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10話 馬鹿
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部屋に入った私を待っていたかのように、笑顔で待ち構えるギルドマスターのエデスラード。そして差し出された二通の白い封筒。
「第一王子であり王太子のジルファー殿下と、第一王女ゼーファ殿下からの招待状だ。それぞれ招待状が別で届いている。」
「……つまり、殿下達は私を引き入れたいのね。ジルファーが私と接触したい理由は分かるけれど、何故ゼーファ殿下が…?」
「さぁな。会えば分かるだろう。」
ジルファーが招待状を送ってきた理由は、自身が持つ近衛騎士団に加え、冒険者リエラという強力な武力を得たかったからだろう。権力と武力、その両方が揃えば、ジルファーが王となることに反対する貴族は減っていく。つまりより確実に次期国王に近づくことができるという訳だ。
だがゼーファ殿下の意図は分からない。私を引き入れたところで、王女殿下に何かを成せる程の力になるとは思えないのだ。
「それにしても、玉座の間で会ってから、まだ一時間も経っていない。なのにどうやってこれほど短時間でギルドまで届けられたのかしら…。」
「お前が王城からギルドに戻った頃に、招待状が届いているようにしたんだろうさ。」
「タイミングを狙ったということね…。」
聡明なゼーファ殿下ならば理解できるが、ジルファーがそこまで計算して行動できるだろうか?そう思ったが、他の優秀な貴族を使えば容易だと考え直す。
ギルドに着く頃に招待状が届いているという状況は、両殿下が己の能力の高さを私に誇示しているも同義。エデスラードもその事に気付いているらしく、唐突に問いかけてきた。
「王太子か王女、どちらに付く? 」
「……どちらにも仕えるつもりはないわ。特にあの王子にはね…。正直に言うと、もう王族と関わることすら避けたいもの。」
「はははっ、まぁお前ならそう言うだろうと思ったぜ。だがこの招待状を断れば、ギルドにとって不利益が生じるかもしれない。」
「何をされるか分からないのがあの王子なのよね…。仕方ないわ。とりあえず会って、直接こちらの意思を伝えるしかないでしょう。」
ということで両殿下に会うことにした。
──そうして数日後、ジルファーと王城にて会うことになったのだが……
「よく来てくれた。私はジルファー・アンドレイズだ。」
「ご招待いただきありがとうございます、ジルファー王太子殿下。冒険者のリエラと申します。」
「玉座の間で顔を合わせた時以来だな。ゆっくりしてくれると良い。」
「感謝致します。」
怒りを押し殺しつつ、平静を装う。目の前に用意された紅茶や菓子は、どれも最高級品ばかりだ。まるで権力と財力があると言わんばかりに、私に見せつけている。
「今日招待したのは、重要な話があるからだ。」
「重要な話……ですか?」
「ああ。…冒険者リエラ、私に付かないか?」
やはり予想通りの話だった。
ただでさえ最悪の婚約破棄のされ方をしたのだ。この馬鹿王子に仕える気は毛頭ない。怒りの感情こそあれど、許す気もない。
それに私がジルファーに仕えたならば、次期国王の座から引き下ろさんとする民想いの良き貴族達に申し訳なくなる。
「君の望むものはできる限り叶えよう。どうだ?」
「……お断りさせていただきます。今のところ、私は誰かに仕える気はありません。」
「まぁ聞け。私は次期国王だ。そして国王となった暁には、これ以上ない地位と財産を与えることができるぞ?」
ある意味権力を振りかざした交渉だ。これではボアズ伯爵と同レベルだろう。全く、馬鹿の相手は疲れる。
「申し訳ございませんが、私の意思は変わりません。」
「…ならば『命令』と言えばどうする?」
「Sランク冒険者に、そのような脅しが通用するとお思いですか?」
そう言いながら、少し魔力で圧をかけた。
「武力しか持たぬ野蛮人め……。」
ジルファーの言葉にさすがの私も怒りが頂点に達し、より強く魔力を放とうとした。だが後ろから見えない誰かが、私の肩に手を乗せたため、はっとして我に返った。
深呼吸してからゆっくりと言葉を返す。
「その野蛮人が、この国を救ったことをお忘れなく。」
「なっ…!ど、どうせ嘘だろう。《上級悪魔》ではなく、ただの《悪魔》だったんだ!」
「間違いなく《上級悪魔》ですよ。ギルドの公式発表並びに国王陛下がお認めになられたことを、否定なさるのですか?」
「くっ…。」
何も言い返せない様子のジルファー。最初に喧嘩を売ってきたのはそちらだと言うのに、見ていて滑稽だ。
「さて、話がそれだけならば失礼致します。私は暇ではないので。」
「ま、待て!!」
「……まだ何か?」
「今私に付かなければ、後悔するぞ…!」
焦っているのが丸わかりの笑みを見せながら、馬鹿王子が脅してきた。だが脅し方が幼稚すぎて話にならない。Sランク冒険者がどれほどの力を持つのか、何も理解していない。
「そのような脅し、私には通用しませんよ。そもそも冒険者を『野蛮人』呼ばわりし、平民を見下すような方に仕える気はありません。」
「っだと…!?」
「私の態度を見て誤解されているようですが、Sランク冒険者は国王と同等の地位を持ちます。……本来、私が殿下に敬語を話す必要はないのよ。」
「…っ!」
「では失礼します。」
