25 / 46
第24話
しおりを挟む
「外に出るのは久しぶりね…。」
「はい。レイシア様とこうしてお買い物をするのも久しぶりです。」
「そうね。」
翌日、私はメアと共にルーズフィルト公爵領内の街へ買い物に出ていた。貴族と分かるような服装で…。
もうそろそろ来るはずだ。既に買い物を始めて3時間程度が経っており、王城から早馬の馬車で来れば十分着く時間である。
絶対にヴィアルスは来る。これは勘などではなく、そう仕向けられた確定事項なのだ。計画が順調に進んでいる今、来ないはずがなかった。
「レイシアっ!」
「……ヴィアルス…殿下。」
思わず呼び捨てにしてしまうところだった。少し計算外だったのは……
「お久しぶりですわね、お姉様。」
ミフェラが殿下の隣に居たことだ。
とはいえ予想の範囲内なので気にする必要はない。どうせ情に訴えようとでも思っているのだろう。私はミフェラを妹などと思ってはいないし、あのような妹を持った記憶もない。情に訴えるなど阿呆らしくて仕方がなかった。
「ようやく見つけたぞ。今すぐ王城に来てもらう!」
「…招待状等があるならば例外ですが、私に王城へと立ち入る資格はありません。」
「王太子の私の権限で入らせてやるから問題ない。平民のお前が王城で働けるなど、普通は有り得ないことだぞ?」
「…失礼ながら、お断りさせて頂きます。」
「なっ!?」
私はキッパリと断った。命令ではないのでまだ問題はないのである。
そして次に来るのは……
「お姉様、どうか来ていただけません?私一人では無理ですの。」
ミフェラは悲しそうな顔で私にそう言った。
しかし厄介なのはこれからだ。ミフェラならば、簡単には引き下がらないのだから…。
私はミフェラに向かってはっきりと言った。
「お断りするわ。私にもするべき事があるの。それに王太子殿下の仕事は貴女がすべき事ではなくて?貴女一人で無理ならば、殿下に助力を願うのが筋というものでしょう。」
「そんなことありませんわ。私はお姉様に手伝って欲しいのです。」
「婚約者ではない私にはその資格がないのよ。たとえヴィアルス殿下から許可を得たとしても、国として許される行為ではないわ。」
「問題ありませんわ。極秘裏に手伝ってくれれば良いのです。平民のお姉様を、助けたいという妹の気持ちが伝わりませんの?」
「……。」
埒が明かない。私が何かを言えば全て返してくる。隣にいるヴィアルスは、ミフェラの言葉に同意しているという顔を崩さない。さらには頷いてさえいた。
これも全て私の計画通りではある。私に対して血気盛んな殿下であれば、強硬手段に出るはずだ。
「無理なものは無理なのよ。」
「さっきから黙って聞いていれば、ミフェラに対して好き勝手言ってくれる…!」
予想通り過ぎて面白くなってしまう。この2人の行動ならば、私は予知できるだろう。
ミフェラが仕事を出来ないことを知っても愛しているヴィアルスの目は節穴なのか…。まぁそれだけミフェラがヴィアルスの心を掴んでいるという証拠だろう。
次に彼がとる行動は決まっている。ならば私は周囲にも目に付くように大声を出そう。
「私が構わないと言っているんだ。さっさと来い!」
「わっ、ちょっ……やめてください!」
「私に向かって命令するな!黙って来ればいいんだ!」
無理矢理に私を連れて行こうとするヴィアルス。手を引っ張られ、私は抵抗している振りをした。後ろからミフェラも薄ら笑いを浮かべながらついてくる。
私はヴィアルスに馬車へ乱暴に押されて入れられた。
周囲の人々は男が誰なのか気付いていなかったが、馬車に描かれた紋章を見て驚き固まる。
「「おい、あれって…。」」
「「「まさか王家の馬車!?」」」
「「何故王家の馬車が……。それに押し入れられた女性は誰なんだ?」」
「「「あの男の人は王太子殿下じゃないか?」」」
「「じゃあもう1人の女性は婚約者のミフェラ様?!」」
その場にいた平民や買い物に来ていた貴族達が口々に話している。
私の狙いはヴィアルスの評価を下がらせること。それは貴族だけではなく、平民達の間でも下がらなければ意味が無い。民全員に王太子の印象を悪くさせる必要があったのだ。
その場にいた人々は今、王太子とその婚約者が女性に乱暴し、無理矢理馬車に入れたと思うだろう。
それで十分なのだ──
