転生魔法伝記〜魔法を極めたいと思いますが、それを邪魔する者は排除しておきます〜

凛 伊緒

文字の大きさ
上 下
86 / 94
6章 始まりの魔法

第84話 友達

しおりを挟む
「リアラ、朝だぞ。」

「……ミアス。」


目覚めた私は、少し頭が痛かった。
原因は何となく覚えているが、はっきりとは思い出せない。


「はぁ……面倒なことをしてくれたものね…。」


自身に《全強制解除オールキャンセル》をかけ、かけられていた魔法を解除する。
元々あらゆる耐性の結界を自分にかけているが、それらが功を奏したのだ。
それでも少しだけ結界を抜けてきた魔法があった。
流石は賢者……、とでも言っておこう。


「とはいえこれは貸しね。」

「どうした?」

「ねぇミアス、夜に何かあったかしら。」

「…?何も無かったと思うが…。俺もリアラも寝ていただけだろ?」

「……やっぱりね。──《全強制解除》。」


ミアスにも、私と同じ魔法がかけられていた。
それを解除した途端、ミアスは驚いた表情をした。


「っ…!頭が割れそうだ…。確かに夜に何かあったな。」

「思い出せたようでなにより。」

「……この魔法って、解除すれば思い出せるんだな…。」


私達にかけられていた魔法、それは《忘却オブリビオン》という魔法だ。
ある特定の記憶を消す、上級魔法。
だが実際に記憶が消えている訳ではなく、思い出せないよう閉じ込める…、『封印する』という表現の方が正しいと言える。
とはいえ《忘却》をかけられたことに気付かない場合が殆ど。
今回のような夜中の出来事であるならば尚更だ。
記憶が無いのは普通に眠っていたから、という理由が当てはまってしまうのである。


「一度あった出来事を無かったことには出来ない。それと同じで、たとえ魔法をかけられようとも記憶を完全に消すことなんて不可能なのよ。」

「そうなのか…。…レイがあんなことをするなんてな……。」

「……事情があるのでしょう。今日はギルド本部に行く日。聞けば話してくれるはずよ。」


ギルドに向かう前に、ミアスが警備兵などに確認のための質問をした。
しかし『夜は何も起きていない』と、質問した全員がそう証言したのだ。
私も数人の警備兵を見たが、魔法をかけられた形跡があった。
レイによる隠蔽が完璧に行われていたのである。

ドラゴンの件で国王ヴィライユから呼び出しを受けていないということは、おそらくヴィライユにも魔法をかけたのか口止めをしたのだろう。
本当に抜かりが無い。


「さて、行きましょうか。」


用意を済ませ、私とミアスは2人のみでギルド本部へと向かった。

ギルド本部は巨大な入口の扉が開け放たれており、『来る者拒まず』という印象を受ける。
ただし受付までは直線とはいえ少し距離があり、両脇の沢山あるテーブルには冒険者達が座っている。
中央の受付までの道のりを歩いて行くと、冒険者からの視線が感じられた。
きっと無駄に長い『入口から受付までの距離』は、高難易度の依頼を受ける覚悟があるのか否かを試す意味合いがあるのだろう。
冒険者達の圧に負けていては、このギルド本部に寄せられる依頼を受けるなど夢のまた夢、そういう意志を感じられる。
ギルド支部とは違い、ギルド本部が高難易度依頼ばかりを扱う事となっているのには納得だ。

当然、本部にも冒険者登録や下位の依頼は存在する。
しかしこの場所で登録をするのは、かなり勇気があるか自分の腕に自信があるもの、或いは変わり者くらいな気がした。
見た限り、ここにはBランク以上の強者達しかいない様子だ。
普段は初めて入ってきた者には睨むような視線を向けるのだろうが……


「おいっ、アレ見ろよ。」

「ありゃ王女様とミアス様じゃねぇか!」

「俺がさっき聞いた話では、Sランクになったって噂だぜ。グラマスが既に認めているらしい。」

「まじかよ!?でもあの2人が冒険者になったのって、確か一昨日だよな?」

「ああ。たった2日でSランク冒険者だ。」

「やべぇーな。だがあの2人なら納得だぜ。」

「今日ここに来たのは、多分Sランクの手続きだろうよ。」

「確かに。この本部でしか、Sランクの手続きは行われないもんな。」


全部丸聞こえだ…。
まぁ何を言っていようが、根拠の無い悪評でもない限り気に止めないが。

それにしても、既に私とミアスがSランクに昇格する話が広まっている様子。
商人の如く恐るべき情報の伝達の速さだ。
一流の冒険者であるということの証明なのだろう。
なにしろ命をかけて仕事をしているのが冒険者だ。
情報を知る速さや正確さは、冒険者を続ける上で必ず必要となる。
命を守る為にも、常にあらゆる情報に敏感になっていなければいけない。


