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3話 追放
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「本日のお食事にございます…。」
「まるで貧乏人の食事ね。」
「も、申し訳ございません…!」
「……貴方達は悪くないわ。」
王城から戻った日の夜、食事が急に変わった。普段の豪華な食事から、硬いパンと薄いスープだけの食事が並べられたのだ。料理人や使用人の反応から、お父様の指示だと察した。何より酷かったのは、食事が一日二食となり、お風呂が二日に一回となったことだ。前世で入院したことがあるので、お風呂が数日に一回という事自体は気にならないが、ここは貴族の世界だ。お風呂に入り、体を常に清く保つのが当たり前。二日に一回など、普通は考えられないのだ。
こうした生活が続き、一週間後には使用人達から蔑むような目を向けられるようになった。初めこそ同情していたが、次第にそれは虐めへと発展していったのだ。
前世の記憶が無ければ、闇魔法で使用人達へ反撃していただろう。
「いつかは婚約破棄されるでしょうけど、勉強は必要よね。国王陛下には良くして頂いているから、ご期待に添いたいのだけれど…。今は出来ることを確実に、よね。それに実践を積んでおいた方が、後々役に立つでしょう。」
茶会やパーティー以外での外出は禁止されたが、幸いなことに部屋を出ることは禁止されなかった。故に日中は誰にも見つからないようにしつつ、公爵家内にある図書館へ行き、出来る限りの勉強をした。闇魔法の練習を兼ねて、誰にも見られないように公爵家内を移動していたのだ。
実践練習は、早めに就寝したと思わせ、夜中に公爵家を抜け出して行っていた。
この世界には冒険者という職業があり、冒険者ギルドに登録すれば誰でも依頼を受けられる。さらに驚いたのは、24時間常に依頼を受けられることだ。
魔物の活動時間に差がある為、夜中でも関係なく依頼を受けられるようになっているとのこと。
私は貴族であることをギルドマスターと受付嬢以外には隠すことにした。そして事情をギルドマスターに話すと、とても同情してくれた。彼はとても良い人だったのだ。
国王陛下と同じ考えのようで、闇魔法が悪いものとは微塵も思っていない様子だった。さらに彼は、身分を偽るための変装をした方が良いのではと提案してくれた。そこで私は闇魔法で髪を黒くし、顔が上半分隠れる仮面をすることにしたのだった。
その後の冒険者としての活動も順調で、公爵家ではまともに取れない食事を、ギルドマスターに頼んで前払いで用意してもらった。その食料を公爵家に持って帰り、自室でこっそり食べていたのだ。おかげで健康には問題なく過ごせていた。
──そうした過去を過ごし、今に至るのだが……
「ラリエット様、着きましたよ。」
「ケインさん、ありがとうございます。」
馬車を動かしていたのは、ディールト兄様の従者ケインだ。兄様が私に何かあってはいけないと、彼を護衛として付けてくれたのである。
私には護衛がおらず、信頼出来る侍女が一人だけ。普通ならば護衛が付くのだが、お父様が必要ないと言って付けなかったのだ。それに比べ、ディールト兄様はとても心優しい。
「リエ!?もうパーティーから帰ってきたのかい?」
公爵家に入るなり、兄様が私を見つけて駆け寄って来た。
何故こんなにも早いのかと理由を聞かれたので、包み隠さず話した。
「──なっ……それは本当か?!」
「はい…。私は公の場で、殿下に婚約破棄を言い渡されました。」
「あの無能王子…!私的な場ならまだしも、陛下が居らっしゃらない時にパーティーで宣言するなど……まさか、わざとこの時を狙ったのか!?」
兄様は本気で怒ってくれているようだ。その気持ちだけで十分嬉しかった。
「騒々しいぞ。ディールト、何かあったのか?」
「それが……。」
二階から降りてきたのは、他でもないお父様だった。
兄様は迷いつつも、隠しきれないと判断して婚約破棄について話した。すると当然……
