24 / 34
24話 揃う力
しおりを挟む
──翌日。
「お招きくださり感謝致します、ゼーファ殿下。」
「スレードル侯爵、よく来てくれた。」
「リエラ殿も、謁見の間でのことを除けば、こうして対面で会うのはご招待した時以来ですね。」
「はい。頂いた魔道具は、重宝させて頂いています。」
「それは良かったです。」
今日は早速スレードル侯爵との対談だ。ソファにはゼーファ様が、対面にスレードル侯爵が座っている。そしてゼーファ様のすぐ後ろに私が立ち、そのさらに後ろにリリアナとメイド姿のヴィーレが立っていた。
ディールト兄様は用事が入り、結局選別にさ参加しない事となった。その代わり貴族視点で、その貴族が信頼できるか否か、持っている情報を全てゼーファ様に話していた。
「侯爵とリエラは、付き合いがあるのであろう?」
「はい。リエラ殿には、よく依頼させていただいているのです。ギルドを介さない個人的な魔物素材の取引もしていますね。」
この後ゼーファ様は、店ではどのようなものを扱っているのか、何処の都市や場所などに何の店を置いているのかなど、商人としてのスレードル侯爵に様々な質問をしていた。商人やその土地の客層に興味を持ってしまった様子…。
それに対し、スレードル侯爵は質問一つ一つに丁寧に答えていた。何かを試されているとでも思っているようだ。ゼーファ様が単純に興味を持っただけな気もするが…。
「──つい色々と聞いてしまったが…、お陰でお主の人となりや能力の高さがよく分かった。妾としては是非その力を貸してもらいたいところじゃが、もう一つ質問がある。」
先程までとは違い、ゼーファ様の雰囲気が変わった。同時に室内も少し緊張した空気となっている。
本命の質問をされるのだと分かり、スレードル侯爵も再度気を引き締めた様子だ。
「何故妾の下に付こうと決めた?スレードル侯爵家は、代々王位継承争いには関わっておらぬはずじゃ。」
「……確かに、我が侯爵家は王族個人に付いたことはありません。」
「ならば何故…。」
「我々スレードル侯爵家の者は、貴族である前に商人です。そして王国の経済を牛耳っていると言っても過言ではないでしょう。そんな財力と情報収集力を持つ我々が個人に仕えるとなれば、王位継承争いの均衡は容易に崩れます。」
「何事を行うにも先ずは情報、第二に金銭…。侯爵家は両方を桁違いに有している……と。」
「仰る通りです。故に我々は、これまで関与してこなかったのです。」
スレードル侯爵が財力と情報収集力を桁違いに有していると言い切れるのは、決して大言壮語などではなく、紛れもない事実なのだ。この王国を経済的に支配しようと思えば、できてしまうだろう。
そして侯爵が言っていることは至極尤もだ。行動を起こす際、情報が無ければ正しい判断、或いは有利な判断ができない。そして情報を掴んでいたとしても、行動を起こせるだけの人または物が必要だ。それらを用意するためには金銭が必要となる場合がある。
つまり、スレードル侯爵家が味方に付いたのならば、それだけで公爵家と同等、或いはそれ以上の力を得るということなのだ。
「ですが今回は状況が状況ですので、このような判断をいたしました。」
「状況、とな?」
「はい。現在の王国の経済は、国王陛下のお力によってとても良い方向へと向かっております。ですがこの状況下で王太子殿下が王となられた場合、優秀な貴族が数人居たところで、王国は廃れていくでしょう。」
「…そうであろうな……。」
「先程も申し上げた通り、我々は貴族である前に商人です。経済状況の悪化による影響は避けたいところ…。故に、王太子殿下が王になることは好ましくないのです。」
ジルファーが王となれば、貴族が好き勝手できる環境となっていくだろう。それも自己利益しか考えていない貴族が有利な環境となってしまう。
当然、税は上がり、民達の生活が苦しくなろうがお構い無しの政策を幾つも通せるようになるのだ。物価も上がるだろう。
「しかしゼーファ殿下は、隣国の経済状況を一変させるほどの知識と手腕があります。このまま何もせず王国が廃れていく様を見ているだけならば、ゼーファ殿下が王になられる為の協力した方が良いと判断したのです。」
「……侯爵を少し甘く見ていたようじゃ。まさか隣国での動きが知られていたとはな。」
「商人にとって、情報は第二の命とも言えるほど大切なのです。それが経済に関することであれば、より敏感にもなりますよ。」
流石はスレードル侯爵だ。隣国の発展にゼーファ様が関与していることを知るためには、かなりの情報収集力がいる。そしておそらく侯爵であれば、知りたいと思った情報は確実に手に入れることができるのだろう。やはり敵には回したくない方だ。
