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ファイナルシーズン 新時代の産声 

第10ー5話 恋華の決定

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日本神族による最後の戦いが幕を開けようとしている中で正室の恋華はある事を推し進めていた。


ある日、高天原に訪れていた恋華もまた日本神族に頼み事をしに来ていた。


それは冥府への援軍派兵ではなく女神コノハナという者への頼み事だった。


コノハナが優しい笑みを浮かべて許可した内容とは恋華が心待ちにしていた瞬間だった。


この美しい女神は人々から「安産の女神」として崇拝されている。


オリュンポス事変後の天上界では彼女の許可がないと子供を授かれないのだ。


唯一前政権と変わらない点は神族のみが子作り可能という事だった。


恋華がコノハナからもらった許可は自身と紅葉と虎白の子だけではなく、竹子達の子供の話だった。


恋華がもらった許可は竹子達の子供を授かるという事と必ず虎白の血液を混ぜる事だった。


生まれてくる子供は皆、虎白の血族者という事になる。


笑みを浮かべた恋華は満足げだった。


そしてコノハナに一礼すると「用意整い次第参る」とだけ言うと高天原を後にした。


高天原を出ると紅葉が走ってきては歓喜している。


遂に念願の我が子を授かれるという事に喜びが抑えきれない紅葉は恋華に抱きついていた。


「く、苦しい・・・」と絞り出す声を聞いてもご満悦の紅葉は手を繋いだまま、白陸へと帰っていった。


やがて白陸へと戻ると竹子達を集めて子供の話を始めた。


驚きを隠せない竹子は赤面して甲斐を見ていた。


困惑しているのは竹子だけではない。


夜叉子もまた、琴を見て困った表情をしていた。


「わ、私に子育てなんて・・・」と自信なさげな表情をしていると琴は大笑いしていた。



「何言っとんのやー! いつも獣王はうちの子って言っとるやんか!!」



その言葉に更に動揺する夜叉子は狩人の能力を継承した者とは思えない慌て方だった。


戦場では多くの敵を狩っては冷静な表情を浮かべているのに今の彼女の表情は少し赤面したまま、眉間にしわを寄せて口は半開きになっている。


初々しい表情に笑い続ける琴を見て「どうしてそんな余裕なの?」と夜叉子は尋ねた。


すると琴は夜叉子だけではなく竹子やエヴァなど皆に話した。



「虎白や恋華がうちらをほんまに信用してくれてんねんから子供産んでええ言うとんのやで?」



可愛らしい笑顔を見せながら琴が話している内容はまさにその通りだった。


琴の言葉を聞いていた恋華は「その通りだ」と話し、子供を授かるための準備を始めさせた。


新たに加入したばかりの呂玲はサラからの熱烈アタックを受け止めて既に恋人関係となっていた。


その上、オリュンポス事変での活躍もあり神話昇格が認められていた。


そしてアニャもまた白陸に入って日が浅いがレミテリシアからの寵愛を受けていた。


大切な国と友人を失ったアニャの心の傷を癒そうと連日会っているうちに互いに愛し合い始める様になった。


そしてアニャはオリュンポス事変で結果として神話ヘルメスを討ち取っている。


彼女も呂玲と同様に短期間で神話となった。


ユーリとゾフィは最初から恋人関係だったが、まだ神話の位に達していない。


それがために子供を作る事ができない。


内容を聞くやいなやユーリとゾフィは気にする様子もなく部屋を出ていった。


するとそこに高天原から戻った虎白が居合わせた。


ユーリとゾフィの顔を見て「どうした?」と尋ねると「子供産むんだとよ」とだけ話すと立ち去っていった。


虎白は目を見開いていた。


この事を虎白は知らなかったのだ。


平然としている恋華に「まだ早い」と話したが、聞く耳を持たなかった。




