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第13話

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「あ、あのぅ…。」


ぎゅっぅと抱きしめられ、声が出しずらい。もはや息もしずらかった。


「ダメですよラティ。彼女が窒息死してしまいます。」
「わっ!ごめんなさいね。」
「い、いえ……。」
「改めまして、私はゼムヴィガ・ルーズフィルトの妻、ラエティーナ・ルーズフィルトよ。よろしくね。」
「レイシアです。こちらこそよろしくお願い致します。」


私の知っているルーズフィルト公爵夫人の姿は、どこにもなかった。
公爵夫人はパーティーの際にしか見たことがなかったが、社交界を牛耳っていると言っても過言ではないお方だ。
いつも凛とした空気を纏い、美しさと格好良さがある。私も模範としていた。
そんなお方が、今はどのような表情をしているのだろうか…。人が変わったように顔を緩めて笑っている。こんなお顔をされることがあるとは驚きだ。


「もう一度抱きしめて良いかしら?」
「えぇと……」
「今日のところは、そのくらいにしてあげて下さい。これからいくらでも機会はあるでしょう。」
「それはそうだけれど…。」


不服そうに公爵様を見つめている。
後に公爵様が教えてくださったのだが、ルーズフィルト公爵様には2人のご子息がいて、子供がどちらも男の子だったが故に公爵夫人はずっと娘が欲しかったらしい。そして私を養子として迎えるという話をした時、大喜びだったそうだ。自分の子ではないのにここまで歓迎してくれるとは…。
私は社交界での公爵夫人を見てきていたので、養子として迎えると言われた時に冷たくされるだろうと覚悟した。嫌がらせをするような方ではないと知っていても、関係が良好になるとは限らない。
ゆっくりと信頼関係を築いていき、義娘と認めてもらえればいいと思っていた。いたのだが……


「でも……そうね。まだ緊張しているわよね。」
「……はい…。」
「レイシア。そんなに身構えなくても、私は貴女を歓迎するわ。息子達も会いたがっていたのだけれど明日にしなさいと言ってあるの。」
「ご配慮、感謝致します、公爵夫人。」


私は深々と頭を下げる。
すると公爵夫人は近付いてきた。


「かしこまらないで欲しいわ。私達はもう家族なのよ?そんな堅苦しい呼び方はやめて頂戴。」
「では……ラエティーナ様。」
「う~ん、悪くはないのだけれど、もっと……ね?」
「で、ではお義母様と…。」
「ええ、それで良いわ!私も愛称で呼びたいのだけれど、ユシェナート侯爵家では何と呼ばれていたのかしら。」
「……。」


愛称……、愛称など、侯爵家で呼ばれたことがなかった。
だからだろうか…。どこか心苦しくなる。
私は家族愛というものを知らない。両親の愛情は、年子で生まれてきた妹が全て受けていた。今はあの侯爵家の者を家族と呼ぶこと自体に虫唾が走る。使用人は良い人達だったが、家族は真逆だ。
お義母様から『愛称』という言葉を聞き、気付けば私は暗い顔をしていた──
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