【完結】無能に何か用ですか?

凛 伊緒

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第24話

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「外に出るのは久しぶりね…。」
「はい。レイシア様とこうしてお買い物をするのも久しぶりです。」
「そうね。」


翌日、私はメアと共にルーズフィルト公爵領内の街へ買い物に出ていた。貴族と分かるような服装で…。
もうそろそろ来るはずだ。既に買い物を始めて3時間程度が経っており、王城から早馬の馬車で来れば十分着く時間である。
絶対にヴィアルスは来る。これは勘などではなく、そう仕向けられた確定事項なのだ。計画が順調に進んでいる今、来ないはずがなかった。


「レイシアっ!」
「……ヴィアルス…殿下。」


思わず呼び捨てにしてしまうところだった。少し計算外だったのは……


「お久しぶりですわね、お姉様。」


ミフェラが殿下の隣に居たことだ。
とはいえ予想の範囲内なので気にする必要はない。どうせ情に訴えようとでも思っているのだろう。私はミフェラを妹などと思ってはいないし、あのような妹を持った記憶もない。情に訴えるなど阿呆らしくて仕方がなかった。


「ようやく見つけたぞ。今すぐ王城に来てもらう!」
「…招待状等があるならば例外ですが、私に王城へと立ち入る資格はありません。」
「王太子の私の権限で入らせてやるから問題ない。平民のお前が王城で働けるなど、普通は有り得ないことだぞ?」
「…失礼ながら、お断りさせて頂きます。」
「なっ!?」


私はキッパリと断った。命令ではないのでまだ問題はないのである。
そして次に来るのは……


「お姉様、どうか来ていただけません?私一人では無理ですの。」


ミフェラは悲しそうな顔で私にそう言った。
しかし厄介なのはこれからだ。ミフェラならば、簡単には引き下がらないのだから…。
私はミフェラに向かってはっきりと言った。


「お断りするわ。私にもするべき事があるの。それに王太子殿下の仕事は貴女がすべき事ではなくて?貴女一人で無理ならば、殿下に助力を願うのが筋というものでしょう。」
「そんなことありませんわ。私はお姉様に手伝って欲しいのです。」
「婚約者ではない私にはその資格がないのよ。たとえヴィアルス殿下から許可を得たとしても、国として許される行為ではないわ。」
「問題ありませんわ。極秘裏に手伝ってくれれば良いのです。平民のお姉様を、助けたいという妹の気持ちが伝わりませんの?」
「……。」


埒が明かない。私が何かを言えば全て返してくる。隣にいるヴィアルスは、ミフェラの言葉に同意しているという顔を崩さない。さらには頷いてさえいた。
これも全て私の計画通りではある。私に対して血気盛んな殿下であれば、強硬手段に出るはずだ。


「無理なものは無理なのよ。」
「さっきから黙って聞いていれば、ミフェラに対して好き勝手言ってくれる…!」


予想通り過ぎて面白くなってしまう。この2人の行動ならば、私は予知できるだろう。
ミフェラが仕事を出来ないことを知っても愛しているヴィアルスの目は節穴なのか…。まぁそれだけミフェラがヴィアルスの心を掴んでいるという証拠だろう。
次に彼がとる行動は決まっている。ならば私は周囲にも目に付くように大声を出そう。


「私が構わないと言っているんだ。さっさと来い!」
「わっ、ちょっ……やめてください!」
「私に向かって命令するな!黙って来ればいいんだ!」


無理矢理に私を連れて行こうとするヴィアルス。手を引っ張られ、私は抵抗している振りをした。後ろからミフェラも薄ら笑いを浮かべながらついてくる。
私はヴィアルスに馬車へ乱暴に押されて入れられた。
周囲の人々は男が誰なのか気付いていなかったが、馬車に描かれた紋章を見て驚き固まる。


「「おい、あれって…。」」
「「「まさか王家の馬車!?」」」
「「何故王家の馬車が……。それに押し入れられた女性は誰なんだ?」」
「「「あの男の人は王太子殿下じゃないか?」」」
「「じゃあもう1人の女性は婚約者のミフェラ様?!」」


その場にいた平民や買い物に来ていた貴族達が口々に話している。
私の狙いはヴィアルスの評価を下がらせること。それは貴族だけではなく、平民達の間でも下がらなければ意味が無い。民全員に王太子の印象を悪くさせる必要があったのだ。
その場にいた人々は今、王太子とその婚約者が女性に乱暴し、無理矢理馬車に入れたと思うだろう。
それで十分なのだ──
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