「いつかは産むのよ。」
「わかってるが、まだ冥府侵攻が残っている。」




子供を産むという事は虎白もわかっていたが、時期が早すぎると表情を歪めていた。


それに立ち去ったユーリとゾフィの事も愛そうとしていたのだ。


虎白にとっては全てが愛する妻だった。


形上だけで虎白の妻になっているユーリとゾフィは心底気に入らないだろうと考えていた。


困った表情で黙り込む虎白に恋華が口を開いた。




「ユーリ達を彼女ら同様に愛しなさい。」
「そう言われても・・・」
「最後の戦いに出陣させて手柄を上げれば神話にもなれるでしょう。」




だがこれもまた、虎白の考えとは違ったのだ。


冥府侵攻には白陸は出陣させるつもりはなかった。


皇国と日本神族だけで終わらせるつもりだった。


立ち去るユーリの背中を見て虎白は「俺ちょっと行ってくる」と後を追いかけた。


すると虎白はその場でよろけて転びそうになっていた。


近くに立っていたエヴァに抱きしめられて転ばずに済んだが、その様子に一同は驚きを隠せなかった。




「え、大丈夫なん?」




エヴァが海の様に青い瞳を見開いて尋ねた。


すると虎白は「ああ、悪い」とだけ話すとユーリの元へ向かった。


戦場であれだけ戦える虎白がよろけて転ぶとはあまりに不可解だ。


仮に転んでも自分でどうにかできるはずだが、エヴァの胸元に飛び込むほど力が抜けているとは。


妻達の心配を気にもせずにユーリを追いかける虎白はやがて追いつくと「おい」と呼び止めた。


不貞腐れた表情のユーリの隣で無表情で見つめるゾフィ。


虎白はユーリの活躍もエヴァから聞いていた。


オリュンポス事変で最初に神話ヘパイストスを殴り飛ばしたのはユーリだという事を。


その後も怯む事もなく戦い続け、反乱を起こした白陸軍の新兵との戦いには赤軍まで共に戦った事も知っていた。


だが虎白はユーリに感謝の言葉すら述べていなかった。


多忙を極めた虎白は昼夜を問わず動き続けていた。


ユーリの事を後回しにしていたのは事実だ。


虎白はユーリとゾフィの前で深々と頭を下げると荒い息遣いをし始めた。


不思議そうに見下ろしているユーリとゾフィに声を震わせて「ごめんな」と話した。




「お、俺は・・・お前らの事も家族だと思っている・・・あの日クレムリンを制圧した時からお前を失いたくないって・・・」




天王となり白陸の皇帝でもある虎白が涙を流しながらその場でふらふらとし始めた。


ユーリは驚いた様子で話を聞きながら「もうわかったから」と肩に手を置いた。


すると虎白は意識を失った様にユーリの胸元へ倒れ込んだ。


ゾフィが冷静に「休ませた方がいい」とだけ話すと出迎えの赤軍兵士に命じて虎白を車に乗せると、赤軍の領地へと虎白を連れて帰った。


車内でもユーリの膝に倒れ込む虎白は意識を失ったまま、眠っていた。


彼の疲労感は凄まじいものだった。


するとゾフィは「何日も眠ってない」と話した。


ユーリとゾフィは暗い表情のまま赤軍領土へ着くと衛生兵を呼んで担架で運ばせた。


その間もユーリとゾフィは隣で虎白が目を覚ますのを待っていた。


虎白が意識を失って九時間が経過すると目を覚ました。


目をこすりながら起き上がる虎白は周囲を見ていた。


「ここは赤軍領だ」とユーリが話すと驚いた表情をしていた。


そして時計を見ると「やべえ」と慌ててベッドから出た。



「中間地点で息子とペデスがまた会っているはずだ。 悪いが赤軍のヘリでも出して急いでくれ。」



ユーリは虎白の胸ぐらを掴むとベッドに倒して馬乗りになった。


顔を近づけたユーリは「お前は疲れてんだよ」と話すと虎白から降りて椅子に座った。


脱力した様子で天井を見つめる虎白は「あのな」と何かを話し始めた。



