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18話 対等
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──翌日。
私はギルドにて、Aランク以上の依頼をできる限り完了させていた。ゼーファ殿下に仕えるにあたり、少しでも高位ランクの依頼を減らしておくためだ。
「頼まれていたAランクの依頼、最後の一つも終わらせて来たわよ。」
「助かった。今このギルドにはAランク以上の冒険者が居ないからな。」
「ギルマスが居るじゃない。」
「俺はギルドの仕事で忙しい。それに『元』Aランク冒険者だからな。今の実力はAランク以下だろうさ。」
「そうかしら……、まぁいいわ。とりあえずSランク相当の依頼は無いのよね?」
「ああ。そもそもSランク相当の依頼をされても困るけどな。」
「……それもそうね。」
明日からは、王城にてゼーファ殿下の傍で護衛だ。建前上は、私はゼーファ殿下のただの護衛となっている。しかし殿下の書類仕事や視察にも同行し、補佐を行う。
さらに深夜の暗殺者対策も任されていた。そちらはヴィーレが行ってくれるそうなので、私の負担は少し軽くなるだろう。
そうして翌日──
(まさか、仕事のために王城に戻ってくるなんてね…。)
もう関わりを持たないと思っていたが、こうして帰ってきてしまった。何の因果が巡っているのやら…。
「今日からよろしく頼むぞ。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
私は『冒険者リエラ』としての格好で、ゼーファ殿下の傍に仕えることとなった。Sランク冒険者が誰かに仕えるとなると、否が応でも噂が立つ。故に変装をするべきだと思ったのだが、あえてこのままで居て欲しいそうだ。『Sランク冒険者がゼーファ殿下に付いた』、その事実を広め、武力行使は意味を成さないとジルファーやその他貴族に理解させることこそが狙いであり、私を引き入れた理由なのだった。
これには私も納得し、噂を武器に使うためにも、私はリエラの格好でゼーファ殿下と共に城内を歩く。すると周囲の使用人や貴族の話し声が聞こえてきた。
「「ねぇ知ってる?Sランク冒険者、『闇黒麗裂』リエラが、ゼーファ殿下に付いたって話!」」
「「「えぇ、噂が流れているわね。」」」
「「圧倒的な力を持つSランク冒険者が、まさかゼーファ殿下に付くなんてねぇ。そもそも本当なのかしら?」」
「「「殿下と一緒にここを歩いているということは、本当なんじゃない?」」」
「「お茶会をするために、ただ案内されているだけかもしれないわよ?」」
「「「その可能性もあるわね…。」」」
リエラとして王城で働き始めてまだ初日だが、既に噂が広がっている様子。おそらくゼーファ殿下が広めたのだろう。
貴族社会において、情報は何よりも重要な武器だ。嘘の噂を流し、相手を混乱させることもあるほどに…。
今回はジルファーに向けた、ある種のメッセージでもある。簡単に言えば、『手を出すな、仮に出したとしても無意味に終わる』という意図が込められているのだ。
「噂は順調に広まっておるな。」
「そのようね。王城の者は皆、本当に噂話が好きよね。」
「些細な話でも耳に入れておけと、家の者から言われておると聞くぞ。この様子では、地方貴族や民達にこの噂が広まるのも、時間の問題であろうな。」
現在、私はゼーファ殿下に敬語を使っていない。今日王城に着いた時、殿下から『対等でいたい』と言われたからだ。
『お主は今、地位的に見れば妾よりも高い。妾に仕えていると言えど、態度が対等であっても不思議ではあるまい?妾も対等にものが言える相手が欲しかったのじゃ。丁度良かろう。』
──と。
勿論、初めは断った。私は殿下を本当の姉のように慕っていたのだ。故に対等に接することなど無理だと。だが最終的に押し切られてしまった。名前は『ゼーファ様』呼びで譲らなかったが、敬語を使えば話を聞いてもらえない。
暫く城内を歩き、ゼーファ様の部屋へと戻ってきた。
