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15話 試練
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「『時間』とは、何の時間なのでしょう?」
私が招待への感謝を述べた時、殿下はそう仰った。一体何の時間が無いと言うのだろうか?
王女の仕事もとい責務は、王国内の視察のみ。書類仕事ができるほどの権力は持ち得ない。
さらにゼーファ殿下は、長い留学から帰ってきて一ヶ月しか経っていない。身体を休めるという名目で、視察もそれほど入らないはず。故に沢山とまでは言わずとも、時間はそれなりにあるだろう。だからこそ、殿下に何の時間が無いのか分からなかった。
「…この国では、『王太子』が名ばかりのものであるということは知っておるな?」
「はい。『王太子』は現国王の嫡男に必ず与えられる呼び名であり、次期国王として認められた証ではない、と。」
「その通りじゃ。次期国王に認められるには、現国王より与えられる試練を、国王の望む形で乗り越えなければならぬ。そしてその試練は、王太子が二十歳となる日に行われる。」
試練のクリア方法が『国王の望む形』でなければならないは、最終的な決定権が国王にあると強調するためだ。つまり『試練』というのも名ばかりであり、結局は国王が全てを決める。
そして試練は『王太子が二十歳となる日』に行われるのだが、王族で国王が認めた者ならばその試練の参加資格を得られる。重要なのは『王太子が二十歳となる日』であり、参加資格を得た王太子以外の王族も、年齢は関係なく試練を受けられるのだ。
「我が愚弟は今年で十九じゃ。つまりあと一年で、次期国王と認められてしまう。じゃが試練の結果によって、王太子以外の者が国王となったことはある。それが王女であった例は無いがな…。」
「ですが試練への参加資格さえ得られてしまえば、ジルファー…殿下が王となることを阻止できるかもしれないのですね。」
「うむ。とはいえ、たった一年しかない。貴族を味方に付け、あらゆる面で結果を残さなければならぬのじゃ。しかしそのようなことをすると、妾を邪魔に思う者達が出てくるであろう。暗殺者を向けられ、怯えながら過ごすのはごめんじゃ。」
目的のためならば手段を選ばないのが、ジルファーという男だ。
自分が楽をしつつも、贅沢な暮らしができる環境が欲しいのだろう。故にあの男は王位に拘っていた。
「……時間が無いとは、そういうことだったのですね。」
「そうじゃ。そして妾が王を目指すには、先ず妾の身を確実に守ってくれる存在が必要であろう。」
「それには同意します。殿下が私ならば適任だと考えてくださっているのも、理解できました。ですが……。」
「妾が王になりたい理由じゃな?」
「はい…。」
質問ばかりしているが故に、少し訊くことを躊躇ってしまった。しかしゼーファ殿下は私の心を読んでいるかのように、優しい口調殿下そう問うてくださったのだ。訊きたいことは全て訊けとでも仰っているかのように…。
「妾はずっと、ジルファーが王になっても良いと考えておった。じゃがそれは、ラリエットが婚約者だったからじゃ。ラリエットさえ居れば、愚弟が王になろうと、この国は大丈夫なはずじゃと。」
「……。」
「しかし留学から祖国に帰って、唖然とした。愚弟がラリエットとの婚約を破棄したのだと聞かされたからじゃ。公の場での婚約破棄、そして公爵家の追放…。手を打とうにも、既に何もかもが遅かった。頼って欲しいと言っておきながら、お主の傍に居ることができなかったこと、本当に申し訳なく思っておる…。」
「殿下は何も悪くありませんよ。ですからそう暗いお顔をなさらないでください。」
「…ありがとう。」
国王陛下とゼーファ殿下が、少し重なって見えた。殿下の表情や私に対する感情が、この瞬間に似たからなのだろう。
「ラリエットが王城から居なくなり、ジルファーに仕事を任せることとなった。まぁ元はと言えば、あやつがお主に押し付けていた仕事じゃ。自分に返ってきただけのこと。じゃがあやつは……あの愚弟は──」
ゼーファ殿下は、私が居なくなった後の王城の様子について話し始めた。
私が招待への感謝を述べた時、殿下はそう仰った。一体何の時間が無いと言うのだろうか?
