10 / 34
10話 馬鹿
しおりを挟む
部屋に入った私を待っていたかのように、笑顔で待ち構えるギルドマスターのエデスラード。そして差し出された二通の白い封筒。
「第一王子であり王太子のジルファー殿下と、第一王女ゼーファ殿下からの招待状だ。それぞれ招待状が別で届いている。」
「……つまり、殿下達は私を引き入れたいのね。ジルファーが私と接触したい理由は分かるけれど、何故ゼーファ殿下が…?」
「さぁな。会えば分かるだろう。」
ジルファーが招待状を送ってきた理由は、自身が持つ近衛騎士団に加え、冒険者リエラという強力な武力を得たかったからだろう。権力と武力、その両方が揃えば、ジルファーが王となることに反対する貴族は減っていく。つまりより確実に次期国王に近づくことができるという訳だ。
だがゼーファ殿下の意図は分からない。私を引き入れたところで、王女殿下に何かを成せる程の力になるとは思えないのだ。
「それにしても、玉座の間で会ってから、まだ一時間も経っていない。なのにどうやってこれほど短時間でギルドまで届けられたのかしら…。」
「お前が王城からギルドに戻った頃に、招待状が届いているようにしたんだろうさ。」
「タイミングを狙ったということね…。」
聡明なゼーファ殿下ならば理解できるが、ジルファーがそこまで計算して行動できるだろうか?そう思ったが、他の優秀な貴族を使えば容易だと考え直す。
ギルドに着く頃に招待状が届いているという状況は、両殿下が己の能力の高さを私に誇示しているも同義。エデスラードもその事に気付いているらしく、唐突に問いかけてきた。
「王太子か王女、どちらに付く? 」
「……どちらにも仕えるつもりはないわ。特にあの王子にはね…。正直に言うと、もう王族と関わることすら避けたいもの。」
「はははっ、まぁお前ならそう言うだろうと思ったぜ。だがこの招待状を断れば、ギルドにとって不利益が生じるかもしれない。」
「何をされるか分からないのがあの王子なのよね…。仕方ないわ。とりあえず会って、直接こちらの意思を伝えるしかないでしょう。」
ということで両殿下に会うことにした。
──そうして数日後、ジルファーと王城にて会うことになったのだが……
「よく来てくれた。私はジルファー・アンドレイズだ。」
「ご招待いただきありがとうございます、ジルファー王太子殿下。冒険者のリエラと申します。」
「玉座の間で顔を合わせた時以来だな。ゆっくりしてくれると良い。」
「感謝致します。」
怒りを押し殺しつつ、平静を装う。目の前に用意された紅茶や菓子は、どれも最高級品ばかりだ。まるで権力と財力があると言わんばかりに、私に見せつけている。
「今日招待したのは、重要な話があるからだ。」
「重要な話……ですか?」
「ああ。…冒険者リエラ、私に付かないか?」
やはり予想通りの話だった。
ただでさえ最悪の婚約破棄のされ方をしたのだ。この馬鹿王子に仕える気は毛頭ない。怒りの感情こそあれど、許す気もない。
それに私がジルファーに仕えたならば、次期国王の座から引き下ろさんとする民想いの良き貴族達に申し訳なくなる。
「君の望むものはできる限り叶えよう。どうだ?」
「……お断りさせていただきます。今のところ、私は誰かに仕える気はありません。」
「まぁ聞け。私は次期国王だ。そして国王となった暁には、これ以上ない地位と財産を与えることができるぞ?」
ある意味権力を振りかざした交渉だ。これではボアズ伯爵と同レベルだろう。全く、馬鹿の相手は疲れる。
「申し訳ございませんが、私の意思は変わりません。」
「…ならば『命令』と言えばどうする?」
「Sランク冒険者に、そのような脅しが通用するとお思いですか?」
そう言いながら、少し魔力で圧をかけた。
「武力しか持たぬ野蛮人め……。」
ジルファーの言葉にさすがの私も怒りが頂点に達し、より強く魔力を放とうとした。だが後ろから見えない誰かが、私の肩に手を乗せたため、はっとして我に返った。
深呼吸してからゆっくりと言葉を返す。
「その野蛮人が、この国を救ったことをお忘れなく。」
「なっ…!ど、どうせ嘘だろう。《上級悪魔》ではなく、ただの《悪魔》だったんだ!」
「間違いなく《上級悪魔》ですよ。ギルドの公式発表並びに国王陛下がお認めになられたことを、否定なさるのですか?」
「くっ…。」