室内ではゼーファ様の侍女であり側近のリリアナが、茶菓子を用意して待っていた。侍女は身支度などの身の回りの世話をするだけだが、リリアナはゼーファ様の仕事を手伝うことがある。故に『侍女兼側近』という役職になっていた。
「お帰りなさいませ、ゼーファ様。リエラ様もご苦労様です。」
「リリアナさん、私に畏まる必要は無いわ。今は同僚として、対等に接して欲しいわね。」
「そうはいきません。リエラ様は現役Sランク冒険者です。さらにはゼーファ様と対等に接しておられます。侍女である私ごときが、貴方様と同格という訳にはまいりませんので。『さん』付けも不要にございます。」
「そ、そう……。」
王子や王女に『殿下』と敬称を付けるのは当然だが、それが『様』に変わる時がある。それは、その王子或いは王女《個人》に仕えた時だ。ただの使用人として仕えるのではなく、心からその方のみに仕える時、敬称は『様』に変えるのだ。『貴方様に仕えています』と、主に伝える意味合いもある。
そしてこれは王子や王女に限った話ではなく、この世界の一種のルールとも言えるのだ。己が主と認めた者に対し、役職ではなく『様』付けで呼ぶ。それを見た周囲の者にも、この方に仕えているのだと示すことができる。
リリアナも、ゼーファ様だけに仕えている様子。
「リリアナよ、お主は堅過ぎるのじゃ。リエラが困っているではないか。」
「お言葉ですが、ゼーファ様が楽観的過ぎるだけかと。」
リリアナが即答しているあたり、おそらく何度かこのような会話があったのだろう。しかし私から見れば、ゼーファ様は本気でリリアナと対等に過ごしたいのだと分かる。幼い頃からずっと侍女をしていると聞いているが、それだけゼーファ様のリリアナに対する信頼は厚いものなのだろう。そしてリリアナの忠誠もかなりのものだ。
「本日は城下より取り寄せた、レモンケーキをご用意しました。」
「美味しそうじゃ。これはもしや、今話題のあの店か?」
「はい。ゼーファ様が『食べてみたい』と仰っていましたので。」
ゼーファ様がフォークを手にし、ケーキを口に運ぼうとした時、私の影からかなり慌てた様子のヴィーレが出てきた。
「待って!!」
私はギルドにて、Aランク以上の依頼をできる限り完了させていた。ゼーファ殿下に仕えるにあたり、少しでも高位ランクの依頼を減らしておくためだ。
「頼まれていたAランクの依頼、最後の一つも終わらせて来たわよ。」
「助かった。今このギルドにはAランク以上の冒険者が居ないからな。」
「ギルマスが居るじゃない。」
「俺はギルドの仕事で忙しい。それに『元』Aランク冒険者だからな。今の実力はAランク以下だろうさ。」
「そうかしら……、まぁいいわ。とりあえずSランク相当の依頼は無いのよね?」
「ああ。そもそもSランク相当の依頼をされても困るけどな。」
「……それもそうね。」
明日からは、王城にてゼーファ殿下の傍で護衛だ。建前上は、私はゼーファ殿下のただの護衛となっている。しかし殿下の書類仕事や視察にも同行し、補佐を行う。
さらに深夜の暗殺者対策も任されていた。そちらはヴィーレが行ってくれるそうなので、私の負担は少し軽くなるだろう。
そうして翌日──
(まさか、仕事のために王城に戻ってくるなんてね…。)
もう関わりを持たないと思っていたが、こうして帰ってきてしまった。何の因果が巡っているのやら…。
「今日からよろしく頼むぞ。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
私は『冒険者リエラ』としての格好で、ゼーファ殿下の傍に仕えることとなった。Sランク冒険者が誰かに仕えるとなると、否が応でも噂が立つ。故に変装をするべきだと思ったのだが、あえてこのままで居て欲しいそうだ。『Sランク冒険者がゼーファ殿下に付いた』、その事実を広め、武力行使は意味を成さないとジルファーやその他貴族に理解させることこそが狙いであり、私を引き入れた理由なのだった。
これには私も納得し、噂を武器に使うためにも、私はリエラの格好でゼーファ殿下と共に城内を歩く。すると周囲の使用人や貴族の話し声が聞こえてきた。