「そして決め手となったのは、リエラ殿がゼーファ殿下に付いたことです。武力を持たなかった殿下が武力を得て、さらには王太子殿下の仕事を代わりに行っていることにより、一部の権力も保持されています。」
「…確かに、一部とはいえ妾は権力を持っておるな。」
「権力で比べれば、王太子殿下と差異がないほどになっているでしょう。リエラ殿が居るだけで、武力はそれ以上です。何より広い見識と膨大な知識をお持ちの殿下であれば、王位を取ることは夢ではありませんから。」
「……スレードル侯爵よ、お主の意思は十分理解した。その上で言わせてもらおう。──是非とも妾に協力して欲しい。」
「…!ありがたき幸せにございます。」
ゼーファ様はスレードル侯爵を味方に付けると決めた。予想通りだ。
これでゼーファ様は、権力はジルファーと同等、武力・財力・情報収集力はジルファー以上の力を持つ事になる。王位継承争いには十分過ぎる力が揃ったという訳だ。
ゼーファ様がこれだけの力を手にした今、物事は動き始めるだろう──
「お招きくださり感謝致します、ゼーファ殿下。」
「スレードル侯爵、よく来てくれた。」
「リエラ殿も、謁見の間でのことを除けば、こうして対面で会うのはご招待した時以来ですね。」
「はい。頂いた魔道具は、重宝させて頂いています。」
「それは良かったです。」
今日は早速スレードル侯爵との対談だ。ソファにはゼーファ様が、対面にスレードル侯爵が座っている。そしてゼーファ様のすぐ後ろに私が立ち、そのさらに後ろにリリアナとメイド姿のヴィーレが立っていた。
ディールト兄様は用事が入り、結局選別にさ参加しない事となった。その代わり貴族視点で、その貴族が信頼できるか否か、持っている情報を全てゼーファ様に話していた。
「侯爵とリエラは、付き合いがあるのであろう?」
「はい。リエラ殿には、よく依頼させていただいているのです。ギルドを介さない個人的な魔物素材の取引もしていますね。」
この後ゼーファ様は、店ではどのようなものを扱っているのか、何処の都市や場所などに何の店を置いているのかなど、商人としてのスレードル侯爵に様々な質問をしていた。商人やその土地の客層に興味を持ってしまった様子…。
それに対し、スレードル侯爵は質問一つ一つに丁寧に答えていた。何かを試されているとでも思っているようだ。ゼーファ様が単純に興味を持っただけな気もするが…。
「──つい色々と聞いてしまったが…、お陰でお主の人となりや能力の高さがよく分かった。妾としては是非その力を貸してもらいたいところじゃが、もう一つ質問がある。」
先程までとは違い、ゼーファ様の雰囲気が変わった。同時に室内も少し緊張した空気となっている。
本命の質問をされるのだと分かり、スレードル侯爵も再度気を引き締めた様子だ。
「何故妾の下に付こうと決めた?スレードル侯爵家は、代々王位継承争いには関わっておらぬはずじゃ。」
「……確かに、我が侯爵家は王族個人に付いたことはありません。」
「ならば何故…。」
「我々スレードル侯爵家の者は、貴族である前に商人です。そして王国の経済を牛耳っていると言っても過言ではないでしょう。そんな財力と情報収集力を持つ我々が個人に仕えるとなれば、王位継承争いの均衡は容易に崩れます。」
「何事を行うにも先ずは情報、第二に金銭…。侯爵家は両方を桁違いに有している……と。」
「仰る通りです。故に我々は、これまで関与してこなかったのです。」
スレードル侯爵が財力と情報収集力を桁違いに有していると言い切れるのは、決して大言壮語などではなく、紛れもない事実なのだ。この王国を経済的に支配しようと思えば、できてしまうだろう。
そして侯爵が言っていることは至極尤もだ。行動を起こす際、情報が無ければ正しい判断、或いは有利な判断ができない。そして情報を掴んでいたとしても、行動を起こせるだけの人または物が必要だ。それらを用意するためには金銭が必要となる場合がある。
つまり、スレードル侯爵家が味方に付いたのならば、それだけで公爵家と同等、或いはそれ以上の力を得るということなのだ。
「ですが今回は状況が状況ですので、このような判断をいたしました。」
「状況、とな?」
「はい。現在の王国の経済は、国王陛下のお力によってとても良い方向へと向かっております。ですがこの状況下で王太子殿下が王となられた場合、優秀な貴族が数人居たところで、王国は廃れていくでしょう。」
「…そうであろうな……。」
