【完結】王位に拘る元婚約者様へ

凛 伊緒

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19話 殺意

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「何奴!?」



 リリアナがゼーファ様を守るように前に出た。どうやらヴィーレが不審者だと思っている様子。それも無理はない。知らぬ者から見れば、急に部屋に現れたように見えるのだから。



「彼女は……。」

「下がれ、リリアナよ。」

「で、ですが…!」

「敵意は感じられぬ。問題なかろう。」



 私が説明するよりも早く、ゼーファ様はリリアナを下がらせた。何か確信めいた表情をされている。



「この者はヴィーレ。ラリエットの侍女であった者じゃ。そうであろう、リエラ。」

「ええ…、……知っていたの?」

「何度か見かけたことがあるだけじゃ。心からラリエットに忠誠を誓っているように見えたものでな、印象に残っていた。まさかこれほどの手練とは思ってもいなかったが…。」



 ゼーファ様がヴィーレを見る機会があったのは、僅か数回程度。パーティーやお茶会に同行させることは少なかったからだ。同行していたとしても、影に潜んで私の護衛をしているか、周辺に危険人物が居ないかなどを見回っているのみ。ヴィーレが私付きの侍女として会場まで入ったのは、本当に数えられる程度の回数だった。
 さらにはフードで見えずらくなっているにも拘わらず、ゼーファ様は今の一瞬で、現れたのがヴィーレであると気付いていた。この方だけは、本気で敵に回したくないものだ……。



「それでヴィーレ、何故出てきたの?」

「あっ…えぇと、命令違反してごめん…。」

「私は護衛をするようにとしか命令していないから、別に責めたりしないわよ。何か危険があったから、出てきたのでしょう?」



 ヴィーレは一応、私の《使い魔》だ。召喚時の強制契約を無効にできるほどの力を持っているが、ヴィーレはあえて有効にしたままの状態で私に従っている。故に、主である私の命令に反する行動をとった場合、激痛などの不快感を与えられるはずだが、ヴィーレにその様子はない。
 そもそも私は、『私とゼーファ様を護衛するように』としか命令していないのだ。『影の中から』など指定している訳ではないので、ヴィーレは命令違反を犯した訳ではない。寧ろゼーファ様に何かあった場合の方が、違反とみなされるだろう。
  


「そのケーキ、食べたら死ぬよ。」

「なっ…!?」

「致死量の毒が盛られている。それも遅効性の毒だ。全て食べ終えてから十数分後、徐々に身体が動かなくなり、一時間後には死に至るだろうね。」



 遅効性の毒は、毒が全身に回った時に効果が出始める。つまり症状が見られた時点で既に手遅れだということ。 狙った相手を確実に死に追いやりたい場合に使われることが多い。



「強烈な殺意を感じるわね…。」

「…リリアナよ。」

「わ、私ではありませんっ!ありませんが……っ…。」



 リリアナはガタガタと震え、必死の形相で訴えている。
 とはいえ私もゼーファ様も、忠誠心の厚い彼女が毒を盛ったとは思っていない。現にこうして、土下座をしているのだから。
 しかしリリアナの監視の元、毒味は行われているはずだ。ならば何時、どのような方法で毒を入れたと言うのだろうか?毒が入っていることを知っていたヴィーレならば、何か知っているはずだ。



「リリアナ……さん…だっけ。彼女は悪くないよ。毒味はしっかりと行っていたからね。問題はこのケーキ自体さ。ケーキを全て食べた後に、効果が出るようになってる。最悪な毒だよね。ちょっと食べたくらいなら、毒だと気付かないんだからさ。」

「毒味の意味を成さないじゃない…。」

「そうだね。」



 今回はヴィーレが居たから良かったが、知らずにゼーファ様がケーキを口にしていたらと思うとゾッとする。



「ヴィーレよ、感謝する。お主は妾の命の恩人じゃ。それにリリアナが無実であるとの証言までしてくれた。心から礼を言おう。」

「…ボクは主の命に従ったまで。それに毒殺を防ぐことができても、攻撃の手が止む訳ではない…。」



 ヴィーレ曰く、ケーキは城下の店から王城へと届けられた十数分後に、毒入りのものとすり替えられたそう。見た目は全く同じものであり、味も違和感が無い程度に再現されていただろうと。



「誰がゼーファ様に毒を盛ろうとしたのかしら?」

「毒入りケーキを作った者は、暗殺者によって既に殺されているよ。証拠隠滅のためにね…。重要なのは、毒殺を企てた張本人だ。その者をどうにかできなければ、王女サマはずっと狙われ続けることになるだろうね。」



 証拠隠滅のために人を殺すなど、どうかしている。だがそれだけ徹底しなければ、ゼーファ様に特定されると考えているのだろう。まぁその通りなのだが。



「その張本人というのが誰か、分かっているのでしょう?」

「勿論。王女サマを邪魔に思っている者だよ。名は……
 ──ジルファー・アンドレイズ。」
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