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第83話 もう迷惑かけたくない
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学校を出るといつも走ってくるミズキの姿はもうない。
自分の無神経な一言でミズキを傷つけたと考えていたが、関東高校進学に向けてミズキは必死に勉強していた。
祐輝と一緒に目指した甲子園の常連校。
1人になってもミズキは関東高校を目指した。
実力だけなら確実に関東高校でもエースを狙えたのに全てが終わってしまった祐輝はトボトボと家に帰ってきた。
「ただいま。」
「あらー。」
「母ちゃん・・・」
「・・・・・・」
真美としてもやりきれない気持ちでいっぱいだった。
父親の祐一に何故かやらされた野球で小学校6年間苦しみ抜いて何とか中学で花が咲いた野球人生がまさかこんな形で終わってしまうなんて夢にも思っていなかった。
息子には高校でも活躍してほしくて高校進学の資金を死物狂いで貯めたのに我が子は既に高校への意欲がなくなっていた。
「あんた高校行きなさい。」
「嫌だ。 無駄に金かかるじゃん。 自衛隊入るから。 次は俺が働いて母ちゃん楽させるから。」
「嬉しいけどまだ早い! 高校は行きなさい。」
そもそも中卒で自衛隊は年齢的に入れない。
その間も入隊に向けてアルバイトをしながら18歳を迎えるつもりだった。
しかし真美はどうしても高校に行ってほしかった。
「高校は楽しいよ。 私も戻れるなら高校生に戻りたい。」
「別にいいよ。 行きたくない。」
「祐輝!!」
「行かねえって!!」
「行きなさい!!」
声を上げて言い合う親子は険悪な雰囲気のまま、夕食を迎えた。
妹の千尋も中学1年生になり部活でバドミントンを始めていた。
兄妹2人の部費を真美1人で背負うにはあまりに過酷だった。
大人の階段を少しずつ登っている祐輝は真美が仕事している事自体に罪悪感があった。
そもそも自分が祐一の言いなりになっていれば真美は働かずに済んだかもしれない。
頭を抱える祐輝はその罪悪感から高校進学をためらっていた。
「なんでだよ。 母ちゃんばっかり働いて。」
「それが親なの。 あんたは私のためにも高校行きなさい!」
「・・・・・・」
「学校に行って先生と話してくる!!」
「わ、わかったよ・・・行くよ高校・・・」
真美の圧力に勝てず祐輝は高校進学を決めた。
しかしそうなると祐輝はどうしても野球を諦める事ができなかった。
ボールを触ると体がウズウズして仕方なかった。
変化球を覚える楽しさも三振を取った快感もどれもたまらないほど素晴らしい人生の一部となっていた。
ライバルに出会い更に成長できたのに、決着を付ける前に終わってしまった事が越田にも申し訳なかった。
ボールを持った祐輝は何かに取り憑かれたかの様に家を飛び出して壁当てをする公園に向かった。
まるで何かに呼ばれているかの様に自転車を全力で走らせて公園に辿り着く。
息を切らしたまま、公園の壁に行くとそこには越田が立っていた。
「よお。」
「なんでいるの?」
「毎日いたぞ。 お前がまたここに来ると思ってな。」
「もう投げられないよ。」
「そうだな。」
越田はじっと祐輝を見ていた。
いつもの様にジャージを着ていたがリュックがない事に気がついた。
異変を感じていると越田が近づいてきた。
そして目の前に来ると両手の拳を握って構えていた。
「来いよ祐輝。」
「えっ?」
「タイマンだ。」
自分の無神経な一言でミズキを傷つけたと考えていたが、関東高校進学に向けてミズキは必死に勉強していた。
祐輝と一緒に目指した甲子園の常連校。
1人になってもミズキは関東高校を目指した。
実力だけなら確実に関東高校でもエースを狙えたのに全てが終わってしまった祐輝はトボトボと家に帰ってきた。
「ただいま。」
「あらー。」
「母ちゃん・・・」
「・・・・・・」
真美としてもやりきれない気持ちでいっぱいだった。
父親の祐一に何故かやらされた野球で小学校6年間苦しみ抜いて何とか中学で花が咲いた野球人生がまさかこんな形で終わってしまうなんて夢にも思っていなかった。
息子には高校でも活躍してほしくて高校進学の資金を死物狂いで貯めたのに我が子は既に高校への意欲がなくなっていた。
「あんた高校行きなさい。」
「嫌だ。 無駄に金かかるじゃん。 自衛隊入るから。 次は俺が働いて母ちゃん楽させるから。」
「嬉しいけどまだ早い! 高校は行きなさい。」
そもそも中卒で自衛隊は年齢的に入れない。
その間も入隊に向けてアルバイトをしながら18歳を迎えるつもりだった。
しかし真美はどうしても高校に行ってほしかった。
「高校は楽しいよ。 私も戻れるなら高校生に戻りたい。」
「別にいいよ。 行きたくない。」
「祐輝!!」
「行かねえって!!」
「行きなさい!!」
声を上げて言い合う親子は険悪な雰囲気のまま、夕食を迎えた。
妹の千尋も中学1年生になり部活でバドミントンを始めていた。
兄妹2人の部費を真美1人で背負うにはあまりに過酷だった。
大人の階段を少しずつ登っている祐輝は真美が仕事している事自体に罪悪感があった。
そもそも自分が祐一の言いなりになっていれば真美は働かずに済んだかもしれない。
頭を抱える祐輝はその罪悪感から高校進学をためらっていた。
「なんでだよ。 母ちゃんばっかり働いて。」
「それが親なの。 あんたは私のためにも高校行きなさい!」
「・・・・・・」
「学校に行って先生と話してくる!!」
「わ、わかったよ・・・行くよ高校・・・」
真美の圧力に勝てず祐輝は高校進学を決めた。
しかしそうなると祐輝はどうしても野球を諦める事ができなかった。
ボールを触ると体がウズウズして仕方なかった。
変化球を覚える楽しさも三振を取った快感もどれもたまらないほど素晴らしい人生の一部となっていた。
ライバルに出会い更に成長できたのに、決着を付ける前に終わってしまった事が越田にも申し訳なかった。
ボールを持った祐輝は何かに取り憑かれたかの様に家を飛び出して壁当てをする公園に向かった。
まるで何かに呼ばれているかの様に自転車を全力で走らせて公園に辿り着く。
息を切らしたまま、公園の壁に行くとそこには越田が立っていた。
「よお。」
「なんでいるの?」
「毎日いたぞ。 お前がまたここに来ると思ってな。」
「もう投げられないよ。」
「そうだな。」
越田はじっと祐輝を見ていた。
いつもの様にジャージを着ていたがリュックがない事に気がついた。
異変を感じていると越田が近づいてきた。
そして目の前に来ると両手の拳を握って構えていた。
「来いよ祐輝。」
「えっ?」
「タイマンだ。」
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