上 下
7 / 34

7話 玉座

しおりを挟む
 ※ジルファー視点



 先日、目障りな存在だったラリエット・ゼンキースアとの婚約を破棄できた。最高の気分だ。

 そもそも婚約者が闇魔法使いというのは認められなかった。しかし父上が決めたこと。私の個人的な感情で婚約を拒否することなど不可能だ。
 そしてあの女は、誰も文句が言えないほどに完璧だった。貴族の礼儀・作法は勿論、王太子の仕事を全て一人で片付け、視察もこなしていた。私という存在がいらないとでも言うかのように、だ。そういうところも気に食わない。

 さらに奴は、王太子妃の座を守るために、他の貴族令嬢達を陥れようとしていたのだ。そして貶めるなどの虐めを繰り返し、まるで『悪女』のようだと証言してくれた彼女達から聞いた。そんなことをされては、婚約者である私の評価も下がるというもの。

 何とかしなければならないと考えていた時、公の場で婚約破棄すれば良いということを思いついた。丁度、父上と母上が隣国に赴くと知り、二つ上の姉である第一王女ゼーファ姉上も留学中。婚約破棄を邪魔する者はいないと判断し、あのパーティー会場にて独断決行したという訳だ。

 闇魔法がどの程度使えるのかは分からないが、きっと大したことはないだろう。ラリエットが強いのならば、その噂が城内に広まっているはず。しかし誰も奴が魔法を使っている姿を見たことがないと言うのだ。つまり魔法も使えぬほど魔力量が少ないと考えられる。
 とはいえ、闇魔法を使えないのならば好都合だ。私に何かをすることはできないのだから。



「君達のおかげで、あの目障りな女との婚約を破棄できた。感謝する。」

「いえ…、これも全ては殿下、ひいてはこの国のためですもの。」

「ええ、その通りですわ。それとお聞きになりましたか?」

「何をだ?」

「婚約破棄の後、彼女はゼンキースア公爵家を追放されたらしいですわ!」

「それは本当か!?」

「間違いありませんわ。私のお父様が、ゼンキースア公爵家当主であられるアルト様から、直接聞いた話ですもの。」



 思わずふっと笑ってしまった。
 これで確実に、あの女は私に手を出せなくなったという訳だ。王太子からの婚約破棄並びに公爵家の追放。これほど不名誉なことはないだろう。奴は何もかも失ったのだ。

 本当に最高の気分だった。
 しかし──



「勝手なことをしおって…!」

「まさかここまでだったとは…。」



 父上と母上の両方から叱られてしまった。婚約破棄に反対するだろうとは思っていたが、ここまでとは…。父上はあの女をかなり重要視していたらしく、王国の良い未来に必ずや貢献してくれると考えていたそう。そしてそれは母上も同じ考えだった。
 だが闇魔法使いに良い者などいるはずがない。良い国どころか、国に災厄をもたらすだろう。故に、私はこの判断を後悔していない。闇魔法使いと結婚などごめんだ。



「ジルファーよ、ラリエットとの婚約を破棄したとは真か?」

「事実ですよ、姉上。権力が欲しいだけの女を、次期王妃にさせる訳にはいかないでしょう?」

「…どの口が言っているのじゃ……。それにしても、惜しい人材を手放したものじゃな。妾ならば絶対に婚約破棄などしないぞ。」

「姉上まで…。」



 婚約破棄から一週間後、留学から帰ってきた唯一の姉弟である姉上にまで、そう言われてしまった。
 一体ラリエットあの女のどこが良いのか…。確かに仕事はできて作法も完璧だが、それだけだ。女としての魅力は何も無い。支えてあげようと思える部分すら無い。さらに権力を得るためならば手段を問わない、残酷な面を持ち合わせている危険な存在だ。私は婚約破棄だけではなく、奴を処刑しておくべきだったと思っている。

 とはいえあの女が居なくなって、問題が無いと言えば嘘になる。



「殿下、こちらの書類にサインをお願いしたく。」

「……はぁ。私は忙しい。見て分からんのか?」

「…申し訳ございません。しかしラリエット様が婚約者ではなくなった今、殿下しか書類を片付けられる者はおりません。」

「貴様がやっておけば良いだろう。さっさと立ち去れ!」



 王城で働く貴族がやって来ては、書類にサインしろなどと言ってくるのだ。この私が仕事をする必要など無い。にも拘わらず、貴族達は毎日のようにやって来た。



「殿下、こちらに…。」

「また貴様か。次からは来るな、これは命令だ!他の貴族達にも言っておけ!!この部屋に私の許可なく訪ねて来たならば、罰を与えるぞ!」



 そこまで言ってようやく貴族達は来なくなった。何もしなくとも贅沢ができる、それが王族の特権だろう。仕事はできる奴に任せれば良い。

 私は玉座さえ手に入れば、その他の事はどうでもいいのだ──
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

悪役令嬢は高らかに笑う。

アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。 エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。 たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。 男爵令嬢に教えてもらった。 この世界は乙女ゲームの世界みたい。 なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。(話し方など)

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

処理中です...