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7話 玉座
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※ジルファー視点
先日、目障りな存在だったラリエット・ゼンキースアとの婚約を破棄できた。最高の気分だ。
そもそも婚約者が闇魔法使いというのは認められなかった。しかし父上が決めたこと。私の個人的な感情で婚約を拒否することなど不可能だ。
そしてあの女は、誰も文句が言えないほどに完璧だった。貴族の礼儀・作法は勿論、王太子の仕事を全て一人で片付け、視察もこなしていた。私という存在がいらないとでも言うかのように、だ。そういうところも気に食わない。
さらに奴は、王太子妃の座を守るために、他の貴族令嬢達を陥れようとしていたのだ。そして貶めるなどの虐めを繰り返し、まるで『悪女』のようだと証言してくれた彼女達から聞いた。そんなことをされては、婚約者である私の評価も下がるというもの。
何とかしなければならないと考えていた時、公の場で婚約破棄すれば良いということを思いついた。丁度、父上と母上が隣国に赴くと知り、二つ上の姉である第一王女ゼーファ姉上も留学中。婚約破棄を邪魔する者はいないと判断し、あのパーティー会場にて独断決行したという訳だ。
闇魔法がどの程度使えるのかは分からないが、きっと大したことはないだろう。ラリエットが強いのならば、その噂が城内に広まっているはず。しかし誰も奴が魔法を使っている姿を見たことがないと言うのだ。つまり魔法も使えぬほど魔力量が少ないと考えられる。
とはいえ、闇魔法を使えないのならば好都合だ。私に何かをすることはできないのだから。
「君達のおかげで、あの目障りな女との婚約を破棄できた。感謝する。」
「いえ…、これも全ては殿下、ひいてはこの国のためですもの。」
「ええ、その通りですわ。それとお聞きになりましたか?」
「何をだ?」
「婚約破棄の後、彼女はゼンキースア公爵家を追放されたらしいですわ!」
「それは本当か!?」
「間違いありませんわ。私のお父様が、ゼンキースア公爵家当主であられるアルト様から、直接聞いた話ですもの。」
思わずふっと笑ってしまった。
これで確実に、あの女は私に手を出せなくなったという訳だ。王太子からの婚約破棄並びに公爵家の追放。これほど不名誉なことはないだろう。奴は何もかも失ったのだ。
本当に最高の気分だった。
しかし──
「勝手なことをしおって…!」
「まさかここまでだったとは…。」
父上と母上の両方から叱られてしまった。婚約破棄に反対するだろうとは思っていたが、ここまでとは…。父上はあの女をかなり重要視していたらしく、王国の良い未来に必ずや貢献してくれると考えていたそう。そしてそれは母上も同じ考えだった。
だが闇魔法使いに良い者などいるはずがない。良い国どころか、国に災厄をもたらすだろう。故に、私はこの判断を後悔していない。闇魔法使いと結婚などごめんだ。
「ジルファーよ、ラリエットとの婚約を破棄したとは真か?」
「事実ですよ、姉上。権力が欲しいだけの女を、次期王妃にさせる訳にはいかないでしょう?」
「…どの口が言っているのじゃ……。それにしても、惜しい人材を手放したものじゃな。妾ならば絶対に婚約破棄などしないぞ。」
「姉上まで…。」
婚約破棄から一週間後、留学から帰ってきた唯一の姉弟である姉上にまで、そう言われてしまった。
一体ラリエットのどこが良いのか…。確かに仕事はできて作法も完璧だが、それだけだ。女としての魅力は何も無い。支えてあげようと思える部分すら無い。さらに権力を得るためならば手段を問わない、残酷な面を持ち合わせている危険な存在だ。私は婚約破棄だけではなく、奴を処刑しておくべきだったと思っている。
とはいえあの女が居なくなって、問題が無いと言えば嘘になる。
「殿下、こちらの書類にサインをお願いしたく。」
「……はぁ。私は忙しい。見て分からんのか?」
「…申し訳ございません。しかしラリエット様が婚約者ではなくなった今、殿下しか書類を片付けられる者はおりません。」
「貴様がやっておけば良いだろう。さっさと立ち去れ!」
王城で働く貴族がやって来ては、書類にサインしろなどと言ってくるのだ。この私が仕事をする必要など無い。にも拘わらず、貴族達は毎日のようにやって来た。
「殿下、こちらに…。」
「また貴様か。次からは来るな、これは命令だ!他の貴族達にも言っておけ!!この部屋に私の許可なく訪ねて来たならば、罰を与えるぞ!」
そこまで言ってようやく貴族達は来なくなった。何もしなくとも贅沢ができる、それが王族の特権だろう。仕事はできる奴に任せれば良い。
