93 / 94
6章 始まりの魔法
91話 被害と未来
しおりを挟む
「待っていたよ。」
「この倉庫に出せば良いのね?」
「ああ。」
翌朝。
私とミアスは、ギルドが所有する魔物の解体用倉庫に来ていた。
セラの件で少し遅くなってしまったが、2体のドラゴンを買い取ってもらうためだ。
その内1体は出処が不明と思われてしまう為、レイが極秘裏に処理するそう。
解体を行う者や買い手以外の者には、不用意に話さないようにとの事だった。
セラも関わっているが故に、完全に隠蔽してしまいたいのだろう。
レイも見守る中、ドラゴンの解体が始まった。
「必要以上に傷を付けないでくれよ。」
「分かってるぜ、グラマス。」
ドラゴンの解体は驚くべきほどの速さで行われ、一部の素材は私がその場で受け取り、ドラゴンの殆どの素材はギルドが買い取った。
解体にかかった手間代を差し引いた金額が、今回の買取金額となる。
それにしてもかなりの額だ。
王城一つ建ちそうなほどの大金が手に入った。
レイによると、ギルドには銀行のような仕組みもあるそう。
ギルドカードを通して預入している金額を確認できるので、どのギルドでも引き出すことが可能らしい。
ただしそれぞれのギルドにある通貨には限りがある為、最も多い額を引き出したい場合はギルド本部が良いとのこと。
一先ず、私は買取金額の全てをギルドの銀行へと預けた。
確認の為ギルドカードに魔力を込めて欲しいと言われ、言われるがままに魔力を込めた。するとカードの裏面、右下に数字が浮かび上がり、ドラゴンの買取金額と同じ額が表示されていた。
つまり問題なく預けられたということだ。
「ギルドが買い取った素材はどうなるの?」
「ギルドお抱えの武器職人や防具職人に素材の一部を渡し、その代わりに一級品の武器や防具を提供してもらうのさ。そしてアタシがこれぞと見込んだ者にだけ、買う機会を与える。売上の3割が、職人への報酬だな。それでも相当な額になる。」
「他の素材は?」
「冒険者ギルドのオークションへ出す予定だ。そこは王族や貴族、商人などだけでなく、冒険者も参加可能でな。莫大な額であっても支払う手段を持つと判断されたならば、誰でも参加が認められるのさ。Aランク冒険者が、魔法具などの掘り出し物目当てに参加することもある。」
「つまり金さえあれば、購入できるチャンスが誰でも平等に与えられるという事ね。」
「その通り。」
オークションに出品すれば、確実に元が取れるだろう。
私に買取金額として提示した額は相当なものだったが、それ以上の利益が約束されていると考えると、買取金額など安く思えてくる。
「買い取ってもらった以上、素材に関しては何も言わないわ。好きにして頂戴。」
「ああ。王国にはなるべく損にならないようにするさ。」
「それは有難いわね。」
そうして、一度ギルド本部を後にした。
《瞬間転移》にて王城へと戻った私とミアスは、国王ヴィライユの書斎へと向かった。
国王であれば、『クリエイトルイン』について何か情報を知っているのではと思ったからだ。
入室の許可を得て、レイから聞いた話を一部省きつつ『クリエイトルイン』について話した。
「──その組織の名は報告を受けている。だが情報があまりにも少なくてな…。どの程度の規模なのか、何処を拠点にしているのか、誰が長なのか、何も分かっていない。暗部に調べさせてはいるが、全く尾を出さないのが現状だ。」
「そうなのですね…。」
「力になれなくてすまぬな……。」
「いえ、それだけ手強い相手ということです。より警戒をする必要があると分かっただけでも十分でしょう。陛下がお気を落とされることはありませんよ。」
「リアラは相変わらず優しいな…。こちらで何か情報が掴めた際は、すぐに報告させよう。」
「ありがとうございます。」
結局、ヴィライユからは『クリエイトルイン』についての情報が得られなかった。
暗部が動いても情報が得られないとは、かなり警戒心が強くかつ実力がある組織と言える。
とはいえ組織に関して所持している情報は、『始原』について以外の全てをヴィライユと共有しておいた。
