上 下
8 / 46

第7話(過去編)

しおりを挟む
「待って…!姉様は……姉様はそんな事をするような人じゃないっ!」


私の声は届かず、セレス姉様は今にも泣きそうな表情で連行されて行った。
ヴィアルスは笑みを浮かべ、衛兵も予め用意していたのだと容易に推測できた。
全てはヴィアルスが悪い。王子だろうが何だろうが地獄に落とすと、私はこの時心の中で誓った。

それからというもの、私はヴィアルスにとって何をすれば地獄と感じるのかを考えた。
エリーユア公爵様の助言で、とりあえずセレス姉様との関係が知られないよう手を回し、賄賂などあらゆる手段にて口止めをした。ヴィアルスに目を付けられないようにする為だ。
ご令嬢が大変な事になっているにも拘らず、ヴィアルスの被害者が増えないように尽力しているエリーユア公爵様。本当に素晴らしいお方だ。


「ご協力感謝致します、エリーユア公爵様。」
「気にするな。君達は何も悪くないのだからな…。」
「あの……、セレス姉………セレスティナ様は、現在どうなされているのですか…?」
「ああ、セレスは──」


ヴィアルスの言っていたセレス姉様の罪とやらは、証拠はなく人の証言のみだった。それだけでは裁けないと判断されたが、現在は地下牢に投獄されているそうだ。
冤罪とはいえ王族があのような場で言った言葉を無かったことには出来ず、さらには冤罪だということを明かすことは、王家の信頼に関わるからとエリーユア公爵様も強気に出られないでいた。王家の信頼が落ちることは、王国を運営する上で避けなければならないのだ。

エイルス殿下との婚約は継続しているそう。殿下はセレス姉様に非は無いとしていて、たとえ自分の評価が下がる事になるとしても、婚約は解消しないと言い切ったのだとか。エイルス殿下の姉様に対する愛や自分にも責任があるという気持ちがよく伝わってくる。

私は月に一度だけ、セレス姉様に手紙を出すことにした。どうやってかは分からないが、姉様からも手紙は返ってきた。おそらく獄中であっても、手紙程度ならば許されているのだろう。
紙には私の名を書いているが、封にはエリーユア公爵様からということにしている。姉様も表向きは公爵様宛だが、内容は2枚であり、1枚は私宛になっていた。
しかし私が13歳になる年に、3年間の王立学園での生活が始まった。それと同時に寮暮らしとなるので、手紙のやり取りも出来なくなってしまった。


「……はぁ…。会えないというのは、辛いものね…。」


学園生活が始まった頃、気持ちが沈んでいた私はとある噂を耳にし、希望を見出した。


「知っていますか?あの噂!」
「えぇ、聞いた事がありますわ。確か……」
「王太子殿下の婚約者を誰にするか、国王陛下が悩まれている……でしたわね。」
「そうですの!そして毎年この学園から優秀な生徒を王城で働かせる為に、国王陛下が御自ら選定されるそうですわ。」
「つまり、成績が高く国王陛下のお眼鏡にかなえば、王太子殿下の婚約者になれるのですわね!」
「きっとその通りですわ!」


令嬢達の会話からこの噂を知った私は、賭けに出ることにした。私より歳上の方が婚約者に選ばれる可能性もあったが、あえて陛下の興味を引く成績にしようと考えたのだ。
陛下は歴代の王の中でも英明と言われている。ならば必ず私の意図に気付き、声をかけてくるはずだ。その時に私は婚約者となれるよう言葉を紡ぎ、そして動くだけだ。
だが協力者は必要だろう。そこでとある人物に接触することにした。


「お時間をくださり感謝致します、ルーズフィルト公爵様。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。

夢草 蝶
恋愛
 シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。  どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。  すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──  本編とおまけの二話構成の予定です。

婚約破棄されたから、とりあえず逃げた!

志位斗 茂家波
恋愛
「マテラ・ディア公爵令嬢!!この第1王子ヒース・カックの名において婚約破棄をここに宣言する!!」 私、マテラ・ディアはどうやら婚約破棄を言い渡されたようです。 見れば、王子の隣にいる方にいじめたとかで、冤罪なのに捕まえる気のようですが‥‥‥よし、とりあえず逃げますか。私、転生者でもありますのでこの際この知識も活かしますかね。 マイペースなマテラは国を見捨てて逃げた!! 思い付きであり、1日にまとめて5話だして終了です。テンプレのざまぁのような気もしますが、あっさりとした気持ちでどうぞ読んでみてください。 ちょっと書いてみたくなった婚約破棄物語である。 内容を進めることを重視。誤字指摘があれば報告してくださり次第修正いたします。どうぞ温かい目で見てください。(テンプレもあるけど、斜め上の事も入れてみたい)

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】猫を被ってる妹に悪役令嬢を押し付けられたお陰で人生180度変わりました。

本田ゆき
恋愛
「お姉様、可愛い妹のお願いです。」 そう妹のユーリに乗せられ、私はまんまと悪役令嬢として世に名前を覚えられ、終いには屋敷を追放されてしまった。 しかし、自由の身になった私に怖いものなんて何もない! もともと好きでもない男と結婚なんてしたくなかったし堅苦しい屋敷も好きでなかった私にとってそれは幸運なことだった!? ※小説家になろうとカクヨムでも掲載しています。 3月20日 HOTランキング8位!? 何だか沢山の人に見て頂いたみたいでありがとうございます!! 感想あんまり返せてないですがちゃんと読んでます! ありがとうございます! 3月21日 HOTランキング5位人気ランキング4位…… イッタイ ナニガ オコッテンダ…… ありがとうございます!!

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

処理中です...