「俺はお前らを愛してる。 でもこの愛ってのは誰かの犠牲の上にあるよな。」
「同志達か・・・」
「結局誰かが幸せを掴むと誰かが悲しむわけだ・・・」



連日、眠る事すら忘れて動き続ける虎白は戦争が終わればこの不公平な幸せのあり方も変わると思っていた。


白陸が中心となって秩序を保ち、全ての者が幸せに暮らせる天上界を作りたい。


自身が幸福を感じるたびに死んでいった多くの者の悲鳴が表情も浮かんでいた。




「死んだやつのためにも答えを出さねえと。 自分だけ幸福で良ければゼウスと何も変わらねえ。」




ユーリは話を黙って聞いていた。


するとユーリは虎白の口にキスをした。


目を見開いている虎白は「なんだよ急に」と驚いていた。


少し赤面するユーリは「だからお前に賭けたんだ」と話した。




「誰かのために命を賭けられるお前だから私はゾフィ達と共に同志を託した。」
「俺はお前らのためにも戦争のねえ天上界を作らないと。」




そう言ってユーリの白い手を握った虎白はあまりに非力だった。


まるで死にゆく者の握力とも言える虎白の手を見てユーリは「考えておくからしっかり生きろ」と話すと椅子から立ち上がった。


続け様に「ヘリは用意できるが本当に中間地点に行くのか?」と尋ねた。


すると虎白は静かにうなずいている。


ユーリはゾフィと共に虎白を連れて彼女らの家に向かった。


道中でも赤軍将兵や人民がユーリとゾフィを見ると立ち止まって彼女らが通り過ぎるまで敬礼をしていた。


そんな者達に必ずユーリは「共に生きよう」と声をかけていた。


やがて家に着くと二人が愛を育むベッドに虎白を寝かせると台所で何かを作り始めた。


ベッドからは良い香りがしていた。


安堵した表情で体を狐に戻して小さく丸まる虎白はすやすやと眠っていた。


しばらくするとユーリが虎白を起こして椅子に座らせると机にはロシアの郷土料理であるボルシチが置いてあった。



「これ食えばスラブ人は元気になるんだよ。」




スラブ人とはロシアに暮らす白人達を言う。


ユーリもゾフィも立派なスラブ人だ。


彼女らの郷土料理であるボルシチを一口食べた虎白は「美味いな!!」と喜んでいた。


世界で一番屈強とも言えるスラブ人の力の源だ。


あっという間に食べ終えた虎白の表情は明るかった。




「また食わせてくれよ!!」
「いつでも作ってやるから。 なあ虎白。」
「ああ。」
「共に生きような。」




ユーリからの言葉は不思議と胸が暖かくなった。


まるでボルシチの様に温まった虎白の心は癒やされていた。


そして彼女らの家から出ると既にヘリが上空に飛んでいた。


ユーリが手を振ると家の前に降りて、中からルニャが敬礼していた。


このルニャはユーリのお気に入りだ。


「天上門までお連れ致します陛下。」
「悪いな。」



そしてユーリに見送られて飛び立ったヘリの中でルニャは緊張した様子だ。


窓から外を見下ろしたり、「揺れは不快ではありませんか陛下」などと終始気を使った様子だ。


すると虎白が「そんな緊張するな」と笑いながら話しかけた。



「お、お優しいのですね陛下。」
「お前はユーリに可愛がられているのか?」
「光栄な事に。」
「そうか。 未来の赤軍と天上界を頼むぞ。」




虎白からの言葉を聞いたルニャは「必ず」と敬礼していた。


彼女にとって貴重な経験だった。


三百万名を超える白陸兵の中で虎白と話した事のある者が何人いるのか。


虎白に言われた「未来を頼む」という言葉をとても重く彼女は受け止めた。


そして巨大な門が広がってくるとヘリは高度を低くして咲羅花桜火の大和領へと降り立った。


ヘリから降りてルニャに別れを告げると赤軍の領地へと飛んでいった。


出迎えていたのは桜火と軍太に送り出されて中間地点へとすすんだ。


道中での豪雨でずぶ濡れになりながら一柱で中間地点を歩いている。