何も言い返せない様子のジルファー。最初に喧嘩を売ってきたのはそちらだと言うのに、見ていて滑稽だ。
「さて、話がそれだけならば失礼致します。私は暇ではないので。」
「ま、待て!!」
「……まだ何か?」
「今私に付かなければ、後悔するぞ…!」
焦っているのが丸わかりの笑みを見せながら、馬鹿王子が脅してきた。だが脅し方が幼稚すぎて話にならない。Sランク冒険者がどれほどの力を持つのか、何も理解していない。
「そのような脅し、私には通用しませんよ。そもそも冒険者を『野蛮人』呼ばわりし、平民を見下すような方に仕える気はありません。」
「っだと…!?」
「私の態度を見て誤解されているようですが、Sランク冒険者は国王と同等の地位を持ちます。……本来、私が殿下に敬語を話す必要はないのよ。」
「…っ!」
「では失礼します。」
馬鹿王子が何か言いかけていたが、聞こえていないふりをしてその場を立ち去った。
最後に間抜け面が見られただけでも、少しスカッとした気分だ。
「相変わらず何も理解していない。…やはり馬鹿は馬鹿ね。」
「第一王子であり王太子のジルファー殿下と、第一王女ゼーファ殿下からの招待状だ。それぞれ招待状が別で届いている。」
「……つまり、殿下達は私を引き入れたいのね。ジルファーが私と接触したい理由は分かるけれど、何故ゼーファ殿下が…?」
「さぁな。会えば分かるだろう。」
ジルファーが招待状を送ってきた理由は、自身が持つ近衛騎士団に加え、冒険者リエラという強力な武力を得たかったからだろう。権力と武力、その両方が揃えば、ジルファーが王となることに反対する貴族は減っていく。つまりより確実に次期国王に近づくことができるという訳だ。
だがゼーファ殿下の意図は分からない。私を引き入れたところで、王女殿下に何かを成せる程の力になるとは思えないのだ。
「それにしても、玉座の間で会ってから、まだ一時間も経っていない。なのにどうやってこれほど短時間でギルドまで届けられたのかしら…。」
「お前が王城からギルドに戻った頃に、招待状が届いているようにしたんだろうさ。」
「タイミングを狙ったということね…。」
聡明なゼーファ殿下ならば理解できるが、ジルファーがそこまで計算して行動できるだろうか?そう思ったが、他の優秀な貴族を使えば容易だと考え直す。
ギルドに着く頃に招待状が届いているという状況は、両殿下が己の能力の高さを私に誇示しているも同義。エデスラードもその事に気付いているらしく、唐突に問いかけてきた。
「王太子か王女、どちらに付く? 」
「……どちらにも仕えるつもりはないわ。特にあの王子にはね…。正直に言うと、もう王族と関わることすら避けたいもの。」
「はははっ、まぁお前ならそう言うだろうと思ったぜ。だがこの招待状を断れば、ギルドにとって不利益が生じるかもしれない。」
「何をされるか分からないのがあの王子なのよね…。仕方ないわ。とりあえず会って、直接こちらの意思を伝えるしかないでしょう。」
ということで両殿下に会うことにした。
──そうして数日後、ジルファーと王城にて会うことになったのだが……
「よく来てくれた。私はジルファー・アンドレイズだ。」
「ご招待いただきありがとうございます、ジルファー王太子殿下。冒険者のリエラと申します。」
「玉座の間で顔を合わせた時以来だな。ゆっくりしてくれると良い。」
「感謝致します。」
怒りを押し殺しつつ、平静を装う。目の前に用意された紅茶や菓子は、どれも最高級品ばかりだ。まるで権力と財力があると言わんばかりに、私に見せつけている。
「今日招待したのは、重要な話があるからだ。」
「重要な話……ですか?」
「ああ。…冒険者リエラ、私に付かないか?」
やはり予想通りの話だった。
ただでさえ最悪の婚約破棄のされ方をしたのだ。この馬鹿王子に仕える気は毛頭ない。怒りの感情こそあれど、許す気もない。
それに私がジルファーに仕えたならば、次期国王の座から引き下ろさんとする民想いの良き貴族達に申し訳なくなる。
「君の望むものはできる限り叶えよう。どうだ?」
「……お断りさせていただきます。今のところ、私は誰かに仕える気はありません。」
「まぁ聞け。私は次期国王だ。そして国王となった暁には、これ以上ない地位と財産を与えることができるぞ?」