「お待ちしておりました。私はリネットと申します。リアラ様、ミアス様、こちらへどうぞ。」


階段を上り、とある部屋へと向かっていく。


「凄いですね、リアラ様とミアス様は。たった2日でSランクとは!」

「『様』は付けなくて良いわよ。ねぇ、ミアス?」

「ああ。今はただの冒険者だからな。」

「なんと…!ありがたいですっ!」


はしゃいでいる子供の様な反応を見せるリネット。
とても可愛らしい。


「リネットは今何歳なの?」

「私は15歳です。リアラさんやミアスさんと同い年ですよ。と言っても、私は落ち着きがありませんし、お2人のように凄い力や大人びた雰囲気もありませんが!」


自慢げに言っているが、何も自慢にはなっていない…。
その辺も含めて、リネットの良さだろう。
少なくとも私は彼女に好感を持った。
ミアスも同じ気持ちらしい。

広いギルド本部を歩いて行く中で、会話は弾んだ。
そうして知ったのだが、リネットはレイに拾われたらしい。
物心ついた時には両親がおらず、5歳の頃、食料を得るために森に入り、魔物に襲われたそうだ。
そしてその魔物からリネットを助けてくれたのが、偶然通りかかったレイだった。
レイは親代わりに彼女を育て、このギルドでの受付嬢という仕事をくれたという。
護身用として剣術や魔法もレイから教わったので、Bランク冒険者に匹敵しそうな程の強さを得ているようだ。

ちなみにだが、リネットはレイが賢者であることを知っている。
あまり他人に顔を見せないようにしているレイだが、付き合いが長くなると隠し通すのも困難となるのだろう。
老けないというのも大変だ。
幻覚魔法などを用いて変装をする事も可能だが、その姿に合った演技をしなければならない点が、普通より疲れてしまうのだ。


「ファル先生にはとても感謝しているんです。あのままでは、確実に私は死んでいましたからね。」

「リネットは冒険者になったりしないの?」

「冒険者になってしまったら、先生のお役に立ちずらくなってしまうので…。それに、今の受付嬢という仕事が、自分には一番合っていると思うのです!」

「そうなのね。」


レイの正体を知る者が受付嬢として居るのならば、確かに役に立てるだろう。
極秘の依頼やレイ自身からの伝言などを、伝えやすくなるからだ。


「あ、そうだ。リネット、お友達にならない?」

「えっ…!?私なんかが、王女様と……?!」

「ええ。同い年なのだし。…嫌かしら…?」

「嫌じゃないですっ!よろしくお願いしますっ!!」


勢いよく頭を下げるリネット。
腰が悪い人ならばぎっくり腰になっていそうだ。


「ふふっ。じゃあこれからは堅苦しいのは抜きよ?勿論ミアスにもね。良いでしょう?」

「ああ。主たるリアラがそう言うのなら、俺に否はない。」

「夢みたい……夢じゃない…よね!?」


リネットは自分の顔をペタペタと触りながら、目を右往左往させている。
そんなにも嬉しかったのだろうか…。
私としては、喜んでもらえたのなら何でも良い。


「リネット、よろしくね。」

「はい!…じゃなくて、うん!よろしくね、リアラ、ミアス!」

「よろしく。」


こうして、私達は友達になったのだった。

話していて知ったのだが、レイは一部の者からはファルと呼ばれているが、基本的には『グランドマスター』と呼ばれているらしい。
ギルド総マスターと書いてグランドマスター、略して『グラマス』だ。
50年に一度グランドマスターが変わるそうだが、レイがただ偽名を変えているに過ぎないことを私達は知っている。

歩き始めて10分弱、〈ギルド総マスター〉と書かれた部屋の前へと着いた。


「このギルド本部が広いとはいえ……遠すぎない?かなり速いペースで歩いていたと思うのだけれど…。」

「あはは…、仕方ないよ。先生は正体を隠す必要があるから、誰かが間違えて部屋に入るってことが起きないような場所を、選ばなきゃいけなかったんだよ。」

「なるほどね…。」

「グランドマスター、2人をお連れしました!」

「入ってくれ。」


中に入ると、威厳溢れる様子でレイが座っていた。
リネットは頭を下げて退室して行き、この部屋には私とミアス、そしてレイの3人のみとなった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...