【完結】王位に拘る元婚約者様へ

凛 伊緒

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17話 協力者

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「……。」



 ゼーファ殿下に頼まれるだろうとは思っていたが、この問いに私は即答できなかった。
 冒険者としての活動が減り、それによって被害を受ける人々が増えるのは確実。私一人にできることは限られているが、救った命は多かったはずだ。だからこそ、どちらを取るべきか決めきれなかった。
 ゼーファ殿下の考えなど全てを聞いた上で、殿下の下に付きたいとは思った。この方ならば、必ずアンドレイズ王国を良い未来に連れて行ってくださるだろうと…。



「強制ではない。これはあくまでも『お願い』じゃ。リエラが断ったとしても、妾は咎めたりせぬ。そもそも今の妾の地位は、お主よりも低い。故に咎めることもできぬ。」



 ゼーファ殿下の下に付いたとしても、冒険者を辞める必要はない。ギルドは貴族、平民、聖職者など、どのような地位・権力者であろうと平等に受け入れている。たとえ王族であろうと、本人の意思さえあれば冒険者になることができるのだ。
 だが……



「私は……。」

「…お主の気持ちも、分かっておるつもりじゃ。冒険者をしている方が、救える命が多いのは事実。Sランクともなれば報酬も桁違いじゃろう。」



  国の為、人々の為になっていると感じることができるのは、確実に冒険者だ。冒険者は人を助ける存在なのだから。
 とはいえゼーファ殿下が王になるために、傍で力になりたい。この方が王にならなければ、王国は終わったも同然だろう。
 ……私は我儘だ。選ぶことができない。
 ギルドマスターに相談してから決めよう、そう思っていたのだが……



「迷っておるな…。……リエラよ、彼に相談すると良い。そのために呼んだのじゃ。」

「彼…?」



 ゼーファ殿下が手を叩くと、入ってきたのはエデスラードだった。
 私の思考は完全に読まれている、そう感じた。



「ギルマス……何故ここに?」

「殿下から来て欲しいと連絡を受けてな。ギルドから全力で向かい、今着いたところだ。」

「…流石はギルマスね。」

「それはそうと、相談事だったな。」



 殿下は私が迷うと分かっていて、予めエデスラードを呼んでいたのだろう。…抜け目の無い方だ。



「…俺としては、お前のしたいようにすれば良いと思っている。」

「私のしたいように…。」

「何人だろうと受け入れる、それが冒険者ギルドだ。王女殿下に仕えようと、冒険者を辞める必要はない。だが月に一回以上依頼を受けなければ、冒険者資格が無効となる。そこだけ気を付けてくれ。まぁ俺としては、週に一回くらいは依頼を受けに来て欲しいがな。」

「……。」

「妾としては、週二日は自由にしてもらって構わぬ。休日として過ごすも良し、冒険者として依頼を受けてもらっても良い。ただ最低でも五日は傍に居て欲しいものじゃな。」



 エデスラードは、私がゼーファ殿下に仕えることを良しとしているように感じた。寧ろ仕えて欲しいとさえ思っていそうだ。
 以前、エデスラードは言っていた。

『自分の為よりも誰かの為に生きる方が、己の持つ実力を余すことなく発揮できる。それが多くの人よりも、個人である方がより望ましい。』

 …と。私がディールト兄様とエリルの為に冒険者をしていると話した時、このようなことを言っていたのだ。兄妹を気にかけるのは当然だが、それ以外に仕えるべきと思える相手を探すべきだとも言っていた。
 今目の前に居るゼーファ殿下こそが、きっと私の仕えるべき方なのだろう。ここで殿下に仕えると言わなければ、後悔しそうな気がした。

 私は殿下の前まで歩き、跪く。



「──ゼーファ殿下。私は貴方様にお仕えしたく存じます。」

「…決心がついたか。」

「はい。ですが冒険者としての活動も続けるため、人同士の戦争には参加いたしません。」

「良かろう。──冒険者リエラよ、今後妾に仕えることを許す。国の為、民の為、そして妾の為に、その力と知恵を貸して欲しい。」

「王国のより良い未来の為に、この身の全てを捧げると誓います。」



 通常とは違う、《誓いの儀》。普通ならば主従関係を結ぶ際に交わされる言葉のやり取りだが、これは主従というより協力関係だ。表向きはゼーファ殿下の従者であり、私も従者で良いと思っていたが、殿下は対等でありたいと望んでいる様子。
 だからこそ私は了承の意を込めて、『王国の未来の為に』と言ったのだ。



「ギルマス、来てくれてありがとう。おかげで私が歩むべき道を見つけられた気がするわ。」

「役に立てたのなら何よりだ。俺としても、リエラには助けられてばかりだからな。それに、今後も冒険者として依頼は受けてくれるんだろ?」

「無論よ。私は私にしかできないことをするつもりだから。緊急の要件がある時も、遠慮なく連絡して欲しいわ。」

「それはありがてぇな。これからもよろしく頼むぜ。」

「ええ、こちらこそ。」



 こうして私は、Sランク冒険者でありながら、ゼーファ・アンドレイズ殿下の従者もとい協力者となったのだった。
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