「はい。レイシア様とこうしてお買い物をするのも久しぶりです。」
「そうね。」
翌日、私はメアと共にルーズフィルト公爵領内の街へ買い物に出ていた。貴族と分かるような服装で…。
もうそろそろ来るはずだ。既に買い物を始めて3時間程度が経っており、王城から早馬の馬車で来れば十分着く時間である。
絶対にヴィアルスは来る。これは勘などではなく、そう仕向けられた確定事項なのだ。計画が順調に進んでいる今、来ないはずがなかった。
「レイシアっ!」
「……ヴィアルス…殿下。」
思わず呼び捨てにしてしまうところだった。少し計算外だったのは……
「お久しぶりですわね、お姉様。」
ミフェラが殿下の隣に居たことだ。
とはいえ予想の範囲内なので気にする必要はない。どうせ情に訴えようとでも思っているのだろう。私はミフェラを妹などと思ってはいないし、あのような妹を持った記憶もない。情に訴えるなど阿呆らしくて仕方がなかった。
「ようやく見つけたぞ。今すぐ王城に来てもらう!」
「…招待状等があるならば例外ですが、私に王城へと立ち入る資格はありません。」
「王太子の私の権限で入らせてやるから問題ない。平民のお前が王城で働けるなど、普通は有り得ないことだぞ?」
「…失礼ながら、お断りさせて頂きます。」
「なっ!?」
私はキッパリと断った。命令ではないのでまだ問題はないのである。
そして次に来るのは……
「お姉様、どうか来ていただけません?私一人では無理ですの。」
ミフェラは悲しそうな顔で私にそう言った。
しかし厄介なのはこれからだ。ミフェラならば、簡単には引き下がらないのだから…。
私はミフェラに向かってはっきりと言った。
「お断りするわ。私にもするべき事があるの。それに王太子殿下の仕事は貴女がすべき事ではなくて?貴女一人で無理ならば、殿下に助力を願うのが筋というものでしょう。」
「そんなことありませんわ。私はお姉様に手伝って欲しいのです。」
「婚約者ではない私にはその資格がないのよ。たとえヴィアルス殿下から許可を得たとしても、国として許される行為ではないわ。」
「問題ありませんわ。極秘裏に手伝ってくれれば良いのです。平民のお姉様を、助けたいという妹の気持ちが伝わりませんの?」
「……。」
埒が明かない。私が何かを言えば全て返してくる。隣にいるヴィアルスは、ミフェラの言葉に同意しているという顔を崩さない。さらには頷いてさえいた。
これも全て私の計画通りではある。私に対して血気盛んな殿下であれば、強硬手段に出るはずだ。
「無理なものは無理なのよ。」
「さっきから黙って聞いていれば、ミフェラに対して好き勝手言ってくれる…!」
予想通り過ぎて面白くなってしまう。この2人の行動ならば、私は予知できるだろう。
ミフェラが仕事を出来ないことを知っても愛しているヴィアルスの目は節穴なのか…。まぁそれだけミフェラがヴィアルスの心を掴んでいるという証拠だろう。
次に彼がとる行動は決まっている。ならば私は周囲にも目に付くように大声を出そう。
「私が構わないと言っているんだ。さっさと来い!」
「わっ、ちょっ……やめてください!」
「私に向かって命令するな!黙って来ればいいんだ!」
無理矢理に私を連れて行こうとするヴィアルス。手を引っ張られ、私は抵抗している振りをした。後ろからミフェラも薄ら笑いを浮かべながらついてくる。
私はヴィアルスに馬車へ乱暴に押されて入れられた。
周囲の人々は男が誰なのか気付いていなかったが、馬車に描かれた紋章を見て驚き固まる。
「「おい、あれって…。」」
「「「まさか王家の馬車!?」」」
「「何故王家の馬車が……。それに押し入れられた女性は誰なんだ?」」
「「「あの男の人は王太子殿下じゃないか?」」」
「「じゃあもう1人の女性は婚約者のミフェラ様?!」」
その場にいた平民や買い物に来ていた貴族達が口々に話している。
私の狙いはヴィアルスの評価を下がらせること。それは貴族だけではなく、平民達の間でも下がらなければ意味が無い。民全員に王太子の印象を悪くさせる必要があったのだ。
その場にいた人々は今、王太子とその婚約者が女性に乱暴し、無理矢理馬車に入れたと思うだろう。
それで十分なのだ──
606
お気に入りに追加
4,221
あなたにおすすめの小説