「「ねぇ知ってる?Sランク冒険者、『闇黒麗裂』リエラが、ゼーファ殿下に付いたって話!」」
「「「えぇ、噂が流れているわね。」」」
「「圧倒的な力を持つSランク冒険者が、まさかゼーファ殿下に付くなんてねぇ。そもそも本当なのかしら?」」
「「「殿下と一緒にここを歩いているということは、本当なんじゃない?」」」
「「お茶会をするために、ただ案内されているだけかもしれないわよ?」」
「「「その可能性もあるわね…。」」」
リエラとして王城で働き始めてまだ初日だが、既に噂が広がっている様子。おそらくゼーファ殿下が広めたのだろう。
貴族社会において、情報は何よりも重要な武器だ。嘘の噂を流し、相手を混乱させることもあるほどに…。
今回はジルファーに向けた、ある種のメッセージでもある。簡単に言えば、『手を出すな、仮に出したとしても無意味に終わる』という意図が込められているのだ。
「噂は順調に広まっておるな。」
「そのようね。王城の者は皆、本当に噂話が好きよね。」
「些細な話でも耳に入れておけと、家の者から言われておると聞くぞ。この様子では、地方貴族や民達にこの噂が広まるのも、時間の問題であろうな。」
現在、私はゼーファ殿下に敬語を使っていない。今日王城に着いた時、殿下から『対等でいたい』と言われたからだ。
『お主は今、地位的に見れば妾よりも高い。妾に仕えていると言えど、態度が対等であっても不思議ではあるまい?妾も対等にものが言える相手が欲しかったのじゃ。丁度良かろう。』
──と。
勿論、初めは断った。私は殿下を本当の姉のように慕っていたのだ。故に対等に接することなど無理だと。だが最終的に押し切られてしまった。名前は『ゼーファ様』呼びで譲らなかったが、敬語を使えば話を聞いてもらえない。
暫く城内を歩き、ゼーファ様の部屋へと戻ってきた。
室内ではゼーファ様の侍女であり側近のリリアナが、茶菓子を用意して待っていた。侍女は身支度などの身の回りの世話をするだけだが、リリアナはゼーファ様の仕事を手伝うことがある。故に『侍女兼側近』という役職になっていた。
「お帰りなさいませ、ゼーファ様。リエラ様もご苦労様です。」
「リリアナさん、私に畏まる必要は無いわ。今は同僚として、対等に接して欲しいわね。」
「そうはいきません。リエラ様は現役Sランク冒険者です。さらにはゼーファ様と対等に接しておられます。侍女である私ごときが、貴方様と同格という訳にはまいりませんので。『さん』付けも不要にございます。」
「そ、そう……。」
王子や王女に『殿下』と敬称を付けるのは当然だが、それが『様』に変わる時がある。それは、その王子或いは王女《個人》に仕えた時だ。ただの使用人として仕えるのではなく、心からその方のみに仕える時、敬称は『様』に変えるのだ。『貴方様に仕えています』と、主に伝える意味合いもある。
そしてこれは王子や王女に限った話ではなく、この世界の一種のルールとも言えるのだ。己が主と認めた者に対し、役職ではなく『様』付けで呼ぶ。それを見た周囲の者にも、この方に仕えているのだと示すことができる。
リリアナも、ゼーファ様だけに仕えている様子。
「リリアナよ、お主は堅過ぎるのじゃ。リエラが困っているではないか。」
「お言葉ですが、ゼーファ様が楽観的過ぎるだけかと。」
リリアナが即答しているあたり、おそらく何度かこのような会話があったのだろう。しかし私から見れば、ゼーファ様は本気でリリアナと対等に過ごしたいのだと分かる。幼い頃からずっと侍女をしていると聞いているが、それだけゼーファ様のリリアナに対する信頼は厚いものなのだろう。そしてリリアナの忠誠もかなりのものだ。
「本日は城下より取り寄せた、レモンケーキをご用意しました。」
「美味しそうじゃ。これはもしや、今話題のあの店か?」
「はい。ゼーファ様が『食べてみたい』と仰っていましたので。」
ゼーファ様がフォークを手にし、ケーキを口に運ぼうとした時、私の影からかなり慌てた様子のヴィーレが出てきた。
「待って!!」
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