王女の仕事もとい責務は、王国内の視察のみ。書類仕事ができるほどの権力は持ち得ない。
さらにゼーファ殿下は、長い留学から帰ってきて一ヶ月しか経っていない。身体を休めるという名目で、視察もそれほど入らないはず。故に沢山とまでは言わずとも、時間はそれなりにあるだろう。だからこそ、殿下に何の時間が無いのか分からなかった。
「…この国では、『王太子』が名ばかりのものであるということは知っておるな?」
「はい。『王太子』は現国王の嫡男に必ず与えられる呼び名であり、次期国王として認められた証ではない、と。」
「その通りじゃ。次期国王に認められるには、現国王より与えられる試練を、国王の望む形で乗り越えなければならぬ。そしてその試練は、王太子が二十歳となる日に行われる。」
試練のクリア方法が『国王の望む形』でなければならないは、最終的な決定権が国王にあると強調するためだ。つまり『試練』というのも名ばかりであり、結局は国王が全てを決める。
そして試練は『王太子が二十歳となる日』に行われるのだが、王族で国王が認めた者ならばその試練の参加資格を得られる。重要なのは『王太子が二十歳となる日』であり、参加資格を得た王太子以外の王族も、年齢は関係なく試練を受けられるのだ。
「我が愚弟は今年で十九じゃ。つまりあと一年で、次期国王と認められてしまう。じゃが試練の結果によって、王太子以外の者が国王となったことはある。それが王女であった例は無いがな…。」
「ですが試練への参加資格さえ得られてしまえば、ジルファー…殿下が王となることを阻止できるかもしれないのですね。」
「うむ。とはいえ、たった一年しかない。貴族を味方に付け、あらゆる面で結果を残さなければならぬのじゃ。しかしそのようなことをすると、妾を邪魔に思う者達が出てくるであろう。暗殺者を向けられ、怯えながら過ごすのはごめんじゃ。」
目的のためならば手段を選ばないのが、ジルファーという男だ。
自分が楽をしつつも、贅沢な暮らしができる環境が欲しいのだろう。故にあの男は王位に拘っていた。
「……時間が無いとは、そういうことだったのですね。」
「そうじゃ。そして妾が王を目指すには、先ず妾の身を確実に守ってくれる存在が必要であろう。」
「それには同意します。殿下が私ならば適任だと考えてくださっているのも、理解できました。ですが……。」
「妾が王になりたい理由じゃな?」
「はい…。」
質問ばかりしているが故に、少し訊くことを躊躇ってしまった。しかしゼーファ殿下は私の心を読んでいるかのように、優しい口調殿下そう問うてくださったのだ。訊きたいことは全て訊けとでも仰っているかのように…。
「妾はずっと、ジルファーが王になっても良いと考えておった。じゃがそれは、ラリエットが婚約者だったからじゃ。ラリエットさえ居れば、愚弟が王になろうと、この国は大丈夫なはずじゃと。」
「……。」
「しかし留学から祖国に帰って、唖然とした。愚弟がラリエットとの婚約を破棄したのだと聞かされたからじゃ。公の場での婚約破棄、そして公爵家の追放…。手を打とうにも、既に何もかもが遅かった。頼って欲しいと言っておきながら、お主の傍に居ることができなかったこと、本当に申し訳なく思っておる…。」
「殿下は何も悪くありませんよ。ですからそう暗いお顔をなさらないでください。」
「…ありがとう。」
国王陛下とゼーファ殿下が、少し重なって見えた。殿下の表情や私に対する感情が、この瞬間に似たからなのだろう。
「ラリエットが王城から居なくなり、ジルファーに仕事を任せることとなった。まぁ元はと言えば、あやつがお主に押し付けていた仕事じゃ。自分に返ってきただけのこと。じゃがあやつは……あの愚弟は──」
ゼーファ殿下は、私が居なくなった後の王城の様子について話し始めた。
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