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14話 才
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「殿下もお変わりないようで。」
ゼーファ殿下は、私の顔を見て心底安心したという表情をなさった。私も久しぶりにお会いしたからか、懐かしさを感じた。
王太子の婚約者だった頃、私はゼーファ殿下を本当の姉のように思っていた。いつか義理とはいえ妹になるのだからと、殿下も私を本当の妹のように接してくれていた。
「以前のように、『義姉様』と呼んでくれても良いのじゃぞ?」
「…今は王族とは無関係の立場ですので、お断りします。」
「堅いのう…。しかし、己の立場をしっかりと理解しているのは、お主の良いところよな。」
『義姉様』呼びが冗談ではなさそうなのが、殿下の怖いところだ。今後呼ぶつもりはないが…。
それよりも、ゼーファ殿下には聞きたいことがある。
「あの……いつから気付かれていたのですか…?」
「ん?リエラの正体のことなら、謁見の間で初めて見た時じゃな。冒険者リエラの名が広まって来た頃から、ラリエットではないかと疑ってはおったが、確信を持ったのはあの時じゃ。」
「ですが…。」
「確かに変装は完璧じゃった。見た目、魔力、声音、その全てが別人じゃと思うたぞ。しかし、どこか懐かしさも感じてな。平民のはずじゃが、貴族の相手や作法に慣れている様子が窺えたのじゃ。そう思うと、リエラの行動の特徴がラリエットに見えてきてのう。」
『観察眼』、それは私がこの世界で知り合った人々において、ゼーファ殿下が最も優れているだろう。殿下は昔から、『自分には特段才が無い』と自身を卑下するようなことを私に言っていたが、『知識への貪欲さ』やこの『観察眼』は、間違いなく一種の才能だ。
「…殿下には敵いませんね。隠し事一つできる気がしませんよ。」
「幼い頃から知っているお主だからこそ、気付けただけじゃ。」
「……。」
…やはりゼーファ殿下は、強気な態度や口調とは裏腹に、こういう時は謙虚だ。計算しての発言かもしれないが、これでは王を目指す者としては貴族達に舐められてしまう。『謙虚=弱気』と捉えられるからだ。
「何じゃ?じっと見つめて。妾に何か付いておるのか?」
「…殿下は、自信が無いのですか…?」
「……何故そう思う?」
「殿下を称賛するような言葉を申し上げた時、謙遜される姿しか私は見たことがありません。それでは殿下の意に反する結果を招きかねないと思ったのです。」
先程、ゼーファ殿下は仰っていた。殿下の現在の態度や口調は、『貴族達に舐められないようにするため』だと。しかし今の様子では、殿下の思い通りにはならない。
そして個人での交渉が多い貴族だ。場合によっては、殿下自身が不利な立場になるだろう。
「…確かに妾は、己に才は無いと思うておる。才ある者は何でも直ぐにできてしまうものじゃ。だからこそ、妾は努力でその差を埋めてきた。じゃが適わぬ者がいることもまた事実。」
「『適わぬ者』…?」
「例えばお主じゃ。魔法の才のみならず、一人で王太子の仕事や視察すらこなしていた。勿論それらは努力した結果でもあろう。じゃが妾はいくら努力しようとも、そこまで多様に動くことはできぬ。」
殿下は少し悲しげな、しかし憧れの人を見るような表情をされている。きっと複雑な感情なのだろう。
だが私とて、陛下の恩義に報いるために頑張っていただけだ。褒められるようなことではない。魔法も生まれながらに珍しい属性と、膨大な魔力量を持っていただけのこと。知識量で言えば、必ずゼーファ殿下に劣る。
「……私は陛下に受けた恩を、仇で返したくはありませんでした。だからこそ我武者羅になっていただけですよ…。」
「だとしても、じゃ。妾はお主を高く評価している。…先程、妾には自信が無いのかと問うたな。答えは否じゃ。妾は己に才は無いと認めているが、決して自信が無い訳ではない。弱気に見える態度を取るのは、妾が『負けた』と思っている者だけじゃよ。」
「…!」
ゼーファ殿下はふっと笑った。それは私が見たことの無いような、優しげな笑顔だ。おそらく殿下の本音が、初めて垣間見えた瞬間だろう。
「そこまで評価されているとは思っていませんでした……何だか嬉しいですね…。ですが私には無いものを、殿下は持っておられますよ。」
「…そうか?」
「ええ。私の正体を見抜いた人は、ディールト兄様とエリルだけだったのですから。陛下も知ってはおりますが、私から正体を明かしたので。」
周囲の些細な変化すら見過ごさない、鋭い『観察眼』。それは殿下の強力な武器だ。そして殿下の膨大な知識と合わされば、歴史に名を残すような国王となられるはず。
とはいえ殿下の下に付くには、まだ決めてに欠けていた。殿下自身の意志の強さは分かったが、覚悟がどれほどのものなのか…。半端なものではないと仰っていたが、言葉では何とでも言える。私は冒険者としての現状にも満足している。故に、殿下が王になられるための協力をするには、王になりたい理由とそのための覚悟を知ることは重要だ。
そしてもう一つ、聞いておきたいことがある。
「……殿下、先程の『時間が無い』とはどのような意味なのですか?」
ゼーファ殿下は、私の顔を見て心底安心したという表情をなさった。私も久しぶりにお会いしたからか、懐かしさを感じた。
王太子の婚約者だった頃、私はゼーファ殿下を本当の姉のように思っていた。いつか義理とはいえ妹になるのだからと、殿下も私を本当の妹のように接してくれていた。
「以前のように、『義姉様』と呼んでくれても良いのじゃぞ?」
「…今は王族とは無関係の立場ですので、お断りします。」
「堅いのう…。しかし、己の立場をしっかりと理解しているのは、お主の良いところよな。」
『義姉様』呼びが冗談ではなさそうなのが、殿下の怖いところだ。今後呼ぶつもりはないが…。
それよりも、ゼーファ殿下には聞きたいことがある。
「あの……いつから気付かれていたのですか…?」
「ん?リエラの正体のことなら、謁見の間で初めて見た時じゃな。冒険者リエラの名が広まって来た頃から、ラリエットではないかと疑ってはおったが、確信を持ったのはあの時じゃ。」
「ですが…。」
「確かに変装は完璧じゃった。見た目、魔力、声音、その全てが別人じゃと思うたぞ。しかし、どこか懐かしさも感じてな。平民のはずじゃが、貴族の相手や作法に慣れている様子が窺えたのじゃ。そう思うと、リエラの行動の特徴がラリエットに見えてきてのう。」
『観察眼』、それは私がこの世界で知り合った人々において、ゼーファ殿下が最も優れているだろう。殿下は昔から、『自分には特段才が無い』と自身を卑下するようなことを私に言っていたが、『知識への貪欲さ』やこの『観察眼』は、間違いなく一種の才能だ。
「…殿下には敵いませんね。隠し事一つできる気がしませんよ。」
「幼い頃から知っているお主だからこそ、気付けただけじゃ。」
「……。」
…やはりゼーファ殿下は、強気な態度や口調とは裏腹に、こういう時は謙虚だ。計算しての発言かもしれないが、これでは王を目指す者としては貴族達に舐められてしまう。『謙虚=弱気』と捉えられるからだ。
「何じゃ?じっと見つめて。妾に何か付いておるのか?」
「…殿下は、自信が無いのですか…?」
「……何故そう思う?」
「殿下を称賛するような言葉を申し上げた時、謙遜される姿しか私は見たことがありません。それでは殿下の意に反する結果を招きかねないと思ったのです。」
先程、ゼーファ殿下は仰っていた。殿下の現在の態度や口調は、『貴族達に舐められないようにするため』だと。しかし今の様子では、殿下の思い通りにはならない。
そして個人での交渉が多い貴族だ。場合によっては、殿下自身が不利な立場になるだろう。
「…確かに妾は、己に才は無いと思うておる。才ある者は何でも直ぐにできてしまうものじゃ。だからこそ、妾は努力でその差を埋めてきた。じゃが適わぬ者がいることもまた事実。」
「『適わぬ者』…?」
「例えばお主じゃ。魔法の才のみならず、一人で王太子の仕事や視察すらこなしていた。勿論それらは努力した結果でもあろう。じゃが妾はいくら努力しようとも、そこまで多様に動くことはできぬ。」
殿下は少し悲しげな、しかし憧れの人を見るような表情をされている。きっと複雑な感情なのだろう。
だが私とて、陛下の恩義に報いるために頑張っていただけだ。褒められるようなことではない。魔法も生まれながらに珍しい属性と、膨大な魔力量を持っていただけのこと。知識量で言えば、必ずゼーファ殿下に劣る。
「……私は陛下に受けた恩を、仇で返したくはありませんでした。だからこそ我武者羅になっていただけですよ…。」
「だとしても、じゃ。妾はお主を高く評価している。…先程、妾には自信が無いのかと問うたな。答えは否じゃ。妾は己に才は無いと認めているが、決して自信が無い訳ではない。弱気に見える態度を取るのは、妾が『負けた』と思っている者だけじゃよ。」
「…!」
ゼーファ殿下はふっと笑った。それは私が見たことの無いような、優しげな笑顔だ。おそらく殿下の本音が、初めて垣間見えた瞬間だろう。
「そこまで評価されているとは思っていませんでした……何だか嬉しいですね…。ですが私には無いものを、殿下は持っておられますよ。」
「…そうか?」
「ええ。私の正体を見抜いた人は、ディールト兄様とエリルだけだったのですから。陛下も知ってはおりますが、私から正体を明かしたので。」
周囲の些細な変化すら見過ごさない、鋭い『観察眼』。それは殿下の強力な武器だ。そして殿下の膨大な知識と合わされば、歴史に名を残すような国王となられるはず。
とはいえ殿下の下に付くには、まだ決めてに欠けていた。殿下自身の意志の強さは分かったが、覚悟がどれほどのものなのか…。半端なものではないと仰っていたが、言葉では何とでも言える。私は冒険者としての現状にも満足している。故に、殿下が王になられるための協力をするには、王になりたい理由とそのための覚悟を知ることは重要だ。
そしてもう一つ、聞いておきたいことがある。
「……殿下、先程の『時間が無い』とはどのような意味なのですか?」
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