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第5話
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「メア、ここで待っていて頂戴。」
「畏まりました。」
私はとある部屋の扉の前で、メアを待機させた。ここから先は、侍女では入れないからだ。
そして部屋内に聞こえるような声で名乗る。
「ユシェナート侯爵家長女、レイシア・ユシェナートです。」
「入れ。」
目の前に居たのは、国王陛下だ。ここは国王陛下の書斎である。陛下の隣には、宰相のルーズフィルト公爵様が居た。彼は軽く陛下の耳に入れているだろう。だからこそ、私が名乗っただけで入室を許可されたのだ。頼れる協力者である。
「突然の訪問、誠に申し訳ありません。」
「気にするな。それで何用だ?」
「はい。つい先程、ヴィアルス殿下に婚約破棄を言い渡されましたので、取り急ぎご報告をと…。」
「……はぁ…。今そうなるかもしれんとゼムと話していたのだが、そうなったか……。」
「申し訳ございません……、己の力不足を恥じるばかりです。」
やはり公爵様が少し話していたようだ。私は彼に目線だけで感謝を伝える。正しく受け取ってくれたようで、少しだけ頷いていた。
私は陛下に対し謝罪の意を表していたが、内心は喜びに溢れていた。これでヴィアルスの仕事を代わりに行わなくて済むのだ。私の自由時間が増えるというもの。
例えヴィアルスが私に仕事を押し付けてきたとしても、婚約者ではなくなった私には、国家の機密とも言える書類を触る資格は無いと言い返せる。
「迷惑をかけたな、レイシア…。」
「滅相もございませんっ。私が至らないばかりに…!」
その後、私はパーティーでのヴィアルスとのやり取りを細かく報告した。陛下は特に驚いた様子もなく、ある程度予想済みだったようだ。
しかし陛下に相談もなく公の場で発言したことには怒りを露にしていた。
「本当に……何を考えているんだあやつは…。」
全て私の計画通りなので仕方がないです、などとはとても言えない。だが陛下であればいずれは気付くだろう。その時までは秘密にしておこう…。
「ヴィアルスが原因でそなたの社交界での立場が危うくなっているだろう。余としても、それは心苦しいことだ。なのでこちらで少し動こう。そなたが今まで通りにパーティー等に参加出来るようにな。」
「お気遣い感謝致します。ですが自分の事は自分でしますので、お気持ちだけで結構です…。」
「そ、そうか。」
本当にそれで良いのかというお顔をされている陛下だが、私は別に構わない。そもそも自分でそうなるよう仕向けているので、陛下の手を借りる方が申し訳ない。
それはそうと、あのような場で婚約破棄と新たな婚約を宣言してしまった以上、取り消すことは不可能だろうと言われた。陛下がそう仰ったのだ。婚約破棄は確定事項となったということ。
あとは時が過ぎるのを待つのみ。
私は陛下の書斎をあとにし、待たせていたメアを連れて侯爵家へと戻ったのだった。
「畏まりました。」
私はとある部屋の扉の前で、メアを待機させた。ここから先は、侍女では入れないからだ。
そして部屋内に聞こえるような声で名乗る。
「ユシェナート侯爵家長女、レイシア・ユシェナートです。」
「入れ。」
目の前に居たのは、国王陛下だ。ここは国王陛下の書斎である。陛下の隣には、宰相のルーズフィルト公爵様が居た。彼は軽く陛下の耳に入れているだろう。だからこそ、私が名乗っただけで入室を許可されたのだ。頼れる協力者である。
「突然の訪問、誠に申し訳ありません。」
「気にするな。それで何用だ?」
「はい。つい先程、ヴィアルス殿下に婚約破棄を言い渡されましたので、取り急ぎご報告をと…。」
「……はぁ…。今そうなるかもしれんとゼムと話していたのだが、そうなったか……。」
「申し訳ございません……、己の力不足を恥じるばかりです。」
やはり公爵様が少し話していたようだ。私は彼に目線だけで感謝を伝える。正しく受け取ってくれたようで、少しだけ頷いていた。
私は陛下に対し謝罪の意を表していたが、内心は喜びに溢れていた。これでヴィアルスの仕事を代わりに行わなくて済むのだ。私の自由時間が増えるというもの。
例えヴィアルスが私に仕事を押し付けてきたとしても、婚約者ではなくなった私には、国家の機密とも言える書類を触る資格は無いと言い返せる。
「迷惑をかけたな、レイシア…。」
「滅相もございませんっ。私が至らないばかりに…!」
その後、私はパーティーでのヴィアルスとのやり取りを細かく報告した。陛下は特に驚いた様子もなく、ある程度予想済みだったようだ。
しかし陛下に相談もなく公の場で発言したことには怒りを露にしていた。
「本当に……何を考えているんだあやつは…。」
全て私の計画通りなので仕方がないです、などとはとても言えない。だが陛下であればいずれは気付くだろう。その時までは秘密にしておこう…。
「ヴィアルスが原因でそなたの社交界での立場が危うくなっているだろう。余としても、それは心苦しいことだ。なのでこちらで少し動こう。そなたが今まで通りにパーティー等に参加出来るようにな。」
「お気遣い感謝致します。ですが自分の事は自分でしますので、お気持ちだけで結構です…。」
「そ、そうか。」
本当にそれで良いのかというお顔をされている陛下だが、私は別に構わない。そもそも自分でそうなるよう仕向けているので、陛下の手を借りる方が申し訳ない。
それはそうと、あのような場で婚約破棄と新たな婚約を宣言してしまった以上、取り消すことは不可能だろうと言われた。陛下がそう仰ったのだ。婚約破棄は確定事項となったということ。
あとは時が過ぎるのを待つのみ。
私は陛下の書斎をあとにし、待たせていたメアを連れて侯爵家へと戻ったのだった。
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