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最終話
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数日後のある日。
私はヴィアルスが追放された地に近い街に来ていた。理由は視察だ。
野盗の被害が多数出ているので、食料や生活必需品が足りているかなどを確かめに来たのだ。お義父様の代理ということになっている。
「この街は問題ないようね。」
「はい。この近くに生産地があるからでしょう。街の中に野盗は入って来れませんから。」
「そうね。」
私には護衛が3人と、視察の補佐が1人ついている。
彼の言っている生産地とはヴィアルスが追放された地だ。時間があれば少し見に行こうかと思っているが、他にも視察しなければならない街があるので無理だろう。
こればかりは仕方がないので馬車に戻ろうかと思っていたのだが……
「おいっ!」
後ろから私を呼び止める、聞き覚えのある声がした。
私は振り返り、誰かを目視して驚いた。しかしその者から発せられた怒ったような声に、反応した護衛の騎士達が私を守るように前に立ちはだかる。
「何者だ……!」
「こ、この方は…。」
「剣を収めなさい。」
私は護衛にそう命令した。それと同時に合図もする。『警戒しろ』と手で表し、何かあった際はすぐに剣を抜けるようにという意味だ。
人目につかない方が良いので、とりあえず人気の無い場所に移動した。
「お久しぶりですね。」
「ああ、久しぶりだな。今では王国内の視察を任されるほどになっているとは驚きだ。」
「私よりもエイルス殿下の方が、とても頑張っておられますよ。」
「チッ…。」
弟と比べられたからか、ヴィアルスの機嫌が悪くなる。相変わらず感情が読みやすい。
「それで?かつてあなたが無能と呼んだ私に、何か用ですか?もう無能とは呼ばせませんが。」
「「「!!!」」」
私の言葉に、護衛や補佐の方が驚いた表情になった。
それもそのはず。今や私は宰相たるお義父様の補佐だ。仕事が出来るかつ信頼出来る者でなければ側に置かないと言われているお義父様。その最も近い補佐の立場であるが故に、(自分で言うのは何だが…)私が有能であるということは周知の事実となっているのだ。
しかしヴィアルスが『無能』と呼んでいたことを知り、彼らは驚いたのだろう。だが何も言わない。会話に口を挟んではいけないと察することが出来ている証拠だ。
「……父上…いや、国王陛下に伝言を頼みたい。」
「伝言?」
「私は平民共と働かされ、彼らに酷い扱いを受けているんだ…。もう十分に反省している!だから私を、もう一度家族として迎えて欲しい……と。」
「……。」
この男は何を言っているのだろうか?
もう一度家族として迎えて欲しい?この言葉の意味は、王族に戻りたいということになる。
罪人として国王陛下に廃嫡されたというのに、反省しているからと言って「はいそうですか」と王族に戻すなど出来るわけがない。
ちらっと監視役の衛兵を見ると、目を瞑って首を横に振っている。それに……
「平民共…と言いましたね。」
「それが何だ?」
「そう言っている時点で、反省などしていないと分かります。貴族も平民も、生まれは違えど同じ王国の民です。あなたは昔から貴族ではないからと民を見下しているのですよ。」
「……。」
王族と貴族は民の上に立つ者。それだけで偉いと勘違いしている者がいるのも事実だ。
もしかすると私も平民として生まれていたかもしれない。そう考えると、貴族も平民も何も変わらない『民』と言えるのだ。
だからこそ私は、上に立つ者であれば民達が幸せに暮らせる場を提供する必要があると考えている。それが私達の仕事だ。国王陛下やお義父様もそう仰っていた。
ヴィアルスは歯を食いしばり、失敗したという顔をしている。まぁ調査報告書を見て現状は全て知っているのだが…。
「伝言はお伝えしないのでそのつもりで。それはそうと、何故ここにいるのですか?」
「…肥料を買ってこいと言われたんだ。この私に雑用など…、自分で行けばいいものを。監視がいなければ言うことなんて聞くものか。」
ただの思春期の男子にしか見えなくなってきた…。既に20歳を超えているのだが、中身はまだまだお子様の様だ。