特に、レイから聞いた『宗教の裏側に息を潜めている』という情報は重要だ。
暗部が何処を調べれば良いのか、それを明確にできるだろう。
「それと、先日のジルディガーとドラゴンによる襲撃、その被害報告が上がってきている。行方不明となっていた者の内10名はドラゴンから逃げ、近くの村まで冒険者と共に避難していたようだ。最終的な死者は、117名となった。」
「117名ですか……。」
「少ないと言えば嘘になるかもしれない。だがそれでも、救えた命が数多あることを覚えておいて欲しい。リアラが居なければ、我が国は滅んでいてもおかしくはなかったのだからな。」
「……お言葉、感謝致します。」
私が王都内に居たのならば、被害はもっと減ったはずだ。
相手の策だったとはいえ、嵌められた時点で相手にこちら側の隙を与えたも同然。
同じ過ちを繰り返さない為にも、今後は一歩リードされた状態から始まるのではなく、こちらが有利な状況になるよう、あらゆる可能性を考えて動く必要があるだろう。
ドラゴンを倒したといえど、まだまだ課題は山積みだ。
その後、私とミアスは書斎を退室し、王都内の様子を見に行くことにした。
王都の復旧作業は民のみならず、兵士達も動員して進められていたが、まだ住める状況ではない民が大勢いた。
その者達は教会或いは身内や知人の家で過ごしている。
私とミアスが王都内を歩いていると、沢山の人々に声をかけられた。
私達を見ている民の瞳は明るく、これだけの被害にもかかわらず、既に前を向いて進んでいる様子だ。
『家が壊されてしまったからこそ、以前より良い建物にしようと考えている』、そう話す民もいた。
殆どの人が未来を見据えて行動し始めていたのだ。
そんな民の様子に安心していると、気が付けば大勢の民に囲まれていた。
身動きが取れなかった為、思わず《瞬間移動》を使って人気の無い場所まで転移したのだが……
「──誰が転移してきたのかと思えば、リアラ王女殿下ではありませんか。」
「この倉庫に出せば良いのね?」
「ああ。」
翌朝。
私とミアスは、ギルドが所有する魔物の解体用倉庫に来ていた。
セラの件で少し遅くなってしまったが、2体のドラゴンを買い取ってもらうためだ。
その内1体は出処が不明と思われてしまう為、レイが極秘裏に処理するそう。
解体を行う者や買い手以外の者には、不用意に話さないようにとの事だった。
セラも関わっているが故に、完全に隠蔽してしまいたいのだろう。
レイも見守る中、ドラゴンの解体が始まった。
「必要以上に傷を付けないでくれよ。」
「分かってるぜ、グラマス。」
ドラゴンの解体は驚くべきほどの速さで行われ、一部の素材は私がその場で受け取り、ドラゴンの殆どの素材はギルドが買い取った。
解体にかかった手間代を差し引いた金額が、今回の買取金額となる。
それにしてもかなりの額だ。
王城一つ建ちそうなほどの大金が手に入った。
レイによると、ギルドには銀行のような仕組みもあるそう。
ギルドカードを通して預入している金額を確認できるので、どのギルドでも引き出すことが可能らしい。
ただしそれぞれのギルドにある通貨には限りがある為、最も多い額を引き出したい場合はギルド本部が良いとのこと。
一先ず、私は買取金額の全てをギルドの銀行へと預けた。
確認の為ギルドカードに魔力を込めて欲しいと言われ、言われるがままに魔力を込めた。するとカードの裏面、右下に数字が浮かび上がり、ドラゴンの買取金額と同じ額が表示されていた。
つまり問題なく預けられたということだ。
「ギルドが買い取った素材はどうなるの?」
「ギルドお抱えの武器職人や防具職人に素材の一部を渡し、その代わりに一級品の武器や防具を提供してもらうのさ。そしてアタシがこれぞと見込んだ者にだけ、買う機会を与える。売上の3割が、職人への報酬だな。それでも相当な額になる。」
「他の素材は?」
「冒険者ギルドのオークションへ出す予定だ。そこは王族や貴族、商人などだけでなく、冒険者も参加可能でな。莫大な額であっても支払う手段を持つと判断されたならば、誰でも参加が認められるのさ。Aランク冒険者が、魔法具などの掘り出し物目当てに参加することもある。」