「先程も申し上げた通り、我々は貴族である前に商人です。経済状況の悪化による影響は避けたいところ…。故に、王太子殿下が王になることは好ましくないのです。」
ジルファーが王となれば、貴族が好き勝手できる環境となっていくだろう。それも自己利益しか考えていない貴族が有利な環境となってしまう。
当然、税は上がり、民達の生活が苦しくなろうがお構い無しの政策を幾つも通せるようになるのだ。物価も上がるだろう。
「しかしゼーファ殿下は、隣国の経済状況を一変させるほどの知識と手腕があります。このまま何もせず王国が廃れていく様を見ているだけならば、ゼーファ殿下が王になられる為の協力した方が良いと判断したのです。」
「……侯爵を少し甘く見ていたようじゃ。まさか隣国での動きが知られていたとはな。」
「商人にとって、情報は第二の命とも言えるほど大切なのです。それが経済に関することであれば、より敏感にもなりますよ。」
流石はスレードル侯爵だ。隣国の発展にゼーファ様が関与していることを知るためには、かなりの情報収集力がいる。そしておそらく侯爵であれば、知りたいと思った情報は確実に手に入れることができるのだろう。やはり敵には回したくない方だ。
「そして決め手となったのは、リエラ殿がゼーファ殿下に付いたことです。武力を持たなかった殿下が武力を得て、さらには王太子殿下の仕事を代わりに行っていることにより、一部の権力も保持されています。」
「…確かに、一部とはいえ妾は権力を持っておるな。」
「権力で比べれば、王太子殿下と差異がないほどになっているでしょう。リエラ殿が居るだけで、武力はそれ以上です。何より広い見識と膨大な知識をお持ちの殿下であれば、王位を取ることは夢ではありませんから。」
「……スレードル侯爵よ、お主の意思は十分理解した。その上で言わせてもらおう。──是非とも妾に協力して欲しい。」
「…!ありがたき幸せにございます。」
ゼーファ様はスレードル侯爵を味方に付けると決めた。予想通りだ。
これでゼーファ様は、権力はジルファーと同等、武力・財力・情報収集力はジルファー以上の力を持つ事になる。王位継承争いには十分過ぎる力が揃ったという訳だ。
ゼーファ様がこれだけの力を手にした今、物事は動き始めるだろう──
102
お気に入りに追加
221
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!
宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。
そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。
慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。
貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。
しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。
〰️ 〰️ 〰️
中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。
完結しました。いつもありがとうございます!

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
いつだって二番目。こんな自分とさよならします!
椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。
ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。
ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。
嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。
そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!?
小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。
いつも第一王女の姉が優先される日々。
そして、待ち受ける死。
――この運命、私は変えられるの?
※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる