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第42話

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『負の牢』。
それはこの王国で最も最悪な場所と言われている。
薄暗く、地下牢と似たような雰囲気の場所なのだが、淀んだ空気によってより一層不気味さが増しているのだ。
そしてその牢では物が勝手に動き出したり、唸り声が聞こえてくることもあるのだとか。
聞いた話では、何かに取り憑かれたように人格が変わった者もいたらしい。そのような場合は負の牢から一定以上遠ざけることで、元に戻ったそうだ。
極め付きは悪夢を見ること。つまりは寝ても覚めても気が抜けない場所なのである。
あまりにも危険な為、国王陛下が許可しなければ使用されることもない。


負の牢がある場所は、百十数年前に死刑が執行されていた牢なのだ。その他にも投獄されていた者達が拷問を受けていたという記録も残っている。
死んだ者の魂が今なお彷徨い続けていると言われ、これらが不可解な現象の原因と考えられていた。

誘拐だけでなく軟禁までしたからこそ、おそらく陛下はこのような判断をされたのだろう。
とはいえ負の牢に1ヶ月間入れば何が起こるか分からない為、1週間に一度は牢から出されることとなっている。


「自らが行ってきたことの返しが、今起きているだけのことでしょう。」
「私は悪い事などしていない!」
「それはもう聞き飽きました…。諦めて素直に従えば良いのです。」
「なんだと!?」


全く反省の色が見えない。しかし、だからこそ負の牢に入ればすぐに折れるだろう。
気が強い者ほど、攻撃を受けやすいと聞いたことがあるからだ。


「…そういえば、昨夜エイルスから聞いたな。私がセレスティナに濡れ衣を着せなければ、こんなことにはならなかっただろう…と。」
「…エイルス殿下が?」
「ああそうさ。」


今や次期国王となることが確定しているエイルス殿下には、ヴィアルスに関わる計画を何も伝えてはいない。
実の兄を廃嫡させる計画なのだ。何も知らない方が良いと考えてのことだった。
しかし何故かエイルス殿下は知っている様子…。
セレス姉様が教えたか、殿下自身で気付いたかの2択だろうが、おそらく前者のはず。後者ならば、国王陛下よりも注意すべき人だったということになる。
今さらなので、どちらでも構わないが…。


「意味は知らんが、あいつはそう言っていた。」
「…本当にその通りですね。……出来ることならば、直接セレス姉…、セレスティナ様に謝罪して欲しいものです。」
「何を言っている?」


悪びれる様子の無いヴィアルスの態度に、怒りが込み上げてくる。


「……あなたが濡れ衣を着せなければ、セレスティナ様がこの地下牢に3年間も入れられることはなかった…!」
「私はライバルを減らす為に利用しただけだ。その程度、何も悪くは無いだろう。それに何故貴様が怒るんだ?」


この男は本当に……。
ライバルを減らす為ならば、他にもやりようはあったはずだ。
どこまで私を苛つかせれば気が済むのだろうか。
私とセレス姉様の関係を知らないとはいえ、ここまで無神経なことを言ってくるとは…。


「…無実の人を苦しめてきたあなたには、この場所がお似合いよ。」
「……ッ!」


私の雰囲気が変わったことに、ヴィアルスは驚き慄いた。


「陛下のお言葉に従い、罪を贖いなさい。『負の牢』での懲役1ヶ月に、廃嫡と追放…。これでもあなたには足りないくらいなのだから……。」


私はそう言い残し、ヴィアルスの前を立ち去った。
確定した刑は全て計画通りであり、私もお義父様も満足していた。だがヴィアルスは悪事を悪事と認めすらしない。
そんな人にはこの程度の罰では足りない。
しかし既に確定してしまっているものは変えられないので、せめて反省と後悔くらいして欲しいものだが…。
負の牢に入れば、嫌でも後悔するだろう。


「ミフェラ。」
「……お姉様ですか。」


さて、こちらも判決が言い渡される前と変わっていないのだろうか──
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