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20話 素質
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ヴィーレから放たれた名に、この場に居た全員が驚かなかった。想像通りの人物だったからだ。
暗殺者を送ってくるのではなく、毒殺をしようとしたことから、ジルファーの焦りが伝わってくる。さらに毒味をすり抜けることができる毒だったのだ。本気でゼーファ様の命を狙っているのだろう。
「……王位争いとは、こういうものであろう…。」
「ゼーファ様…。」
過去にも、王位争いによって暗殺された王族は多数いる。
王になるためには、ある程度の非情さが必要だ。だが非情過ぎるのも問題だろう。
「…ヴィーレよ、感謝する。」
ヴィーレに対し、頭を下げたゼーファ様。
「……頭を下げるべき相手は、ボクじゃなくてボクの主だ。主の命に従って、ボクは動いただけだよ。」
「そうか…。」
ヴィーレは少し恥ずかしそうに、ゼーファ様から視線を逸らした。ゼーファ様は優しげな笑みを浮かべているが、どこか羨ましげだ。
「妾にも、特別な何かがあれば…。」
「ゼーファ様は十分、他人には無いものを持っているわよ。」
「…?」
「類稀なる観察眼に、圧倒的な知識量。そして何より、王の素質を持っている。私には無いものをゼーファ様は持っているわ。……私は偉そうに言える立場ではないけれど…。」
「リエラ…。」
私は誰よりも国を、民を想える者が、王になるべきだと考えている。そしてその考えは、ジルファーの婚約者となったあの日から変わっていない。
私が初めてジルファーと顔を合わせた時、内面にある黒い感情が透けて見えた。それが『玉座への拘り』だと気付いたのは、王太子の仕事を代わりに行い始めたころだ。
ジルファーは自分が王になるためならばどのような手段も厭わない。だからこそ、実の姉であるゼーファ様でさえも、迷いなく暗殺しようとする。全く、最低極まりない男だ。
「お主達は妾の恩人じゃ。故に、妾は何も聞かぬ。リエラとヴィーレの関係や、ヴィーレ自身の正体も、知らぬふりをする。しかしこれだけは頼みたい。今後も妾に力を貸して欲しい。」
「…勿論よ。ゼーファ様が国と民を見捨てない限り、私は貴女に仕え続けるわ。」
「……感謝する。」
おそらくゼーファ様は、ヴィーレの正体が《悪魔族》であると薄々気付いている。その上で、何も聞かず、知らないふりをすると言った。私としてはかなりありがたいことだ。
《悪魔族》は、この世界に顕現するだけで災厄をもたらすと言われ、《悪魔》と同じように討伐対象とされている。
しかし討伐された例は無く、そもそもこの世に顕現すること自体が非常に稀だ。ヴィーレ曰く、『《悪魔族》は召喚されなければ、この世界に顕現できない』とのこと。そしてこの世界の住人が彼らを召喚するためには、膨大な魔力或いは彼らに気に入られる必要がある。
『ボクらの異界から、この世界を覗き見ることはできるんだ。ただ《悪魔族》には物好きが多くてね。自分が気に入った者でなければ、召喚に応じようとすらしない。』
これは、過去にヴィーレが言っていたことだ。彼らが気に入ったならば、少量の魔力でも召喚に応じてくれるそう。足りない分の魔力を、《悪魔族》自身が補うからだ。ヴィーレもこの方法で、私の召喚魔法に応じたという。
これまでも《悪魔族》を呼び出そうとした裏組織があったそうだが、《悪魔族》側が誰一人として応じず、その召喚魔法は《悪魔》を呼び出す結果に終わったらしい。
「今後は警戒を強めなければならないわね。ヴィーレもよろしく頼むわ。」
「了解だよ。」
その日の夜、ゼーファ様が用意してくれていた、私専用の部屋へと入る。
冒険者として泊まっていた宿とは比べ物にならないほどの、豪華な家具が置かれていた。
それらに驚きつつも、ヴィーレと今後について話し合う。
「ヴィーレ、ゼーファ様の護衛と城内の監視を強化しておいて。」
「既に配下達を召喚して、監視させているよ。城内だけでなく、城の外にも至る所にボクの目がある。王女サマの護衛には、配下の中で最も手練の者を二人付けておいた。」
「それなら安心ね。」
「もし暗殺者を見つけたらどうする?」
「一先ず私に知らせて欲しいわ。貴方達が動けば、いらぬ噂を立てられるかもしれないから。」
「了解。何かあれば直ぐに知らせるようにするよ。」
「ええ、よろしくね。」
私はベッドに横になり、今日を振り返る。
まさか一日目にして、ゼーファ様が毒殺されそうになるとは思ってもいなかった。ヴィーレが居なければ…、そう何度も考えてしまう。
