転生魔法伝記〜魔法を極めたいと思いますが、それを邪魔する者は排除しておきます〜

凛 伊緒

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5章 王都上空決戦

第78話 聖女

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教会へ向かう途中、街に魔物が残っていないかを確認した。
既に殲滅は終了しており、今は負傷者の救助がされているようだった。
冒険者達は優秀だ。

ミアスと共に、教会内部へと入る。


「「「聖女様!」」」

「「流石は聖女様だ!」」

「……これは…。」


教会内では、何故かリーゼが『聖女様』と呼ばれていた。
結界を張っていただけではこうはならないはず。
何があったのか、想像は出来なくもないが…。
人間嫌いの精霊が王国の民に対し、何の意味もなく慈善事業で治癒魔法を使ったとは考えられない。
現に『聖女様』と呼ばれてはいるが、名前は誰も知らない様子。
リーゼに何か意図があった、或いはこの場に居る民達が気に入ったのか。
後者は考えにくいだろう。
ならば何故という疑問が残る…。


「えぇっと……。」


安易にリーゼの名前を明かしてはならないと判断した私は、周囲の者と同じように聖女と呼ぼうとした。
しかし王族たる私が聖女と呼んでしまえば、民達は本当に彼女が聖女なのだと信じてしまう。
おそらく教会に避難している民達は、リーゼが精霊だということに気付いていないのだろう。
彼女のことを人間だと思っている、そして魔法の効果や結界と治癒魔法を同時に扱えている事などが相俟って、聖女様と呼ばれるに至っている様だ。
私も精霊だと知らなければ、聖女認定しようと思っただろう。

よく見ると、リーゼは幻覚魔法にて完璧に人間に化けていた。
故に、誰も精霊だと気付けないのだ。
学ぶべきことが多いと思える程に、精霊の魔法は無駄が無く美しい…。


「あっ!リアラ……殿下…。」

「……この場は私にお任せを。」


私が小声でそう言うと、リーゼは軽く頷いた。


「皆さん、災厄の脅威は去りました。もう怯える必要はありません。」

「「「おぉ!第三王女殿下だ!」」」

「「流石は異魔眼ファイレアイの二つ名を持つお方だ!」」

「「「それに瞬滅デスアルのミアス様もいらっしゃるぞ!」」」


わぁ!っと歓声が上がり、教会内は盛り上がりを見せた。
その様子を見て、私は言葉を続けた。


「一度自宅へ戻り被害状況を確認すると同時に、負傷者がいるようならばこの教会へ運んでください。とりあえず──《癒虹雨ヒールレイン》。」

「「……凄い…。」」

「「「綺麗……。」」」


魔法を唱えると、虹色の雨が教会内部全体に降り注いだ。
雨に当たると温かさを感じ、傷が全て癒える。
超級魔法《広範囲治癒魔法エリアヒール》と同等級の魔法。
しかし見た目にこだわり、さらには効果も上げている。
故に超級魔法よりも上位の魔法と化しているのだ。
超級魔法より上位だが、伝説級魔法よりは下位…。
この2つの難易度の間の魔法、名付けるならば『極級魔法』と言ったところだろうか。
因みにだが、死魔の森で使用した《旋風氷河ワール・グレイシャー》は、言うまでもなく伝説級魔法に値する。


「傷が癒えていない方は、私の方まで来てください。」


そうして、30分後には教会に居た負傷者全員の治療が終わった。
救助が進めばまだ増えると思われるが、一段落はついた。
安静にしなければならない者とそうでない者に分け、後者は帰り、前者は教会にてしばらく様子見をしてもらう。


「対応が早いわね…。」

「ありがとうございます。──さて、聞きたいことがあるので、一先ず場所を移しましょうか。」

「……えぇ、そうね。」

「ミアスは新たな負傷者が運ばれて来た際、自身では治せないと判断した場合、私を呼ぶように。」

「承知致しました。」


私とリーゼは神官に案内してもらい、教会内の個室へと移動する。
2人きりとなった室内に、私は遮音結界を張った。
彼女との会話内容を聞かれないようにする為だ。
さらに魔法や魔道具が仕掛けられていても大丈夫なよう、あらゆる魔法効果を解除する魔法も発動しておいた。


「リーゼ様。念の為確認しておきますが、正体とお名前を民達に知られていませんか?」

「言っていないわ。聞かれた時は秘密と言ったもの。」

「安心致しました。では何故彼らに治癒魔法を?」

「貴女への借りを返したまで。結界を張るだけでは足りないと思っていたから、丁度良かったのよ。」

「ならば回復魔法程度で良かったのでは…?」

「それでは治らない程の怪我をした人もいたわ。私を精霊の住処まで送ってもらうことになるでしょうから、護衛代の代わりも兼ねて治癒魔法を使ったのよ。」


まさかそこまで考えていたとは…。
確かに、リーゼを精霊の住処の近くまで送り届けようと思ってはいたが、精霊がここまで義理堅いとは思わなかった。
彼女のおかげで助かった命は多くあるだろう。


「私は水と風の精霊。攻撃魔法よりも、支援魔法の方が得意なの。だからこそ結界魔法は勿論のこと、回復魔法や治癒魔法も簡単に扱えるわ。」

「風は分かっていましたが、水の精霊でもあったのですね…。」

「ええ。私にとっては、人間の傷を治すことくらい造作もないわ。」

「民達が聖女と思ってしまうのも納得ね……。ですがこれでは私の方が借りを作ってしまっています。ですので、今から死魔の森へ行きましょうか。」

「……はぁ?!い、今から…?」

「はい。やり残していることがありますので。」


私は個室にリーゼを待機させ、ミアスの元へ向かった。
治療に当たっていたミアスに声をかける。


「ミアス。貴方1人で大丈夫そうかしら。」

「問題ありません、リアラ殿下。」

「なら任せるわ。少し出るけれど、何かあればこれを起動しなさい。」

「これは……承知致しました。お気を付けて。」

「ええ。」


ミアスに渡したのは小さな魔道具。
魔力を込めることで、私に救援信号が送られる仕組みだ。
つまりは、ミアスでは対処不能なことが起きた場合、私を手っ取り早く呼ぶことが出来るというもの。

ミアスの本来の務めは、私の補佐と護衛。
それと同時に、国王に仕えるのではなく、私個人に仕える腹心でもある。
お互いの信頼があってこそ、彼は私の単独行動を許してくれているのだ。
私が死んでしまえば、彼も首を斬られてしまう。


「……いつもありがとう…。」


彼の耳元で、小さくそう言う。
すると振り返ったミアスは優しい笑みだけをこちらに向け、負傷者の手当てに戻った。

仕える者から見れば、私は無茶ばかりする我儘な主だろう。
そんな私を信じて待っていてくれる…。
ミアスには、感謝してもしきれない。


「お待たせしました。では行きますよ──《瞬間移動テレポート》。」


そうして、私とリーゼは死魔の森へと転移したのだった。
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