私は玉座さえ手に入れば、その他の事はどうでもいいのだ──
先日、目障りな存在だったラリエット・ゼンキースアとの婚約を破棄できた。最高の気分だ。
そもそも婚約者が闇魔法使いというのは認められなかった。しかし父上が決めたこと。私の個人的な感情で婚約を拒否することなど不可能だ。
そしてあの女は、誰も文句が言えないほどに完璧だった。貴族の礼儀・作法は勿論、王太子の仕事を全て一人で片付け、視察もこなしていた。私という存在がいらないとでも言うかのように、だ。そういうところも気に食わない。
さらに奴は、王太子妃の座を守るために、他の貴族令嬢達を陥れようとしていたのだ。そして貶めるなどの虐めを繰り返し、まるで『悪女』のようだと証言してくれた彼女達から聞いた。そんなことをされては、婚約者である私の評価も下がるというもの。
何とかしなければならないと考えていた時、公の場で婚約破棄すれば良いということを思いついた。丁度、父上と母上が隣国に赴くと知り、二つ上の姉である第一王女ゼーファ姉上も留学中。婚約破棄を邪魔する者はいないと判断し、あのパーティー会場にて独断決行したという訳だ。
闇魔法がどの程度使えるのかは分からないが、きっと大したことはないだろう。ラリエットが強いのならば、その噂が城内に広まっているはず。しかし誰も奴が魔法を使っている姿を見たことがないと言うのだ。つまり魔法も使えぬほど魔力量が少ないと考えられる。
とはいえ、闇魔法を使えないのならば好都合だ。私に何かをすることはできないのだから。
「君達のおかげで、あの目障りな女との婚約を破棄できた。感謝する。」
「いえ…、これも全ては殿下、ひいてはこの国のためですもの。」
「ええ、その通りですわ。それとお聞きになりましたか?」
「何をだ?」
「婚約破棄の後、彼女はゼンキースア公爵家を追放されたらしいですわ!」
「それは本当か!?」
「間違いありませんわ。私のお父様が、ゼンキースア公爵家当主であられるアルト様から、直接聞いた話ですもの。」
思わずふっと笑ってしまった。
これで確実に、あの女は私に手を出せなくなったという訳だ。王太子からの婚約破棄並びに公爵家の追放。これほど不名誉なことはないだろう。奴は何もかも失ったのだ。
本当に最高の気分だった。
しかし──
「勝手なことをしおって…!」
「まさかここまでだったとは…。」
父上と母上の両方から叱られてしまった。婚約破棄に反対するだろうとは思っていたが、ここまでとは…。父上はあの女をかなり重要視していたらしく、王国の良い未来に必ずや貢献してくれると考えていたそう。そしてそれは母上も同じ考えだった。
だが闇魔法使いに良い者などいるはずがない。良い国どころか、国に災厄をもたらすだろう。故に、私はこの判断を後悔していない。闇魔法使いと結婚などごめんだ。
「ジルファーよ、ラリエットとの婚約を破棄したとは真か?」
「事実ですよ、姉上。権力が欲しいだけの女を、次期王妃にさせる訳にはいかないでしょう?」
「…どの口が言っているのじゃ……。それにしても、惜しい人材を手放したものじゃな。妾ならば絶対に婚約破棄などしないぞ。」
「姉上まで…。」
婚約破棄から一週間後、留学から帰ってきた唯一の姉弟である姉上にまで、そう言われてしまった。
一体ラリエットのどこが良いのか…。確かに仕事はできて作法も完璧だが、それだけだ。女としての魅力は何も無い。支えてあげようと思える部分すら無い。さらに権力を得るためならば手段を問わない、残酷な面を持ち合わせている危険な存在だ。私は婚約破棄だけではなく、奴を処刑しておくべきだったと思っている。
とはいえあの女が居なくなって、問題が無いと言えば嘘になる。
「殿下、こちらの書類にサインをお願いしたく。」
「……はぁ。私は忙しい。見て分からんのか?」
「…申し訳ございません。しかしラリエット様が婚約者ではなくなった今、殿下しか書類を片付けられる者はおりません。」
「貴様がやっておけば良いだろう。さっさと立ち去れ!」
王城で働く貴族がやって来ては、書類にサインしろなどと言ってくるのだ。この私が仕事をする必要など無い。にも拘わらず、貴族達は毎日のようにやって来た。
「殿下、こちらに…。」
「また貴様か。次からは来るな、これは命令だ!他の貴族達にも言っておけ!!この部屋に私の許可なく訪ねて来たならば、罰を与えるぞ!」
そこまで言ってようやく貴族達は来なくなった。何もしなくとも贅沢ができる、それが王族の特権だろう。仕事はできる奴に任せれば良い。
私は玉座さえ手に入れば、その他の事はどうでもいいのだ──
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