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。
はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。
周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。
婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。
ただ、美しいのはその見た目だけ。
心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。
本来の私の姿で……
前編、中編、後編の短編です。

婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

婚約破棄されたから、とりあえず逃げた!
志位斗 茂家波
恋愛
「マテラ・ディア公爵令嬢!!この第1王子ヒース・カックの名において婚約破棄をここに宣言する!!」
私、マテラ・ディアはどうやら婚約破棄を言い渡されたようです。
見れば、王子の隣にいる方にいじめたとかで、冤罪なのに捕まえる気のようですが‥‥‥よし、とりあえず逃げますか。私、転生者でもありますのでこの際この知識も活かしますかね。
マイペースなマテラは国を見捨てて逃げた!!
思い付きであり、1日にまとめて5話だして終了です。テンプレのざまぁのような気もしますが、あっさりとした気持ちでどうぞ読んでみてください。
ちょっと書いてみたくなった婚約破棄物語である。
内容を進めることを重視。誤字指摘があれば報告してくださり次第修正いたします。どうぞ温かい目で見てください。(テンプレもあるけど、斜め上の事も入れてみたい)

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)

ここはあなたの家ではありません
風見ゆうみ
恋愛
「明日からミノスラード伯爵邸に住んでくれ」
婚約者にそう言われ、ミノスラード伯爵邸に行ってみたはいいものの、婚約者のケサス様は弟のランドリュー様に家督を譲渡し、子爵家の令嬢と駆け落ちしていた。
わたくしを家に呼んだのは、捨てられた令嬢として惨めな思いをさせるためだった。
実家から追い出されていたわたくしは、ランドリュー様の婚約者としてミノスラード伯爵邸で暮らし始める。
そんなある日、駆け落ちした令嬢と破局したケサス様から家に戻りたいと連絡があり――
そんな人を家に入れてあげる必要はないわよね?
※誤字脱字など見直しているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

父の後妻に婚約者を盗られたようです。
和泉 凪紗
恋愛
男爵令嬢のアルティナは跡取り娘。素敵な婚約者もいて結婚を待ち遠しく思っている。婚約者のユーシスは最近忙しいとあまり会いに来てくれなくなってしまった。たまに届く手紙を楽しみに待つ日々だ。
そんなある日、父親に弟か妹ができたと嬉しそうに告げられる。父親と後妻の間に子供ができたらしい。
お義母様、お腹の子はいったい誰の子ですか?

どうでもいいですけどね
志位斗 茂家波
恋愛
「ミラージュ令嬢!!貴女との婚約を破棄する!!」
‥‥と、かつての婚約者に婚約破棄されてから数年が経ちました。
まぁ、あの方がどうなったのかは別にどうでもいいですけれどね。過去は過去ですから、変えようがないです。
思いついたよくある婚約破棄テンプレ(?)もの。気になる方は是非どうぞ。

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。
salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。
6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。
*なろう・pixivにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる