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第110話 永遠に忘れないでしょうね

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既に2時間が経過している。


祐輝は700球も捕球していた。


体力なんてとっくに限界だった。


しかし不思議なほど力が湧き出てくる。


捕球を失敗して打球が体に当たるたびに激痛が走る。


それでも立ち上がった。


これはタイマンだ。


もはや練習ではない。




「永遠に忘れる事はない・・・一生の思い出になる・・・」




千野バットスイングも遅くなってきていた。


お互い気持ちだけでノックを続けている。


もうすぐ800球目になる。


一度ボール拾いで休憩をすると千野が近づいてきた。




「あと200球だな。」
「はあ・・・はあ・・・千野さんでよかったです。」
「俺もお前以外にしか打たねえよ。」




この日は永遠に記憶される。


いつの日か人生で苦しい事が起きても今日ほど苦しい経験はそうはない。


だが同時に苦しい状況においても必ず味方がいて活路があるという事も学んだ。


千野がいてくれて200球捕球すれば終わる。


必ず終りが来るんだという実感を肌で感じていた。


休憩が終わり、残り200球を録るために互いに離れると千野がふらついていた事に気がついた。




「お互い限界っすね・・・」




既に白いユニフォームは泥と汗で紺色になっていた。


気温も40度のままだ。


そして更に1時間が経過した。




「997!!」
「はあ・・・はあ・・・」



左右に振られる打球に必死に飛びつくがなかなか届かない。


千野もいよいよ限界で打球がとんでもない方向へと飛んでいく事も増えた。


お互いがしっかりやらねば終わらない。


千野が捕れる範囲に打ち込んで、祐輝がしっかり捕球しなくては。



「998!!」
「ああ・・・もう少し・・・」




飛びついて捕球すると「999」と千野が叫んだ。


祐輝は両手を広げて打ってこいと合図している。


千野が放つ打球は右手に飛来したが祐輝は飛びついて空中で捕球した。


そしていよいよ。




「1000!!」
「おおおおお!!!!!」
「行くぞ祐輝!!」




千野が最後に打ち込んだ打球は祐輝の顔面に目掛けて飛んできたとてつもなく鋭い打球だった。


渾身のパンチの様だった。


祐輝は捕球したがその勢いで尻もちをついた。


しかしグローブからボールは落ちていない。


千野が近づいてくると笑っていた。




「さすが俺の舎弟だ。」
「マジで・・・感謝しています・・・」




祐輝は泣いていた。


嬉しくてたまらなかった。


地獄の様に暑くて過酷なノックだったが、人生で最高の時間だった。


未来永劫忘れる事はない。


誰かに感謝するという感情を学べた。


千野は祐輝とのノックを終えると免許の合宿に行くと颯爽と帰ってしまった。




「俺だけのために来てくれてたのか・・・」




駅へと走っていく千野の背中が見えなくなるまで頭を下げていた。


練習を終えて宿舎に帰ると仲間達と大浴場へ飛び込んだ。
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