青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

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第72話 最強の相方

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越田のキングスはエース速田の引退と共に新体制を築いた。


同い年のエースが新たに誕生したが実力は速田には遠く及ばなかった。


そして今、越田はライバルである祐輝のストレートを捕っているが非常に楽しそうにプレーしている。


だがそれは祐輝も同じだ。


2番打者は内野ゴロに転がったが守備につく選手達は皆が華麗に捕球して難なくアウトに取る。




「これが野球か。」



例えバットに当てられても守備が助けてくれる。


点を取られても味方が打ってくれる。


だから思いっきり投げられる。


みんなのために。


祐輝は人生で初めて野球というスポーツの素晴らしさに触れた。


その後も3番打者を外野フライに打ち取ってベンチへ戻ると越田がハイタッチを求めてきた。



「まあまあだな。 今のは相手バッターがダメだった。 俺ならホームランだ。」
「良く言うよなー。」



互いに顔を見合わせると笑い合って味方の攻撃を見ていた。


東京中から集まった選手達の中で祐輝と越田は初回を見事に3人で打ち取ってきた。


相手チームのピッチャーはこれも有名な投手だ。


桜木という葛飾区代表の彼は祐輝に負けない130キロを超えるストレートを投げては中学生では珍しいフォークボールという変化球を持っていた。


フォークは2本の指で挟んだ状態から投げる変化球でかなりの握力が必要になる。


しかし桜木は平然とツーストライクに追い込むと必ずフォークを投げてきた。


一見するとストレートに見えるがバットを振る直前に手元ですとんっと落ちるこのフォークボールは中学生には打つ事が非常に難しい。


どよめく球場で越田と祐輝は顔を見合わせた。


「あいつすげえ。」と祐輝がボソっとつぶやくと「大した事ねえよ。」と越田は言い放った。



「あいつ引きずり下ろしてやろうぜ。 お前は俺の前の打順だからお前が少し粘って球数稼げ。」



それはファールを重ねて桜木から球数を多く投げさせろという事だ。


「簡単に言うなよ。」と祐輝は眉をひそめている。



「ツーストライクまでバット振るな。 ツーストライクは必ずフォークだけどあれは振らなければ全部ボール球だ。」



やはりここに来ても怪童越田の分析は鋭かった。


ストレートと同じ軌道から突如下に落ちるフォークに驚くバッターはたまらずバットを振ってしまうが、振らなければ全て低すぎるボールと判定される。


3番打者として準備を始める祐輝は越田に言われた通りツーストライクまでバットを振らない様に意識した。


そして2番打者も三振に終わりいよいよ祐輝は打席に立った。


独特のフォームから投げられるストレートは実際の速度よりも速く感じた。



「フォークなんか投げなくてもこのストレートだってファールにできるか。」



そしてあっという間にツーストライクに追い込まれると一度ベンチを見た。


すると越田はまるで「信じてるぞ。」と言わんばかりの純粋な瞳で見ていた。


祐輝は指示通りバットを振らずに立っている。


投げられた3球目は思わず手を出したくなる様な緩いストレートかと思えば手元ですとんっと落ちた。



「ボールッ!」



越田の分析通り、フォークは低めに落ちすぎてストライクゾーンを外れている。


4球目もフォークを投げたがこれもボールだった。


ツーストライクツーボールで祐輝は考えた。



「次はストレートだよな。」



これ以上球数とボールカウントを増やしたくない桜木バッテリーは必ずここはストレートを投げてくると考えた。


そして5球目。


カーンッ!


「ファールボールッ!」


何とかバットに当てた祐輝はファールで粘っている。


そして6球目。



「ファールボールッ!」



7球目。


祐輝はバットを振らなかった。


「ボールファボール!」


2球速いストレートを見せてからもう一度フォークを投げる事でよりバッターはフォークを振ってしまうという心理的な作戦だ。


しかし祐輝だってピッチャーだ。


相手のバッターが嫌がる心理は良く分かっていた。


2球ファールにした時点で祐輝はもうバットを振るつもりがなかった。


そして一塁に立った祐輝は打席に入る越田を見ている。




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