「つまり金さえあれば、購入できるチャンスが誰でも平等に与えられるという事ね。」
「その通り。」
オークションに出品すれば、確実に元が取れるだろう。
私に買取金額として提示した額は相当なものだったが、それ以上の利益が約束されていると考えると、買取金額など安く思えてくる。
「買い取ってもらった以上、素材に関しては何も言わないわ。好きにして頂戴。」
「ああ。王国にはなるべく損にならないようにするさ。」
「それは有難いわね。」
そうして、一度ギルド本部を後にした。
《瞬間転移》にて王城へと戻った私とミアスは、国王ヴィライユの書斎へと向かった。
国王であれば、『クリエイトルイン』について何か情報を知っているのではと思ったからだ。
入室の許可を得て、レイから聞いた話を一部省きつつ『クリエイトルイン』について話した。
「──その組織の名は報告を受けている。だが情報があまりにも少なくてな…。どの程度の規模なのか、何処を拠点にしているのか、誰が長なのか、何も分かっていない。暗部に調べさせてはいるが、全く尾を出さないのが現状だ。」
「そうなのですね…。」
「力になれなくてすまぬな……。」
「いえ、それだけ手強い相手ということです。より警戒をする必要があると分かっただけでも十分でしょう。陛下がお気を落とされることはありませんよ。」
「リアラは相変わらず優しいな…。こちらで何か情報が掴めた際は、すぐに報告させよう。」
「ありがとうございます。」
結局、ヴィライユからは『クリエイトルイン』についての情報が得られなかった。
暗部が動いても情報が得られないとは、かなり警戒心が強くかつ実力がある組織と言える。
とはいえ組織に関して所持している情報は、『始原』について以外の全てをヴィライユと共有しておいた。
特に、レイから聞いた『宗教の裏側に息を潜めている』という情報は重要だ。
暗部が何処を調べれば良いのか、それを明確にできるだろう。
「それと、先日のジルディガーとドラゴンによる襲撃、その被害報告が上がってきている。行方不明となっていた者の内10名はドラゴンから逃げ、近くの村まで冒険者と共に避難していたようだ。最終的な死者は、117名となった。」
「117名ですか……。」
「少ないと言えば嘘になるかもしれない。だがそれでも、救えた命が数多あることを覚えておいて欲しい。リアラが居なければ、我が国は滅んでいてもおかしくはなかったのだからな。」
「……お言葉、感謝致します。」
私が王都内に居たのならば、被害はもっと減ったはずだ。
相手の策だったとはいえ、嵌められた時点で相手にこちら側の隙を与えたも同然。
同じ過ちを繰り返さない為にも、今後は一歩リードされた状態から始まるのではなく、こちらが有利な状況になるよう、あらゆる可能性を考えて動く必要があるだろう。
ドラゴンを倒したといえど、まだまだ課題は山積みだ。
その後、私とミアスは書斎を退室し、王都内の様子を見に行くことにした。
王都の復旧作業は民のみならず、兵士達も動員して進められていたが、まだ住める状況ではない民が大勢いた。
その者達は教会或いは身内や知人の家で過ごしている。
私とミアスが王都内を歩いていると、沢山の人々に声をかけられた。
私達を見ている民の瞳は明るく、これだけの被害にもかかわらず、既に前を向いて進んでいる様子だ。
『家が壊されてしまったからこそ、以前より良い建物にしようと考えている』、そう話す民もいた。
殆どの人が未来を見据えて行動し始めていたのだ。
そんな民の様子に安心していると、気が付けば大勢の民に囲まれていた。
身動きが取れなかった為、思わず《瞬間移動》を使って人気の無い場所まで転移したのだが……
「──誰が転移してきたのかと思えば、リアラ王女殿下ではありませんか。」
22
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる