青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

文字の大きさ
上 下
76 / 140

第76話 桜木との再戦

しおりを挟む
2週間がすぎた週末。


祐輝と越田は名門高校のグラウンドで東京選抜の二次選考を行っていた。


名門高校というだけあって高校野球の関係者も見ている中で試合を行う。


一次選考で半数が脱落して今日集まったのは100名ほどだ。


この二次選考でほとんどの選手が脱落する。


ワンミスが命取りになる大切な選考会だった。


幸運な事に祐輝と越田は今日も同じチームとなり桜木は相手チームだ。


最初に守りについたのは祐輝達だ。


いつも通りのゆったりとしたフォームで投球練習をしていると何球か投げた後に越田がマウンドに走って来た。



「桜木は3番打者だ。 あいつが打席立つまでフォークは封印しようぜ。」
「桜木にフォーク投げるの?」
「そうだよ。 挑発の意味も込めてフォークで桜木を三振に取ろうぜ。」




悪そうにニヤリと笑った越田は戻っていく。


祐輝は越田の背中を見つめながら「悪いやつだな。」と呟きながらも何処か嬉しそうに笑っていた。


そして先頭打者が打席に入ると祐輝はゆったりとしたフォームから渾身のストレートを投げ込んだ。


バックネットにある速度計にはなんと143キロと表示が出た。


どよめくグラウンドで高校野球関係者は祐輝をじっと見つめている。


この時誰もが思ったはずだ。


是非うちの高校に来てほしいと。


そして2球目はカーブでツーストライク。


3球目はバッターの顔元に140キロ台のストレートを投げるとあまりの速さにたまらずバットを振ってしまい三球三振でワンナウト。


2番打者にはカーブから入った。


顔元から軌道を変えて真ん中低めに入るカーブに手が出ない。


東京中から集まった球児達でも祐輝のピッチングは通用していた。


しかしその裏には越田の的確なリードがあった。


高校野球関係者は祐輝だけではなく越田の事も当然チェックしていた。


2番打者をあっさりと内野ゴロに打ち取ると打席には桜木が立った。


越田はマスクを外して祐輝の顔を見ながらニヤニヤとしていた。



「あいつ楽しそうだ。 でも不思議と俺も緊張はない。」



東京選抜のメンバー入りがかかる大切な選考会だと言うのに祐輝と越田は初めて投げるフォークで桜木を三振に取れるのかとウキウキしていた。


そして祐輝は初球は渾身のストレートで入った。


中学3年生で140なんて快速が出れば怪童の仲間入り。


地道な努力は既に祐輝を怪童へと進化させていた。


140キロ台のストレートに手が出ない桜木は祐輝を睨んでいた。


しかし臆する事なく2球目もストレート。


桜木はバットを振ったがやはり振り遅れて当たらない。


そして3球目。


越田のサインはフォークだった。


しっかりと頷いた祐輝は2本の指でボールをしっかりと挟むと何処へ飛んで行っても構うもんかという覚悟で思いっきり腕を振った。



「ストライクッ! バッターアウト!」



桜木の手元ですとんっと落ちたフォークは見事に桜木のバットの空を切った。


越田は何食わぬ顔で桜木を見て鼻で笑うとベンチに戻り祐輝とハイタッチした。


「あれは俺も打てねえよ。」と越田が少し引きつった表情で話していた。



「大丈夫。 いつかまたお前と対戦する時は投げないよ。 どうせお前以外誰も捕れないから。」



このフォークボールは東京選抜のみで使える秘密兵器だ。


バッターが打ちづらいという事はキャッチーも捕球する事が難しい。


天才キャッチー越田だから難なく捕れるがナインズの健太では間違いなく捕れなかった。


この選考会が終わり、いつかまた敵として再戦する時には投げられない。


幻の決め球を武器に祐輝と越田は東京選抜入りを目指す。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

執事👨一人声劇台本

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
執事台本を今まで書いた事がなかったのですが、機会があって書いてみました。 一作だけではなく、これから色々書いてみようと思います。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

処理中です...