「婚約破棄された貴様に公爵家を名乗る資格はないッ!今ここで、ラリエットをゼンキースア公爵家から追放する!!」
「ッ!?父上、いくらなんでもそれは…!」
「これは決定事項だ!闇属性持ちのみならず、王太子に婚約破棄された我が公爵家の恥さらしなど不要。早々に立ち去れ!」
お父様はもう少し賢明な人だと思っていたが、ディールト兄様よりも圧倒的に頭が悪いと確信した。対応が変わった八歳のあの日から分かっていたことだが…。それに親としての愛情も無い。あるのは自分の利益となるか否か、その一点なのだ。
私としては、公爵家に執着する理由も無いので追放で構わない。寧ろ虐めが酷くなっている現在は、早く公爵家を出たいくらいだった。兄様は何度も使用人に注意してくれていたが、改善されないのは分かりきっていた。
心残りがあるとすれば、ディールト兄様や妹のエリルとあまり会えなくなることだ。二人とは良い関係を築けている。私が魔力制御を必死に頑張り、今ではエリルが私を見て怯えることはなくなっていた。
しかしお父様が私とエリルを引き合わせないた為、会えるのは私が深夜にエリルの部屋を訪ねる週二回程度。今後はより会えなくなるだろう。
お父様……いえ、追放される以上もう父とは呼ばないでおこう。
アルト・ゼンキースア公爵は、私を公爵家から追い出すようにと警備兵に命令した。私は兵達に両腕を掴まれ、強制的に外に出される。
持ち物が何も無く、今着ているドレスはパーティー用で動き易いものではない。売ればお金にはなるだろうが、お金はある程度持ち歩いているので困っていない。
公爵家の門の外で振り返ると、そこにはディールト兄様がこちらを見ていた。手で合図を送ってきたので、私は了承の意を込めて頷く。
私は公爵家から少し離れた位置まで来ると、人気のない場所で魔法を使う。
魔法はイメージ次第で自由に使える。私は闇魔法で服を作り、魔法で今の服と入れ替えた。黒を基調とした、いかにも魔法使いの衣装だ。冒険者として活動している時の格好である。
「さて、これからが楽しみね。」
私は仮面を付け、冒険者ギルドへ向かった。
「まるで貧乏人の食事ね。」
「も、申し訳ございません…!」
「……貴方達は悪くないわ。」
王城から戻った日の夜、食事が急に変わった。普段の豪華な食事から、硬いパンと薄いスープだけの食事が並べられたのだ。料理人や使用人の反応から、お父様の指示だと察した。何より酷かったのは、食事が一日二食となり、お風呂が二日に一回となったことだ。前世で入院したことがあるので、お風呂が数日に一回という事自体は気にならないが、ここは貴族の世界だ。お風呂に入り、体を常に清く保つのが当たり前。二日に一回など、普通は考えられないのだ。
こうした生活が続き、一週間後には使用人達から蔑むような目を向けられるようになった。初めこそ同情していたが、次第にそれは虐めへと発展していったのだ。
前世の記憶が無ければ、闇魔法で使用人達へ反撃していただろう。
「いつかは婚約破棄されるでしょうけど、勉強は必要よね。国王陛下には良くして頂いているから、ご期待に添いたいのだけれど…。今は出来ることを確実に、よね。それに実践を積んでおいた方が、後々役に立つでしょう。」
茶会やパーティー以外での外出は禁止されたが、幸いなことに部屋を出ることは禁止されなかった。故に日中は誰にも見つからないようにしつつ、公爵家内にある図書館へ行き、出来る限りの勉強をした。闇魔法の練習を兼ねて、誰にも見られないように公爵家内を移動していたのだ。
実践練習は、早めに就寝したと思わせ、夜中に公爵家を抜け出して行っていた。
この世界には冒険者という職業があり、冒険者ギルドに登録すれば誰でも依頼を受けられる。さらに驚いたのは、24時間常に依頼を受けられることだ。
魔物の活動時間に差がある為、夜中でも関係なく依頼を受けられるようになっているとのこと。
私は貴族であることをギルドマスターと受付嬢以外には隠すことにした。そして事情をギルドマスターに話すと、とても同情してくれた。彼はとても良い人だったのだ。