確かにヴィアルスは衛兵の言葉を無視出来ないのだろう。武器を持っていないヴィアルスは、剣を持つ監視役の衛兵に容易に脅される。ただ監視しているだけではなく、民達の言うことを聞かない場合にも備えているのだろう。
「……もっと扱き使われれば良いでしょう。」
「…何だと?!」
少し迫ってきたヴィアルスに対し、私の護衛達が圧をかける。
お義父様が信頼しているだけあって、頼もしい方達だ。少し睨みを利かせるだけで威圧感が桁違いになる。
「今のあなたの立場…、理解しているのですか?廃嫡、そして追放の意味を。」
「……どういうことだ。」
「はぁ……相も変わらず素晴らしい頭脳をお持ちのようですね。」
追放された今でも、平民よりは地位が上だとでも思っているのだろうか…。
全く…笑わせてくれる。
「…あなたは廃嫡され辺境の地に追放された。それは罪を犯したからです。」
「わかっているさ。貴様の所為で私は…!」
「そして追放先で民達に尽くすよう陛下から命令されている…。これはつまり、一生罪人として扱われるという意味なのですよ。」
「なっ…!」
「もう分かりましたか?あなたは事実上、平民以下の扱いなのです。」
再度歯を食いしばり、拳も握っている。
「衛兵さん、これからもよろしくお願いします。」
「はっ、勿論にございます。国王陛下のご命令でもありますので。」
「ふふっ、それもそうね。ではごきげんよう、ヴィアルス。」
「…私を呼び捨てで呼ぶなど!」
「あら?今身分の話をしたところなのだけれど…。まぁいいわ。しっかりと民達に尽くしなさい。」
私は身を翻し、後ろから聞こえてくる声を無視してその場を立ち去った。
ヴィアルス達の刑が確定してから数日後にセレス姉様の名誉は挽回され、社交界に無事復帰することも出来ている。
今ではエイルス殿下の補佐をしつつ、お2人は幸せそうに毎日を送っていた。
セレス姉様の名誉挽回と幸せにするという私の願いも達成され、ヴィアルスの屈辱にまみれた顔を見られたのだ。
私はかなり満足している──
私はヴィアルスが追放された地に近い街に来ていた。理由は視察だ。
野盗の被害が多数出ているので、食料や生活必需品が足りているかなどを確かめに来たのだ。お義父様の代理ということになっている。
「この街は問題ないようね。」
「はい。この近くに生産地があるからでしょう。街の中に野盗は入って来れませんから。」
「そうね。」
私には護衛が3人と、視察の補佐が1人ついている。
彼の言っている生産地とはヴィアルスが追放された地だ。時間があれば少し見に行こうかと思っているが、他にも視察しなければならない街があるので無理だろう。
こればかりは仕方がないので馬車に戻ろうかと思っていたのだが……
「おいっ!」
後ろから私を呼び止める、聞き覚えのある声がした。
私は振り返り、誰かを目視して驚いた。しかしその者から発せられた怒ったような声に、反応した護衛の騎士達が私を守るように前に立ちはだかる。
「何者だ……!」
「こ、この方は…。」
「剣を収めなさい。」
私は護衛にそう命令した。それと同時に合図もする。『警戒しろ』と手で表し、何かあった際はすぐに剣を抜けるようにという意味だ。
人目につかない方が良いので、とりあえず人気の無い場所に移動した。
「お久しぶりですね。」
「ああ、久しぶりだな。今では王国内の視察を任されるほどになっているとは驚きだ。」
「私よりもエイルス殿下の方が、とても頑張っておられますよ。」
「チッ…。」
弟と比べられたからか、ヴィアルスの機嫌が悪くなる。相変わらず感情が読みやすい。
「それで?かつてあなたが無能と呼んだ私に、何か用ですか?もう無能とは呼ばせませんが。」
「「「!!!」」」
私の言葉に、護衛や補佐の方が驚いた表情になった。
それもそのはず。今や私は宰相たるお義父様の補佐だ。仕事が出来るかつ信頼出来る者でなければ側に置かないと言われているお義父様。その最も近い補佐の立場であるが故に、(自分で言うのは何だが…)私が有能であるということは周知の事実となっているのだ。
しかしヴィアルスが『無能』と呼んでいたことを知り、彼らは驚いたのだろう。だが何も言わない。会話に口を挟んではいけないと察することが出来ている証拠だ。
「……父上…いや、国王陛下に伝言を頼みたい。」
「伝言?」
「私は平民共と働かされ、彼らに酷い扱いを受けているんだ…。もう十分に反省している!だから私を、もう一度家族として迎えて欲しい……と。」
「……。」
この男は何を言っているのだろうか?