ある意味権力を振りかざした交渉だ。これではボアズ伯爵と同レベルだろう。全く、馬鹿の相手は疲れる。
「申し訳ございませんが、私の意思は変わりません。」
「…ならば『命令』と言えばどうする?」
「Sランク冒険者に、そのような脅しが通用するとお思いですか?」
そう言いながら、少し魔力で圧をかけた。
「武力しか持たぬ野蛮人め……。」
ジルファーの言葉にさすがの私も怒りが頂点に達し、より強く魔力を放とうとした。だが後ろから見えない誰かが、私の肩に手を乗せたため、はっとして我に返った。
深呼吸してからゆっくりと言葉を返す。
「その野蛮人が、この国を救ったことをお忘れなく。」
「なっ…!ど、どうせ嘘だろう。《上級悪魔》ではなく、ただの《悪魔》だったんだ!」
「間違いなく《上級悪魔》ですよ。ギルドの公式発表並びに国王陛下がお認めになられたことを、否定なさるのですか?」
「くっ…。」
何も言い返せない様子のジルファー。最初に喧嘩を売ってきたのはそちらだと言うのに、見ていて滑稽だ。
「さて、話がそれだけならば失礼致します。私は暇ではないので。」
「ま、待て!!」
「……まだ何か?」
「今私に付かなければ、後悔するぞ…!」
焦っているのが丸わかりの笑みを見せながら、馬鹿王子が脅してきた。だが脅し方が幼稚すぎて話にならない。Sランク冒険者がどれほどの力を持つのか、何も理解していない。
「そのような脅し、私には通用しませんよ。そもそも冒険者を『野蛮人』呼ばわりし、平民を見下すような方に仕える気はありません。」
「っだと…!?」
「私の態度を見て誤解されているようですが、Sランク冒険者は国王と同等の地位を持ちます。……本来、私が殿下に敬語を話す必要はないのよ。」
「…っ!」
「では失礼します。」
馬鹿王子が何か言いかけていたが、聞こえていないふりをしてその場を立ち去った。
最後に間抜け面が見られただけでも、少しスカッとした気分だ。
「相変わらず何も理解していない。…やはり馬鹿は馬鹿ね。」
108
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

真実の愛かどうかの問題じゃない
ひおむし
恋愛
ある日、ソフィア・ウィルソン伯爵令嬢の元へ一組の男女が押しかけた。それは元婚約者と、その『真実の愛』の相手だった。婚約破棄も済んでもう縁が切れたはずの二人が押しかけてきた理由は「お前のせいで我々の婚約が認められないんだっ」……いや、何で?
よくある『真実の愛』からの『婚約破棄』の、その後のお話です。ざまぁと言えばざまぁなんですが、やったことの責任を果たせ、という話。「それはそれ。これはこれ」
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。


貴方に必要とされたいとは望みましたが……
こことっと
恋愛
侯爵令嬢ラーレ・リンケは『侯爵家に相応しい人間になれ』との言葉に幼い頃から悩んでいた。
そんな私は、学園に入学しその意味を理解したのです。
ルドルフ殿下をお支えするのが私の生まれた意味。
そして私は努力し、ルドルフ殿下の婚約者となったのでした。
だけど、殿下の取り巻き女性の1人グレーテル・ベッカー男爵令嬢が私に囁きました。
「私はルドルフ殿下を愛しております。 そして殿下は私を受け入れ一夜を共にしてくださいました。 彼も私を愛してくれていたのです」
婚約者に見捨てられた悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む
めぐめぐ
ファンタジー
魔王によって、世界が終わりを迎えるこの日。
彼女はお茶を飲みながら、青年に語る。
婚約者である王子、異世界の聖女、聖騎士とともに、魔王を倒すために旅立った魔法使いたる彼女が、悪役令嬢となるまでの物語を――
※終わりは読者の想像にお任せする形です
※頭からっぽで

ある平民生徒のお話
よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。
伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。
それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる