なんでもない話

香久山

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貴方の愛情表現の方法を教えて下さい。

そう問われたらなんて答えるでしょう?



私は噛みたくて噛みたくて堪らなくなるのです。
甘噛みで相手の困惑した顔を、歯形が残るほど強く噛み付いて苦痛に歪んだかおを見たいのです。

決して痛めつけて傷つけたいような加虐欲があるわけではありません。

ただ好いた人の味を知りたいのです。


噛みつくのは情事に及んでいる時などではなくふとした瞬間、隙を見つけては捕食しようと狙っています。

多少人と違うのは心得ています。

相手によっては嫌がるのも理解しています。

ただ、どうしようもない愛おしさを感じた時に全てを自分のものにしたくなるのです。

余すことなく、全てを丸ごと私のものにする為に食べてしまいたいのです。


当然、本当に食べることが叶わないのも、全てを自分のものにすることができないのもわかっています。

悲しいかな、私がどんなに想っていても無理なのです。


噛んでいる時、少しの優越感に浸ることができます。

この人は私が近づくのを許してくれる。
噛みつくのを甘んじて受け入れてくれる。

噛みつくことで私への愛を感じることもできるのです。

キスやハグなんかよりもずっと高度なコミュニケーションです。


でも、こんな私ですらできないことがあります。

それは

《目を合わせること》
《言葉で愛を伝えること》

心から好いた相手の目を見ることができないのです。
愛しているなんて言えないのです。


本当に好きだから。
言葉という分かりやすい道具を使って拒まれるのが怖いのです。
さらに、目は口程になんとやら…
目を見るなんてできません。


だからわざと分かりにくいように、暴力と狂気に隠しながらひっそりと愛を囁くのです。


痛みに少し歪めた顔すら綺麗だと思っています。
真っ白な柔らかい肌に赤く滲んだ私の歯形は美しく、とても映えるのです。
その赤い歯形を隠すように一年中襟元の詰まった長袖のシャツを着る人が愛おしくてたまりません。

私に愛された痕跡を身体中に残したまま仕事をして色々な人間と今日も関わるんです。

食べたい、本当は全て私の腹に収めたいところをこれくらいの狂気で日々我慢しているのです。

勘違いしないで下さい。
毎日幸せです。

これ以上を望んだら神様に叱られてしまいます。

最愛の人からの愛情はこんな私を受け入れてくれる事実だけで十分です。

言葉も、身体を繋ぐことも、抱きしめられることも、なにも無くても私は幸せなのです。

だから、どうかこれからも変わらない日常を…





















そう言いながら彼女は、自分に向けられている僕の砂糖菓子などよりも甘ったるい、深い愛情を孕んだ視線に気付くことはなかった。
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みんなの感想(1件)

2020.05.02 ユーザー名の登録がありません

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