国王陛下と同じ考えのようで、闇魔法が悪いものとは微塵も思っていない様子だった。さらに彼は、身分を偽るための変装をした方が良いのではと提案してくれた。そこで私は闇魔法で髪を黒くし、顔が上半分隠れる仮面をすることにしたのだった。
その後の冒険者としての活動も順調で、公爵家ではまともに取れない食事を、ギルドマスターに頼んで前払いで用意してもらった。その食料を公爵家に持って帰り、自室でこっそり食べていたのだ。おかげで健康には問題なく過ごせていた。
──そうした過去を過ごし、今に至るのだが……
「ラリエット様、着きましたよ。」
「ケインさん、ありがとうございます。」
馬車を動かしていたのは、ディールト兄様の従者ケインだ。兄様が私に何かあってはいけないと、彼を護衛として付けてくれたのである。
私には護衛がおらず、信頼出来る侍女が一人だけ。普通ならば護衛が付くのだが、お父様が必要ないと言って付けなかったのだ。それに比べ、ディールト兄様はとても心優しい。
「リエ!?もうパーティーから帰ってきたのかい?」
公爵家に入るなり、兄様が私を見つけて駆け寄って来た。
何故こんなにも早いのかと理由を聞かれたので、包み隠さず話した。
「──なっ……それは本当か?!」
「はい…。私は公の場で、殿下に婚約破棄を言い渡されました。」
「あの無能王子…!私的な場ならまだしも、陛下が居らっしゃらない時にパーティーで宣言するなど……まさか、わざとこの時を狙ったのか!?」
兄様は本気で怒ってくれているようだ。その気持ちだけで十分嬉しかった。
「騒々しいぞ。ディールト、何かあったのか?」
「それが……。」
二階から降りてきたのは、他でもないお父様だった。
兄様は迷いつつも、隠しきれないと判断して婚約破棄について話した。すると当然……
「婚約破棄された貴様に公爵家を名乗る資格はないッ!今ここで、ラリエットをゼンキースア公爵家から追放する!!」
「ッ!?父上、いくらなんでもそれは…!」
「これは決定事項だ!闇属性持ちのみならず、王太子に婚約破棄された我が公爵家の恥さらしなど不要。早々に立ち去れ!」
お父様はもう少し賢明な人だと思っていたが、ディールト兄様よりも圧倒的に頭が悪いと確信した。対応が変わった八歳のあの日から分かっていたことだが…。それに親としての愛情も無い。あるのは自分の利益となるか否か、その一点なのだ。
私としては、公爵家に執着する理由も無いので追放で構わない。寧ろ虐めが酷くなっている現在は、早く公爵家を出たいくらいだった。兄様は何度も使用人に注意してくれていたが、改善されないのは分かりきっていた。
心残りがあるとすれば、ディールト兄様や妹のエリルとあまり会えなくなることだ。二人とは良い関係を築けている。私が魔力制御を必死に頑張り、今ではエリルが私を見て怯えることはなくなっていた。
しかしお父様が私とエリルを引き合わせないた為、会えるのは私が深夜にエリルの部屋を訪ねる週二回程度。今後はより会えなくなるだろう。
お父様……いえ、追放される以上もう父とは呼ばないでおこう。
アルト・ゼンキースア公爵は、私を公爵家から追い出すようにと警備兵に命令した。私は兵達に両腕を掴まれ、強制的に外に出される。
持ち物が何も無く、今着ているドレスはパーティー用で動き易いものではない。売ればお金にはなるだろうが、お金はある程度持ち歩いているので困っていない。
公爵家の門の外で振り返ると、そこにはディールト兄様がこちらを見ていた。手で合図を送ってきたので、私は了承の意を込めて頷く。
私は公爵家から少し離れた位置まで来ると、人気のない場所で魔法を使う。
魔法はイメージ次第で自由に使える。私は闇魔法で服を作り、魔法で今の服と入れ替えた。黒を基調とした、いかにも魔法使いの衣装だ。冒険者として活動している時の格好である。
「さて、これからが楽しみね。」
私は仮面を付け、冒険者ギルドへ向かった。
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