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シーズン5 アーム戦役
第5ー19話 ツンドラの恩返し
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結果論が原因で口論に発展した事はないだろうか。
だから止めておけと言っただろとしつこく迫られて、激昂してしまう事例は珍しい事ではない。
しかし結果とは誰にもわからず、忠告した者の意見を聞いても後悔してしまう可能性だってあるものだ。
未来でも見る事のできる者がいればこの様な口論は生まれないが、現実的にはあり得ない話しだ。
そうなれば己を信じるか、他人の忠告を聞くか。
はたまた両方を聞き入れて、自身で考えを練り直して行動するかだ。
虎白は鵜乱と魔呂を死地に置き去りにして敗走している。
白い鎧兜が配下の兵士の血液で赤く染まりながらも、懸命に負傷兵を連れて帰還したが脳裏によぎるのはアレクサンドロス大王との口論だ。
「もし味方を救いに天上門へ向かえば、近くの街で市街戦にできたかもしれない・・・そうすればこんなに死ななかった・・・」
そう話す虎白は最高権力者という力に屈して命令に従った事を悔やんでいる。
だがこれは結果論にすぎない。
冥府軍を指揮しているのは狡猾で冷酷なウィッチなのだ。
虎白の話す市街戦になれば、恐らく別の作戦を展開していたであろう。
だが虎白はアレクサンドロスへの強い不信感をみせていた。
その様子を隣で聞いている竹子は静かに滑らかな口を開いた。
「とにかく今は反撃の手段を探らないとね・・・見てよ虎白、白陸兵はもう戦えないよ」
竹子がそう話す様に、白陸兵は機関銃の破壊力を目の当たりにして戦意喪失していた。
負傷兵と意気消沈する兵士の様子は敗軍のそれだ。
もはや反撃に出ようにも白陸軍は戦えないというわけだ。
だがこうしている今もウィッチ率いる冥府軍は天上界を蹂躙している。
既に南側領土の半分が制圧される勢いだ。
眉間にしわを寄せている虎白が、ふと目をやると心配そうに近づいてきたのは友奈とメルキータではないか。
宮衛党きゅうえいとうという国防軍を任されている彼女らは、今回の決戦に参加する事なく白陸本国を守っていた。
しかし大敗して戻ってきた虎白達を見て困惑している。
するとメルキータが口を開いた。
「ツンドラの問題では本当にお世話になりました・・・次は私が役に立つ番ですね。 私と旧ツンドラ兵を連れて反撃に出てください」
「ありがたいが、お前は戦いは苦手だろ」
「指揮権は虎白様にお渡ししますから。 ですが、私がいないと兵は従いません」
それは宮衛党のメルキータからの突然の提案であった。
もはや白陸軍の士気の低さと、負傷兵の数では反撃できないのだ。
虎白はやむなくメルキータからの提案を受け入れて、深々と一礼した。
その様子に驚くメルキータは虎白の肩を掴んで、頭を上げさせようとしている。
「本当にありがとうな。 だが、敵はアルテミシアすら持っていなかった戦力を有している。 危険な戦いになるぞ・・・」
虎白からの懸念に対しても、迷う事なくうなずいたメルキータは宮衛党の兵士の召集にかかった。
彼女の一声で数万ものシベリアン・ハスキーのヒューマノイドが集まるのだ。
虎白の支えもあったが、今では立派な権力者となったメルキータはこの時を持って恩返しをしようと決めた。
もう一度、ウィッチに挑まなくてはならない。
虎白は兜についた味方の血液を洗い落として、兜の緒を締め直した。
「竹子、みんな。 行けるか?」
「うん。 鵜乱と魔呂のためにも行かないと」
「あいつらのおかげで救われた白陸兵が大勢いる・・・」
彼らを逃がすために生命をかけた鵜乱と魔呂は今だに戻ってきていない。
既に白陸に帰還してから、数時間が経過している。
彼女らの生存の可能性は時間に比例しているというわけだ。
暗い表情を浮かべる虎白は、冥府から共に生きて戻った魔呂が死んでしまったのかと考えると亡き姉達に申し訳が立たなかった。
「幸せにするって約束したのにな・・・なんて言えばいいのか・・・」
「虎白、メルキータと宮衛党が準備できたって。 行こう・・・鵜乱と魔呂のために」
泣いても笑っても失った味方を考えると、白陸が反撃に出られるのはこれが最後であろう。
満を持して出陣したメルキータと宮衛党まで粉砕されてしまえば、白陸は終焉を迎えるというわけだ。
既に秦国、マケドニアも崩壊寸前で将兵の立て直しにかかっている。
もはや出陣できるのは、ここにいる数万のシベリアン・ハスキーだけという事だ。
馬にまたがるメルキータは小さく微笑んだ。
「生かしてもらえたから今がある。 虎白様は恩を感じているけど、とんでもない。 返しきれない恩を作ったのは私だ。 そんな虎白様が苦境にあるなら、我ら元ツンドラは命がけで協力しなくてはな。」
もしあの日、暴政を行っていたノバ・プレチェンスカがメルキータや臣民を根絶やしにしていれば。
もし、虎白が白陸で彼女らを保護しなかったら。
様々な迷いがあったが、結果として今がある。
未来は誰にもわからない。