「どうせ直ぐに乾く」と話しながら微かに見えてくる巨大な砦へと足早に歩く虎白は中間地点という土地に非常に慣れた様子だった。


やがて砦に着くと白斗が飛びかかる勢いで走ってきた。


白斗がペデスを連れて来ると爽やかな笑顔を見せていた。


ハデスの忘れ形見であるペデスに手を振る虎白は白斗を交えて会話を始めた。


砦の中で汗を拭きながら椅子に座ると酒が運ばれてきた。


そして酒を飲みながら深刻な冥府の状況をペデスから聞いていた。




「ジアソーレか。 聞いた事ねえな。」
「僕も何者なのかわかりません。 どうやら我が父の配下ではなかった様です。 兄上とも関わりありませんでした。」




ペデスの話す兄上とはイーライの事だ。


その昔、虎白とハデスとペルセポネの血を混ぜて産まれた危険な少年だ。


イーライが冥府を一時的に制圧した時にもジアソーレという男は姿すら表していなかったという。


十二死徒の名簿にも名前はなかった。


首をかしげる虎白は不思議そうにしていた。


今後の動きをどうして行くのか話し合っていると部屋をノックする音が聞こえた。


そして虎白が「入れ」と口にすると静かに扉が開いた。


顔を覗かせたのは皇国兵ではなく人間の様な見た目だった。


青白い顔を覗かせる女を見るやいなやペデスが「ああ母上」と話した。


彼女の名はペルセポネだ。


ハデスの妻であり、ペデスの母だ。


ペルセポネは部屋に入ってくると「鞍馬ちょっといいかしら?」と手招きしている。


「どうした?」
「私はエリュシオンに身を潜めるわ・・・」


大陸大戦の後に冥府に送られたハデスは以前から好意を持っていた「コレー」という天使を冥府へ誘拐した。


そのコレーこそがペルセポネだった。


ハデスがペルセポネのために与えた土地がエリュシオンだと言われている。


目の前の息子にまるで関心を見せず、自身はエリュシオンで隠居生活をしようとしているのだ。



「長い年月大変だったな・・・」
「夫の事は好きではない・・・」
「まあそう言うな。 ハデスもお前や俺を救うためだったんだよ。 ゼウスにお前が抱かれる事を心底嫌がったんだよ。」



ハデスが誘拐した理由は一度愛したコレーを守るためだった。


彼女には心底嫌われてしまったが、最後まで何も反論しなかったという。


勝手に血を採られてイーライやペデスといった子供を作られた事も彼女は気に入らない様子だ。


直ぐ近くにペデスがいるにも関わらず、まるで愛情がないといった表情をしている。


ペルセポネが部屋に戻るのを確認すると下を向いて落ち込むペデスを慰めていた。


「気にするなよ」と肩を叩くがペデスは今にも泣き出しそうだった。


勝手に産み落とされて冥王にされ、反乱を起こされ命まで狙われて実の母にも愛されない哀れな青年だ。



「ぼ、僕はどうして生まれてきたのか・・・誰にも愛されない・・・」



ペデスがそう感じたのは虎白と白斗の関係を見ての事だった。


父の愛情がある虎白と尊敬している白斗の関係は眩しいほど魅力的に見えていた。


虎白は白斗と顔を見合わせると「飯でも食うか」と食事の支度を始めさせた。



「僕の価値とはなんですか?」
「生きてるって事だ。 共に生きようなって言ってくれたやつがいた。 つまり生きる事に価値があんだよ。」



ユーリからの言葉は虎白を刺激していた。


傷ついた心を温かいボルシチと言葉で励ましてくれたのだ。


次は虎白がペデスを励ます番というわけだ。


虎白の部下が運んできた料理は温かい野菜の煮物と米と塩味の焼き魚に味噌汁だ。


和食をかきこむペデスを見て優しく微笑んでいた。


だがそんな和やかな雰囲気を砦ですごす彼らを遠くから監視している影が佇んでいるのだった。
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