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21話 真正面
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翌朝。
私専用とはいえ初めての場所で寝たにも拘わらず、ぐっすりと眠ることができた。最高級ベッドのおかげだろう。
「おはよう、主。」
「…ヴィーレ……おはよう。」
ヴィーレは相変わらず、侍女のようにテキパキと事を行っている。それも嬉々として、花歌を歌いながらだ。
《悪魔族》は寝る必要が無く、食事という概念も存在しない。気まぐれに寝たり食事をしたりするそうだが、半分は娯楽として扱われるという。
「夜は何も起こらなかったかしら?」
「何事も無かったよ。ただあの王子サマが、何故毒殺できなかったのかと少し焦っている様子だった。今日も何か仕掛けてくるかもしれないね。」
「そう…。」
《悪魔族》は絶大な力を誇る種族だ。魔法も属性に縛られず、あらゆる魔法を無詠唱で発動させることができる。上位の存在ほど、高位魔法を簡単に発動可能だそう。
そしてヴィーレは、配下と視界を共有できるという。しかしそれはヴィーレからの一方的な干渉で、配下達がヴィーレの視界を覗き見ることは不可能なのだ。
「…!主、すぐに王女サマの元へ向かうよ!!」
「えっ…!?」
用意を一瞬で済ませ、ヴィーレに急かされてゼーファ様の自室へと影で移動した。ヴィーレは私の影へと潜り、ゼーファ様の部屋に着いてから再び姿を現した。
「リ、リエラ?!それにヴィーレも…。何かあったのか?」
「それが…。」
「あの王子サマが、この部屋に向かって来ている。何が目的か分からないけど、あの形相はかなりヤバいと思うよ。」
こんな朝早くから来るなど、何かあるに違いない。そう判断した私は、ゼーファ様に結界を張った。魔法も物理も防ぐ結界だ。
ヴィーレはジルファーが来るまでに影へと戻った。
足音が近付いてきたかと思うと、部屋の扉が勢いよく開けられた。入ってきたのはジルファーと、その護衛二人だ。
「姉上!」
「……ジルファー。ノックも無しに入ってくるとは何事じゃ?」
ゼーファ様はジルファーを睨み、私とヴィーレは警戒を強めた。結界を張っているとはいえ、それすらも貫通する攻撃方法があるかもしれないからだ。
「姉上…、王を目指すおつもりなのですか?」
「そうじゃ。実の姉弟であるお主と争わねばならぬのは心苦しいが、これは妾が覚悟を持って決めたこと。これからはライバルという訳じゃ。」
「……大人しく王女として生きていれば良いものを…。」
ジルファーはそう呟くと、今度は私を睨んだ。般若のような形相だったが、怖いとは思わなかった。そもそもジルファー相手に怖がる要素など一つも無く、寧ろ怒りに満ちたその表情を見て笑いを堪えるのに必死だった。仮面で私の表情はある程度隠れている……はずだ。
「…冒険者リエラ。姉上に付くとは、やはり先の見えていない無能だな。」
「それはこれから分かることです。」
「ならば今この場で、お前が使えるべきは誰かを分からせてやろう…!」
そう言った瞬間、ジルファーの後方で控えていた護衛の一人が、ゼーファ様に向かって剣を振り下ろした。
私は剣がゼーファ様に当たるよりも早く移動し、その剣先を指二本で止める。
「誰に、何をしているのか……分かっているの?」
抑えていた魔力を放ち、威圧する。ジルファー、そして騎士までもが、私の威圧を受けてその場にへたりこんだ。今もガタガタと震えている。
念の為、闇魔法で三人を拘束しておいた。何か小細工を仕掛けられても迷惑だからだ。
正直言って、もう少し、ほんの少しでも賢く立ち回るだろうと思っていた。しかし毒殺が失敗に終わったと知ると、今度は真正面から乗り込んできて殺害しようとしたのだ。暗殺者を差し向けるでもなく、城下に赴いている際の事故に見せかけるでもなく、ただただ正面から来た。馬鹿にも程があるだろう。
