青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

文字の大きさ
上 下
93 / 140

第93話 入部希望者

しおりを挟む
入学式を終えた祐輝はクラスに向かった。


大熊や京介、鉄平とは異なるクラスになったが坊主頭の少年が数人席についていた。


自己紹介を始めると希望する部活を述べた。


クラスの割り振りと自己紹介をして担任から説明を受けるとその日は授業をする事なく、終わったが野球部に入部する者達は早速部活が行われた。


席を立って部室へ向かおうとしていると同じクラスの坊主頭の少年が話しかけてきた。




「よろしくなー! 俺はけんせー!」
「けんせい?」
「違う。 けんせーだよ。」




変わった名前だが彼の名前には「ー」がついていた。


子供っぽさが抜けないけんせーはクラスの人気者になれそうな社交性で他にも席に座る坊主頭の少年を呼んできた。


「みんなよろしくう!!」と楽しげに話している。


祐輝はこの時ある感情に苦しんでいた。




(考えてみればチームメイトなんて今までいなかったなあ・・・一緒に野球やりたい・・・)




小学校は言うまでもなくナインズ時代もチームメイトといえるほどの仲間はいなかった。


ここでは既に大熊、京介、鉄平、けんせーに同じクラスの少年が5人はいる。


祐輝にとって初めての野球ができる人数のチームメイトだった。


だがしかし祐輝は既に投げる事はできなかった。


例え投げられたとしても東京選抜時代の快速球は投げられない。


それを考えると複雑な気分になり、虚しさを感じていた。


目の前で目を輝かせて話しているけんせーはこれからの野球人生を存分に新たな仲間と生きようとしていた。


祐輝の大きな体を見たけんせーは「ピッチャーでしょ?」とはしゃぎながら聞いてきた。




「肩怪我して投げられない。」
「マジか!? 治療すれば余裕っしょ! 絶対エースになるやつやん!!」
「いやいや。 みんなの手伝いするよ。」
「マネージャーのガタイじゃないって!!」




けんせーはまだ精神年齢も幼く、言いたい事はなんでも遠慮せずに話していた。


祐輝が歩んできた16年とけんせーの16年はあまりにもかけ離れていた。


だがどこか憎めないのもけんせーの魅力なのか。


祐輝は席を立つと教室を出た。


すると学ランのボタンを2つだけ外している坊主頭の少年が立っていた。




「俺は2年の富岡だ。 お前らついてこい。」




ぽっちゃりした体つきは高校生とは思えない。


まるで中年男性の様なだらしない体を左右にフラフラとさせながらも偉そうに祐輝達に顎をぷいっと向けて歩いていた。


隣を見るとけんせーが富田の歩き方を真似してバカにしていた。


祐輝は吹き出して笑った。


すると富田が顔を強張らせて「何笑ってんの?」と威圧してきたが祐輝は表情一つ変える事なくじっと見ていた。




「何笑ってんのって聞いてんだよ!!」
「先輩には関係ありませんよ。 それとも笑われる要素があると自覚して苛立ちを覚えましたか?」
「お前1年のくせに調子乗るなよ?」
「3年生にチクりますか?」




それも当然かもしれないが新宿という地域でもっと危険な人間を見てきた祐輝からすれば富田なんて男はただの小男でしかなかった。


例え喧嘩になっても万に一つも負けないという自信があり、平然としていた。


祐輝の静かなる威圧感に臆したのか富田は部室へと歩き始めた。




「祐輝はヤンキー?」
「さあね。」
「地元新宿だっけ?」
「そうだよ。」
「ヤンキーやん!」




最初の友人はけんせーのようだ。


そして祐輝の人生でも最高の時間といえる高校生活が今始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...