【完結】王位に拘る元婚約者様へ

凛 伊緒

文字の大きさ
上 下
3 / 34

3話 追放

しおりを挟む
「本日のお食事にございます…。」

「まるで貧乏人の食事ね。」

「も、申し訳ございません…!」

「……貴方達は悪くないわ。」



 王城から戻った日の夜、食事が急に変わった。普段の豪華な食事から、硬いパンと薄いスープだけの食事が並べられたのだ。料理人や使用人の反応から、お父様の指示だと察した。何より酷かったのは、食事が一日二食となり、お風呂が二日に一回となったことだ。前世で入院したことがあるので、お風呂が数日に一回という事自体は気にならないが、ここは貴族の世界だ。お風呂に入り、体を常に清く保つのが当たり前。二日に一回など、普通は考えられないのだ。
 こうした生活が続き、一週間後には使用人達から蔑むような目を向けられるようになった。初めこそ同情していたが、次第にそれは虐めへと発展していったのだ。
 前世の記憶が無ければ、闇魔法で使用人達へ反撃していただろう。



「いつかは婚約破棄されるでしょうけど、勉強は必要よね。国王陛下には良くして頂いているから、ご期待に添いたいのだけれど…。今は出来ることを確実に、よね。それに実践を積んでおいた方が、後々役に立つでしょう。」



 茶会やパーティー以外での外出は禁止されたが、幸いなことに部屋を出ることは禁止されなかった。故に日中は誰にも見つからないようにしつつ、公爵家内にある図書館へ行き、出来る限りの勉強をした。闇魔法の練習を兼ねて、誰にも見られないように公爵家内を移動していたのだ。

 実践練習は、早めに就寝したと思わせ、夜中に公爵家を抜け出して行っていた。
 この世界には冒険者という職業があり、冒険者ギルドに登録すれば誰でも依頼を受けられる。さらに驚いたのは、24時間常に依頼を受けられることだ。
 魔物の活動時間に差がある為、夜中でも関係なく依頼を受けられるようになっているとのこと。

 私は貴族であることをギルドマスターと受付嬢以外には隠すことにした。そして事情をギルドマスターに話すと、とても同情してくれた。彼はとても良い人だったのだ。
 国王陛下と同じ考えのようで、闇魔法が悪いものとは微塵も思っていない様子だった。さらに彼は、身分を偽るための変装をした方が良いのではと提案してくれた。そこで私は闇魔法で髪を黒くし、顔が上半分隠れる仮面をすることにしたのだった。

 その後の冒険者としての活動も順調で、公爵家ではまともに取れない食事を、ギルドマスターに頼んで前払いで用意してもらった。その食料を公爵家に持って帰り、自室でこっそり食べていたのだ。おかげで健康には問題なく過ごせていた。


──そうした過去を過ごし、今に至るのだが……



「ラリエット様、着きましたよ。」

「ケインさん、ありがとうございます。」



 馬車を動かしていたのは、ディールト兄様の従者ケインだ。兄様が私に何かあってはいけないと、彼を護衛として付けてくれたのである。
 私には護衛がおらず、信頼出来る侍女が一人だけ。普通ならば護衛が付くのだが、お父様が必要ないと言って付けなかったのだ。それに比べ、ディールト兄様はとても心優しい。



「リエ!?もうパーティーから帰ってきたのかい?」



 公爵家に入るなり、兄様が私を見つけて駆け寄って来た。
 何故こんなにも早いのかと理由を聞かれたので、包み隠さず話した。



「──なっ……それは本当か?!」

「はい…。私は公の場で、殿下に婚約破棄を言い渡されました。」

「あの無能王子…!私的な場ならまだしも、陛下が居らっしゃらない時にパーティーで宣言するなど……まさか、わざとこの時を狙ったのか!?」



 兄様は本気で怒ってくれているようだ。その気持ちだけで十分嬉しかった。



「騒々しいぞ。ディールト、何かあったのか?」

「それが……。」



 二階から降りてきたのは、他でもないお父様だった。
 兄様は迷いつつも、隠しきれないと判断して婚約破棄について話した。すると当然……



「婚約破棄された貴様に公爵家を名乗る資格はないッ!今ここで、ラリエットをゼンキースア公爵家から追放する!!」

「ッ!?父上、いくらなんでもそれは…!」

「これは決定事項だ!闇属性持ちのみならず、王太子に婚約破棄された我が公爵家の恥さらしなど不要。早々に立ち去れ!」



 お父様はもう少し賢明な人だと思っていたが、ディールト兄様よりも圧倒的に頭が悪いと確信した。対応が変わった八歳のあの日から分かっていたことだが…。それに親としての愛情も無い。あるのは自分の利益となるか否か、その一点なのだ。
 私としては、公爵家に執着する理由も無いので追放で構わない。寧ろ虐めが酷くなっている現在は、早く公爵家を出たいくらいだった。兄様は何度も使用人に注意してくれていたが、改善されないのは分かりきっていた。

 心残りがあるとすれば、ディールト兄様や妹のエリルとあまり会えなくなることだ。二人とは良い関係を築けている。私が魔力制御を必死に頑張り、今ではエリルが私を見て怯えることはなくなっていた。
 しかしお父様が私とエリルを引き合わせないた為、会えるのは私が深夜にエリルの部屋を訪ねる週二回程度。今後はより会えなくなるだろう。


 お父様……いえ、追放される以上もう父とは呼ばないでおこう。
 アルト・ゼンキースア公爵は、私を公爵家から追い出すようにと警備兵に命令した。私は兵達に両腕を掴まれ、強制的に外に出される。
 持ち物が何も無く、今着ているドレスはパーティー用で動き易いものではない。売ればお金にはなるだろうが、お金はある程度持ち歩いているので困っていない。
 公爵家の門の外で振り返ると、そこにはディールト兄様がこちらを見ていた。手で合図を送ってきたので、私は了承の意を込めて頷く。

 私は公爵家から少し離れた位置まで来ると、人気のない場所で魔法を使う。
 魔法はイメージ次第で自由に使える。私は闇魔法で服を作り、魔法で今の服と入れ替えた。黒を基調とした、いかにも魔法使いの衣装だ。冒険者として活動している時の格好である。



「さて、これからが楽しみね。」



 私は仮面を付け、冒険者ギルドへ向かった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...