私が振り返ると、ゼーファ様は頷いた。どうやら穏便に済ませたい様子。
「──ジルファー・アンドレイズ。」
「っ…!」
「王族殺人未遂として、このまま突き出すこともできるわね。それで捕まれば、最悪死罪かしら…。」
「なっ…そんな……こと…。」
「でもゼーファ様はお優しいから、許してくださるそうよ。」
「っ…。」
驚いた顔をした状態で固まっているジルファー。さらに私とゼーファ様を交互に見始めた。本当かと疑っているようだ。
「嘘は言っていないわ。けれど殿下がゼーファ様を亡き者にしようとした事実は変わらない。ゼーファ様の意向だから従うけれど、次は無いと思いなさい。」
三人を拘束している闇魔法をそのまま動かし、部屋の外へと強制的に出した。
部屋の扉を閉めてから魔法を解除すると、ドタバタと煩い足音を立てて去って行った。
私はゼーファ様の方に向き直る。
「あのまま返して良かったの?今回の殺人未遂を許す代わりに、王位継承争いから降りてもらうよう交渉することもできたでしょう。あれでは次に何をされるか分からないわ。」
「……そうじゃな。しかし妾は姉弟を手にかけるようなマネをしたくはない。甘い考えだと分かっておるが…。」
「…ゼーファ様らしいわね。」
「そ、そうか…?」
「ゼーファ様は決して甘い訳ではないわ。姉弟を大切に思う気持ちは当然のもの。だからそう自分を悲観する必要はないと、私は思うわね。」
「……リエラには助けられてばかりじゃな…。」
たとえジルファーに王位継承争いから引き下がるように交渉したとしても、応じなかっただろう。違うものならば何でも用意すると言い、王位継承争いだけは譲らなかったはずだ。
そして私が脅すために『死罪』などと口にしたが、ジルファーが味方に付けている貴族達の力を借りれば、死罪どころか牢から数日で出てこられる可能性がある。そこまで考えが及ばないジルファー相手だからこそ、この脅しを使ったのだ。
「一先ずこの一件を、噂として流すとしよう。」
私専用とはいえ初めての場所で寝たにも拘わらず、ぐっすりと眠ることができた。最高級ベッドのおかげだろう。
「おはよう、主。」
「…ヴィーレ……おはよう。」
ヴィーレは相変わらず、侍女のようにテキパキと事を行っている。それも嬉々として、花歌を歌いながらだ。
《悪魔族》は寝る必要が無く、食事という概念も存在しない。気まぐれに寝たり食事をしたりするそうだが、半分は娯楽として扱われるという。
「夜は何も起こらなかったかしら?」
「何事も無かったよ。ただあの王子サマが、何故毒殺できなかったのかと少し焦っている様子だった。今日も何か仕掛けてくるかもしれないね。」
「そう…。」
《悪魔族》は絶大な力を誇る種族だ。魔法も属性に縛られず、あらゆる魔法を無詠唱で発動させることができる。上位の存在ほど、高位魔法を簡単に発動可能だそう。
そしてヴィーレは、配下と視界を共有できるという。しかしそれはヴィーレからの一方的な干渉で、配下達がヴィーレの視界を覗き見ることは不可能なのだ。
「…!主、すぐに王女サマの元へ向かうよ!!」
「えっ…!?」
用意を一瞬で済ませ、ヴィーレに急かされてゼーファ様の自室へと影で移動した。ヴィーレは私の影へと潜り、ゼーファ様の部屋に着いてから再び姿を現した。
「リ、リエラ?!それにヴィーレも…。何かあったのか?」
「それが…。」
「あの王子サマが、この部屋に向かって来ている。何が目的か分からないけど、あの形相はかなりヤバいと思うよ。」
こんな朝早くから来るなど、何かあるに違いない。そう判断した私は、ゼーファ様に結界を張った。魔法も物理も防ぐ結界だ。
ヴィーレはジルファーが来るまでに影へと戻った。
足音が近付いてきたかと思うと、部屋の扉が勢いよく開けられた。入ってきたのはジルファーと、その護衛二人だ。
「姉上!」
「……ジルファー。ノックも無しに入ってくるとは何事じゃ?」
