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第30話

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国王陛下の書斎に入ると、目の前には陛下とお義父様が居た。
威圧感があって、物々しい雰囲気だ。お義父様は微笑んでいるが、それが逆に圧を感じてしまう…。


「よく来てくれたな、レイシア。」
「お久しぶりにございます、陛下。」
「あまり時間は無いので、早速だが本題に入るとしよう。」
「はい。」


何から聞かれるのか…、今回は陛下がお相手だ。一時たりとも気は抜けないと、私は身構えた。


「分かっているとは思うが、2つの事を聞きたくて呼んだ。先ずはそなたがゼム……ルーズフィルト公の養子となっている件だ。余は先程知ったばかりだが、これは本当か?」


やはり先にこちらを聞いてきた。
誘拐の件については、私が平民か貴族かで大きく事が変わってくるからだろう。


「はい。間違いありません。私はユシェナート侯爵家を追放された後、ルーズフィルト公爵様の養子となりました。」
「そうか…。事情はルーズフィルト公から聞いた。余に知らせなかったのも、余が気を遣わないようにという配慮だったのだな…。感謝と同時に、婚約破棄の件、改めて謝罪する。迷惑をかけた…。」


養子となっているという報告をしなかった事について、お義父様は上手く説明していたようだ。この辺りは何も聞いていなかったが、話を合わせる方が良いだろう。
ちらっとお義父様を見ると、ゆっくりと頷いていた。


「お気になさらないでください。私への噂が落ち着くまでは社交界に出るつもりはありませんでしたし、陛下は常にご多忙の身。養子となった事実を知らせるには、陛下のお仕事が落ち着いた頃が良いと話し合いましたので…。私の方こそ、お伝えするのが遅くなり申し訳ありません……。」
「それにつきましては私からも、改めて謝罪させていただきます。」


私が頭を下げたと同時に、お義父様も陛下の前に出て頭を下げる。
それに対し、慌てて顔を上げるようにと仰せられた陛下。心優しく、そして威厳もある。何より常識的で賢く、完璧な王様だとその態度が表していた。
そして養子の話はこれで終わり、陛下は次の質問を聞いてきた。


「正直に言うとこちらが本題だ。ヴィアルスと侯爵家のミフェラについて聞きたい。昨日報告書は見たが、当事者に聞くのが最も良いだろうと思ってな。」
「はい。」


私は事の全容を陛下に話した。無理矢理連れ去られたところから、2人が話していた会話も全て。私の知りうる限りの情報、事実をありのまま伝えた。
勿論、計画のことは何も話していないし触れてすらいない。
陛下もまだ私達の計画に気付いていない様子だ。演技という可能性もあるが、今のところは馬鹿息子がやらかしたという程度の解釈だろう。
そうなるよう仕向けてきたが、上手くいっているようで何よりだ。


「はぁ……。これまではヴィアルスの行いについて、目を瞑ることもあった…。しかし今回は到底見過ごせん。何よりここまで事実が噂となり広がってしまったのだ…、何も無しでは民達が疑問に思うだろう。」
「…それに罰から逃れる為、王城から抜け出したのも事実です。既に使用人達は知っているので、箝口令を敷いても無意味でしょう。」


私から見れば、お義父様のこの言葉はさらに王国内に広まるようにしようという意図があるとしか思えない。だが陛下も頷かれている通り、納得も出来る。


「今回の件、婚約破棄と重ねて謝罪しよう…。」
「陛下に非はございません。どうかお気になされずに…。」
「だが何もしないのでは私の気が休まらないのでな。後日、詫びの品を送ろう。」
「お、お言葉だけで構いませんからっ…!」
「そ、そうか?」
「陛下。レイシアがこう言っていますので…。」
「わ…分かった。感謝する。」


謝罪の品を送られる方が気を遣ってしまう…。ヴィアルスが悪いのは事実だが、それは私が誘導したからでもある。故にこちらの方こそ申し訳なくなるのだ…。

陛下はこの後、ヴィアルスをただ罰するだけでは民が納得しないだろうと仰った。少なくとも王太子の位は廃するとのこと。
この時点をもって、私達の目的は達成された。
ヴィアルスは地下牢に入れられ、王太子の位を失う。ミフェラは地下牢に入れられているだけだが、評価は今まで以上に下がるだろう。最悪、侯爵令嬢の地位を剥奪される。
それに伴いユシェナート侯爵と侯爵夫人も信用を失い、ミフェラが地位剥奪を受ければ跡取りが居なくなる。そうなれば侯爵家は潰えることとなるのだ。
その場合はユシェナート侯爵家の無実の使用人達を、私の手引きで上手く働ける場所を用意しようと思う。

(今思えば謝罪だらけだった)話が終わり、書斎を退室した私はとある場所に向かった──
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