もう一度家族として迎えて欲しい?この言葉の意味は、王族に戻りたいということになる。
罪人として国王陛下に廃嫡されたというのに、反省しているからと言って「はいそうですか」と王族に戻すなど出来るわけがない。
ちらっと監視役の衛兵を見ると、目を瞑って首を横に振っている。それに……
「平民共…と言いましたね。」
「それが何だ?」
「そう言っている時点で、反省などしていないと分かります。貴族も平民も、生まれは違えど同じ王国の民です。あなたは昔から貴族ではないからと民を見下しているのですよ。」
「……。」
王族と貴族は民の上に立つ者。それだけで偉いと勘違いしている者がいるのも事実だ。
もしかすると私も平民として生まれていたかもしれない。そう考えると、貴族も平民も何も変わらない『民』と言えるのだ。
だからこそ私は、上に立つ者であれば民達が幸せに暮らせる場を提供する必要があると考えている。それが私達の仕事だ。国王陛下やお義父様もそう仰っていた。
ヴィアルスは歯を食いしばり、失敗したという顔をしている。まぁ調査報告書を見て現状は全て知っているのだが…。
「伝言はお伝えしないのでそのつもりで。それはそうと、何故ここにいるのですか?」
「…肥料を買ってこいと言われたんだ。この私に雑用など…、自分で行けばいいものを。監視がいなければ言うことなんて聞くものか。」
ただの思春期の男子にしか見えなくなってきた…。既に20歳を超えているのだが、中身はまだまだお子様の様だ。
確かにヴィアルスは衛兵の言葉を無視出来ないのだろう。武器を持っていないヴィアルスは、剣を持つ監視役の衛兵に容易に脅される。ただ監視しているだけではなく、民達の言うことを聞かない場合にも備えているのだろう。
「……もっと扱き使われれば良いでしょう。」
「…何だと?!」
少し迫ってきたヴィアルスに対し、私の護衛達が圧をかける。
お義父様が信頼しているだけあって、頼もしい方達だ。少し睨みを利かせるだけで威圧感が桁違いになる。
「今のあなたの立場…、理解しているのですか?廃嫡、そして追放の意味を。」
「……どういうことだ。」
「はぁ……相も変わらず素晴らしい頭脳をお持ちのようですね。」
追放された今でも、平民よりは地位が上だとでも思っているのだろうか…。
全く…笑わせてくれる。
「…あなたは廃嫡され辺境の地に追放された。それは罪を犯したからです。」
「わかっているさ。貴様の所為で私は…!」
「そして追放先で民達に尽くすよう陛下から命令されている…。これはつまり、一生罪人として扱われるという意味なのですよ。」
「なっ…!」
「もう分かりましたか?あなたは事実上、平民以下の扱いなのです。」
再度歯を食いしばり、拳も握っている。
「衛兵さん、これからもよろしくお願いします。」
「はっ、勿論にございます。国王陛下のご命令でもありますので。」
「ふふっ、それもそうね。ではごきげんよう、ヴィアルス。」
「…私を呼び捨てで呼ぶなど!」
「あら?今身分の話をしたところなのだけれど…。まぁいいわ。しっかりと民達に尽くしなさい。」
私は身を翻し、後ろから聞こえてくる声を無視してその場を立ち去った。
ヴィアルス達の刑が確定してから数日後にセレス姉様の名誉は挽回され、社交界に無事復帰することも出来ている。
今ではエイルス殿下の補佐をしつつ、お2人は幸せそうに毎日を送っていた。
セレス姉様の名誉挽回と幸せにするという私の願いも達成され、ヴィアルスの屈辱にまみれた顔を見られたのだ。
私はかなり満足している──
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