ゼーファ様はジルファーを睨み、私とヴィーレは警戒を強めた。結界を張っているとはいえ、それすらも貫通する攻撃方法があるかもしれないからだ。
「姉上…、王を目指すおつもりなのですか?」
「そうじゃ。実の姉弟であるお主と争わねばならぬのは心苦しいが、これは妾が覚悟を持って決めたこと。これからはライバルという訳じゃ。」
「……大人しく王女として生きていれば良いものを…。」
ジルファーはそう呟くと、今度は私を睨んだ。般若のような形相だったが、怖いとは思わなかった。そもそもジルファー相手に怖がる要素など一つも無く、寧ろ怒りに満ちたその表情を見て笑いを堪えるのに必死だった。仮面で私の表情はある程度隠れている……はずだ。
「…冒険者リエラ。姉上に付くとは、やはり先の見えていない無能だな。」
「それはこれから分かることです。」
「ならば今この場で、お前が使えるべきは誰かを分からせてやろう…!」
そう言った瞬間、ジルファーの後方で控えていた護衛の一人が、ゼーファ様に向かって剣を振り下ろした。
私は剣がゼーファ様に当たるよりも早く移動し、その剣先を指二本で止める。
「誰に、何をしているのか……分かっているの?」
抑えていた魔力を放ち、威圧する。ジルファー、そして騎士までもが、私の威圧を受けてその場にへたりこんだ。今もガタガタと震えている。
念の為、闇魔法で三人を拘束しておいた。何か小細工を仕掛けられても迷惑だからだ。
正直言って、もう少し、ほんの少しでも賢く立ち回るだろうと思っていた。しかし毒殺が失敗に終わったと知ると、今度は真正面から乗り込んできて殺害しようとしたのだ。暗殺者を差し向けるでもなく、城下に赴いている際の事故に見せかけるでもなく、ただただ正面から来た。馬鹿にも程があるだろう。
私が振り返ると、ゼーファ様は頷いた。どうやら穏便に済ませたい様子。
「──ジルファー・アンドレイズ。」
「っ…!」
「王族殺人未遂として、このまま突き出すこともできるわね。それで捕まれば、最悪死罪かしら…。」
「なっ…そんな……こと…。」
「でもゼーファ様はお優しいから、許してくださるそうよ。」
「っ…。」
驚いた顔をした状態で固まっているジルファー。さらに私とゼーファ様を交互に見始めた。本当かと疑っているようだ。
「嘘は言っていないわ。けれど殿下がゼーファ様を亡き者にしようとした事実は変わらない。ゼーファ様の意向だから従うけれど、次は無いと思いなさい。」
三人を拘束している闇魔法をそのまま動かし、部屋の外へと強制的に出した。
部屋の扉を閉めてから魔法を解除すると、ドタバタと煩い足音を立てて去って行った。
私はゼーファ様の方に向き直る。
「あのまま返して良かったの?今回の殺人未遂を許す代わりに、王位継承争いから降りてもらうよう交渉することもできたでしょう。あれでは次に何をされるか分からないわ。」
「……そうじゃな。しかし妾は姉弟を手にかけるようなマネをしたくはない。甘い考えだと分かっておるが…。」
「…ゼーファ様らしいわね。」
「そ、そうか…?」
「ゼーファ様は決して甘い訳ではないわ。姉弟を大切に思う気持ちは当然のもの。だからそう自分を悲観する必要はないと、私は思うわね。」
「……リエラには助けられてばかりじゃな…。」
たとえジルファーに王位継承争いから引き下がるように交渉したとしても、応じなかっただろう。違うものならば何でも用意すると言い、王位継承争いだけは譲らなかったはずだ。
そして私が脅すために『死罪』などと口にしたが、ジルファーが味方に付けている貴族達の力を借りれば、死罪どころか牢から数日で出てこられる可能性がある。そこまで考えが及ばないジルファー相手だからこそ、この脅しを使ったのだ。
「一先ずこの一件を、噂として流すとしよう。」
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