これからさらに大変になるだろうと覚悟を決め、私は眠りについたのだった。
暗殺者を送ってくるのではなく、毒殺をしようとしたことから、ジルファーの焦りが伝わってくる。さらに毒味をすり抜けることができる毒だったのだ。本気でゼーファ様の命を狙っているのだろう。
「……王位争いとは、こういうものであろう…。」
「ゼーファ様…。」
過去にも、王位争いによって暗殺された王族は多数いる。
王になるためには、ある程度の非情さが必要だ。だが非情過ぎるのも問題だろう。
「…ヴィーレよ、感謝する。」
ヴィーレに対し、頭を下げたゼーファ様。
「……頭を下げるべき相手は、ボクじゃなくてボクの主だ。主の命に従って、ボクは動いただけだよ。」
「そうか…。」
ヴィーレは少し恥ずかしそうに、ゼーファ様から視線を逸らした。ゼーファ様は優しげな笑みを浮かべているが、どこか羨ましげだ。
「妾にも、特別な何かがあれば…。」
「ゼーファ様は十分、他人には無いものを持っているわよ。」
「…?」
「類稀なる観察眼に、圧倒的な知識量。そして何より、王の素質を持っている。私には無いものをゼーファ様は持っているわ。……私は偉そうに言える立場ではないけれど…。」
「リエラ…。」
私は誰よりも国を、民を想える者が、王になるべきだと考えている。そしてその考えは、ジルファーの婚約者となったあの日から変わっていない。
私が初めてジルファーと顔を合わせた時、内面にある黒い感情が透けて見えた。それが『玉座への拘り』だと気付いたのは、王太子の仕事を代わりに行い始めたころだ。
ジルファーは自分が王になるためならばどのような手段も厭わない。だからこそ、実の姉であるゼーファ様でさえも、迷いなく暗殺しようとする。全く、最低極まりない男だ。
「お主達は妾の恩人じゃ。故に、妾は何も聞かぬ。リエラとヴィーレの関係や、ヴィーレ自身の正体も、知らぬふりをする。しかしこれだけは頼みたい。今後も妾に力を貸して欲しい。」
「…勿論よ。ゼーファ様が国と民を見捨てない限り、私は貴女に仕え続けるわ。」
「……感謝する。」
おそらくゼーファ様は、ヴィーレの正体が《悪魔族》であると薄々気付いている。その上で、何も聞かず、知らないふりをすると言った。私としてはかなりありがたいことだ。
《悪魔族》は、この世界に顕現するだけで災厄をもたらすと言われ、《悪魔》と同じように討伐対象とされている。
しかし討伐された例は無く、そもそもこの世に顕現すること自体が非常に稀だ。ヴィーレ曰く、『《悪魔族》は召喚されなければ、この世界に顕現できない』とのこと。そしてこの世界の住人が彼らを召喚するためには、膨大な魔力或いは彼らに気に入られる必要がある。
『ボクらの異界から、この世界を覗き見ることはできるんだ。ただ《悪魔族》には物好きが多くてね。自分が気に入った者でなければ、召喚に応じようとすらしない。』
これは、過去にヴィーレが言っていたことだ。彼らが気に入ったならば、少量の魔力でも召喚に応じてくれるそう。足りない分の魔力を、《悪魔族》自身が補うからだ。ヴィーレもこの方法で、私の召喚魔法に応じたという。
これまでも《悪魔族》を呼び出そうとした裏組織があったそうだが、《悪魔族》側が誰一人として応じず、その召喚魔法は《悪魔》を呼び出す結果に終わったらしい。
「今後は警戒を強めなければならないわね。ヴィーレもよろしく頼むわ。」
「了解だよ。」
その日の夜、ゼーファ様が用意してくれていた、私専用の部屋へと入る。
冒険者として泊まっていた宿とは比べ物にならないほどの、豪華な家具が置かれていた。
それらに驚きつつも、ヴィーレと今後について話し合う。
「ヴィーレ、ゼーファ様の護衛と城内の監視を強化しておいて。」
「既に配下達を召喚して、監視させているよ。城内だけでなく、城の外にも至る所にボクの目がある。王女サマの護衛には、配下の中で最も手練の者を二人付けておいた。」
「それなら安心ね。」
「もし暗殺者を見つけたらどうする?」
「一先ず私に知らせて欲しいわ。貴方達が動けば、いらぬ噂を立てられるかもしれないから。」
「了解。何かあれば直ぐに知らせるようにするよ。」
「ええ、よろしくね。」
私はベッドに横になり、今日を振り返る。
まさか一日目にして、ゼーファ様が毒殺されそうになるとは思ってもいなかった。ヴィーレが居なければ…、そう何度も考えてしまう。
これからさらに大変になるだろうと覚悟を決め、私は眠りについたのだった。
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