それは今から起きる壮絶な戦いの顛末てんまつとて同様だ。
わかる事は一つ。
後悔なき様に必死に生きる他ないという事だ。
だから止めておけと言っただろとしつこく迫られて、激昂してしまう事例は珍しい事ではない。
しかし結果とは誰にもわからず、忠告した者の意見を聞いても後悔してしまう可能性だってあるものだ。
未来でも見る事のできる者がいればこの様な口論は生まれないが、現実的にはあり得ない話しだ。
そうなれば己を信じるか、他人の忠告を聞くか。
はたまた両方を聞き入れて、自身で考えを練り直して行動するかだ。
虎白は鵜乱と魔呂を死地に置き去りにして敗走している。
白い鎧兜が配下の兵士の血液で赤く染まりながらも、懸命に負傷兵を連れて帰還したが脳裏によぎるのはアレクサンドロス大王との口論だ。
「もし味方を救いに天上門へ向かえば、近くの街で市街戦にできたかもしれない・・・そうすればこんなに死ななかった・・・」
そう話す虎白は最高権力者という力に屈して命令に従った事を悔やんでいる。
だがこれは結果論にすぎない。
冥府軍を指揮しているのは狡猾で冷酷なウィッチなのだ。
虎白の話す市街戦になれば、恐らく別の作戦を展開していたであろう。
だが虎白はアレクサンドロスへの強い不信感をみせていた。
その様子を隣で聞いている竹子は静かに滑らかな口を開いた。
「とにかく今は反撃の手段を探らないとね・・・見てよ虎白、白陸兵はもう戦えないよ」
竹子がそう話す様に、白陸兵は機関銃の破壊力を目の当たりにして戦意喪失していた。
負傷兵と意気消沈する兵士の様子は敗軍のそれだ。
もはや反撃に出ようにも白陸軍は戦えないというわけだ。
だがこうしている今もウィッチ率いる冥府軍は天上界を蹂躙している。
既に南側領土の半分が制圧される勢いだ。
眉間にしわを寄せている虎白が、ふと目をやると心配そうに近づいてきたのは友奈とメルキータではないか。
宮衛党きゅうえいとうという国防軍を任されている彼女らは、今回の決戦に参加する事なく白陸本国を守っていた。
しかし大敗して戻ってきた虎白達を見て困惑している。
するとメルキータが口を開いた。
「ツンドラの問題では本当にお世話になりました・・・次は私が役に立つ番ですね。 私と旧ツンドラ兵を連れて反撃に出てください」
「ありがたいが、お前は戦いは苦手だろ」
「指揮権は虎白様にお渡ししますから。 ですが、私がいないと兵は従いません」
それは宮衛党のメルキータからの突然の提案であった。
もはや白陸軍の士気の低さと、負傷兵の数では反撃できないのだ。
虎白はやむなくメルキータからの提案を受け入れて、深々と一礼した。
その様子に驚くメルキータは虎白の肩を掴んで、頭を上げさせようとしている。
「本当にありがとうな。 だが、敵はアルテミシアすら持っていなかった戦力を有している。 危険な戦いになるぞ・・・」
虎白からの懸念に対しても、迷う事なくうなずいたメルキータは宮衛党の兵士の召集にかかった。
彼女の一声で数万ものシベリアン・ハスキーのヒューマノイドが集まるのだ。
虎白の支えもあったが、今では立派な権力者となったメルキータはこの時を持って恩返しをしようと決めた。
もう一度、ウィッチに挑まなくてはならない。
虎白は兜についた味方の血液を洗い落として、兜の緒を締め直した。
「竹子、みんな。 行けるか?」
「うん。 鵜乱と魔呂のためにも行かないと」
「あいつらのおかげで救われた白陸兵が大勢いる・・・」
彼らを逃がすために生命をかけた鵜乱と魔呂は今だに戻ってきていない。
既に白陸に帰還してから、数時間が経過している。
彼女らの生存の可能性は時間に比例しているというわけだ。
暗い表情を浮かべる虎白は、冥府から共に生きて戻った魔呂が死んでしまったのかと考えると亡き姉達に申し訳が立たなかった。
「幸せにするって約束したのにな・・・なんて言えばいいのか・・・」
「虎白、メルキータと宮衛党が準備できたって。 行こう・・・鵜乱と魔呂のために」
泣いても笑っても失った味方を考えると、白陸が反撃に出られるのはこれが最後であろう。
満を持して出陣したメルキータと宮衛党まで粉砕されてしまえば、白陸は終焉を迎えるというわけだ。
既に秦国、マケドニアも崩壊寸前で将兵の立て直しにかかっている。
もはや出陣できるのは、ここにいる数万のシベリアン・ハスキーだけという事だ。
馬にまたがるメルキータは小さく微笑んだ。
「生かしてもらえたから今がある。 虎白様は恩を感じているけど、とんでもない。 返しきれない恩を作ったのは私だ。 そんな虎白様が苦境にあるなら、我ら元ツンドラは命がけで協力しなくてはな。」
もしあの日、暴政を行っていたノバ・プレチェンスカがメルキータや臣民を根絶やしにしていれば。
もし、虎白が白陸で彼女らを保護しなかったら。
様々な迷いがあったが、結果として今がある。
未来は誰にもわからない。
それは今から起きる壮絶な戦いの顛末てんまつとて同様だ。
わかる事は一つ。
後悔なき様に必死に生きる他ないという事だ。
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