「クソっ……!」

「そこで大人しくしてなさいな。」

「あ、あの!助けていただき、ありがとうございます。」

「ありがとう、お姉ちゃん!」

「どういたしまして。」

「お礼をしたいのですが、今は手持ちが何も無くて……。」

「いいのよ。気にしないで。」

「せめて、お名前だけでもお教えいただけませんか!?」

「私は通りすがり魔法使い……ただの令嬢よ。申し訳ないのだけれど、そこの盗賊共を憲兵に引き渡してもらえないかしら?ここから歩いて数分のところに、彼らがいるはずだから。では私はもう行くわ。」

「えっ、あのっ……!」

「行っちゃったね。」

「そうね…。」


私はその場を離れる。
そして馬車へと戻り、王城へと帰った。

翌日、私の自室にエフェンが訪ねてきた。
笑顔で入ってきたのだが、その笑顔がとても怖い。
エフェンは現在、魔法省の魔法大臣になっていた。
アーリグェー公爵家を継ぎ、4年前に魔法大臣となったのだ。
10年前からの有言実行とは、流石である。


「少し外してもらえるかしら。」


私が侍女に向けてそう言うと、彼女は一礼をしてから退出した。


「さて、王妃陛下?何をしているのかなぁ~?」


5年前。
ディルジアが国王の座につき、私は本当に王妃となってしまった。
行動が制限されるのが嫌で、ディルジアに頼んで出来る限り自由にしてもらっている。
王妃としての仕事を素早く終わらせ、魔法の研究をしたり、城下に出向いているのだ。


「怖い怖い。近いわよ。」

「ん~?」

「分かったから、離れて頂戴!」

「はぁ。私の身にもなってくれ。『憲兵に噂の盗賊団が捕らえられたと報告があり、引き渡しをした女性は謎の貴族令嬢に助けられたと言う。その令嬢にお礼がしたいから、魔法の残滓を魔法省の方で調べてくれないか』……と頼まれたんだぞ。」

「そうなのね。」

「そうなのね、じゃない!現場を見に行かずとも、『魔光縛』で捕らえられていたからヴァリフィアだと気付いたが…。余計な仕事を増やさないでくれ。」

「良いじゃない。王国の為に盗賊団を捕らえただけよ?」

「だったら自分で最後まで始末してほしいものさ。」

「だって……面倒なんだもの。」

「そんなことだろうと思ったよ。王妃が動いていた、なんて噂されては、こちらとしても面倒だからな。この件は上手く言っておくよ。これからはくれぐれも、勝手な真似はしないでくれ。」

「分かっているわ。ありがとう、エフェン。」

「どういたしまして。ではな。」


エフェンが退出すると同時に、侍女のイルナが入ってくる。
無言で紅茶を用意してくれた。
昔から、気が利く良い人である。


「魔法大臣も大変なのね。今度差し入れでも持っていこうかしら。イルナ、頼める?」

「かしこまりました。では、何時でも王妃陛下が魔法省へ向かえるよう、差し入れを準備しておきます。エフェン・アーリグェー様の分だけで、よろしいでしょうか。」

「ええ、よろしくね。それと、今は私とイルナしか居ないのだから、そうかしこまらなくていいのよ。」

「そういうわけには参りません。かつてのお嬢様は今や王妃陛下。何時いかなる時も、気は抜きません。」

「そう…少し寂しいものね。」


イルナは私が王妃になった後も、私付きの侍女として一緒に居てくれている。
知らないメイドに頼むよりも、安心かつ気を緩められる。


「さて、王妃としての残りの仕事を終わらせないといけないわね。」


私は再度気を引き締め、仕事に取り掛かるのだった。
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