馬鹿王子が何か言いかけていたが、聞こえていないふりをしてその場を立ち去った。
最後に間抜け面が見られただけでも、少しスカッとした気分だ。
「相変わらず何も理解していない。…やはり馬鹿は馬鹿ね。」
「第一王子であり王太子のジルファー殿下と、第一王女ゼーファ殿下からの招待状だ。それぞれ招待状が別で届いている。」
「……つまり、殿下達は私を引き入れたいのね。ジルファーが私と接触したい理由は分かるけれど、何故ゼーファ殿下が…?」
「さぁな。会えば分かるだろう。」
ジルファーが招待状を送ってきた理由は、自身が持つ近衛騎士団に加え、冒険者リエラという強力な武力を得たかったからだろう。権力と武力、その両方が揃えば、ジルファーが王となることに反対する貴族は減っていく。つまりより確実に次期国王に近づくことができるという訳だ。
だがゼーファ殿下の意図は分からない。私を引き入れたところで、王女殿下に何かを成せる程の力になるとは思えないのだ。
「それにしても、玉座の間で会ってから、まだ一時間も経っていない。なのにどうやってこれほど短時間でギルドまで届けられたのかしら…。」
「お前が王城からギルドに戻った頃に、招待状が届いているようにしたんだろうさ。」
「タイミングを狙ったということね…。」
聡明なゼーファ殿下ならば理解できるが、ジルファーがそこまで計算して行動できるだろうか?そう思ったが、他の優秀な貴族を使えば容易だと考え直す。
ギルドに着く頃に招待状が届いているという状況は、両殿下が己の能力の高さを私に誇示しているも同義。エデスラードもその事に気付いているらしく、唐突に問いかけてきた。
「王太子か王女、どちらに付く? 」
「……どちらにも仕えるつもりはないわ。特にあの王子にはね…。正直に言うと、もう王族と関わることすら避けたいもの。」
「はははっ、まぁお前ならそう言うだろうと思ったぜ。だがこの招待状を断れば、ギルドにとって不利益が生じるかもしれない。」
「何をされるか分からないのがあの王子なのよね…。仕方ないわ。とりあえず会って、直接こちらの意思を伝えるしかないでしょう。」
ということで両殿下に会うことにした。
──そうして数日後、ジルファーと王城にて会うことになったのだが……
「よく来てくれた。私はジルファー・アンドレイズだ。」
「ご招待いただきありがとうございます、ジルファー王太子殿下。冒険者のリエラと申します。」
「玉座の間で顔を合わせた時以来だな。ゆっくりしてくれると良い。」
「感謝致します。」
怒りを押し殺しつつ、平静を装う。目の前に用意された紅茶や菓子は、どれも最高級品ばかりだ。まるで権力と財力があると言わんばかりに、私に見せつけている。
「今日招待したのは、重要な話があるからだ。」
「重要な話……ですか?」
「ああ。…冒険者リエラ、私に付かないか?」
やはり予想通りの話だった。
ただでさえ最悪の婚約破棄のされ方をしたのだ。この馬鹿王子に仕える気は毛頭ない。怒りの感情こそあれど、許す気もない。
それに私がジルファーに仕えたならば、次期国王の座から引き下ろさんとする民想いの良き貴族達に申し訳なくなる。
「君の望むものはできる限り叶えよう。どうだ?」
「……お断りさせていただきます。今のところ、私は誰かに仕える気はありません。」
「まぁ聞け。私は次期国王だ。そして国王となった暁には、これ以上ない地位と財産を与えることができるぞ?」
ある意味権力を振りかざした交渉だ。これではボアズ伯爵と同レベルだろう。全く、馬鹿の相手は疲れる。
「申し訳ございませんが、私の意思は変わりません。」
「…ならば『命令』と言えばどうする?」
「Sランク冒険者に、そのような脅しが通用するとお思いですか?」
そう言いながら、少し魔力で圧をかけた。
「武力しか持たぬ野蛮人め……。」
ジルファーの言葉にさすがの私も怒りが頂点に達し、より強く魔力を放とうとした。だが後ろから見えない誰かが、私の肩に手を乗せたため、はっとして我に返った。
深呼吸してからゆっくりと言葉を返す。
「その野蛮人が、この国を救ったことをお忘れなく。」
「なっ…!ど、どうせ嘘だろう。《上級悪魔》ではなく、ただの《悪魔》だったんだ!」
「間違いなく《上級悪魔》ですよ。ギルドの公式発表並びに国王陛下がお認めになられたことを、否定なさるのですか?」
「くっ…。」
何も言い返せない様子のジルファー。最初に喧嘩を売ってきたのはそちらだと言うのに、見ていて滑稽だ。
「さて、話がそれだけならば失礼致します。私は暇ではないので。」
「ま、待て!!」
「……まだ何か?」
「今私に付かなければ、後悔するぞ…!」
焦っているのが丸わかりの笑みを見せながら、馬鹿王子が脅してきた。だが脅し方が幼稚すぎて話にならない。Sランク冒険者がどれほどの力を持つのか、何も理解していない。
「そのような脅し、私には通用しませんよ。そもそも冒険者を『野蛮人』呼ばわりし、平民を見下すような方に仕える気はありません。」
「っだと…!?」
「私の態度を見て誤解されているようですが、Sランク冒険者は国王と同等の地位を持ちます。……本来、私が殿下に敬語を話す必要はないのよ。」
「…っ!」
「では失礼します。」
馬鹿王子が何か言いかけていたが、聞こえていないふりをしてその場を立ち去った。
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