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第69話 初めての…
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顔を見合わせる2人は赤面して動けなくなっていた。
祐輝は絞り出すような声で「え、えっと。」っと精一杯の言語を発した。
ミズキは何も言わず静かに目をつぶっていた。
どうやらその時が来たようだと覚悟した祐輝はミズキの細くて小さい肩をガシッと掴んで口を近づけていく。
「いちゃついてんじゃねえナインズのエース!!」
声変わりしたばかりの低い声に驚いてひっくり返るようにして振り返る祐輝の前に立っていたのは越田だった。
「な、なんだお前っ!」と慌てふためく祐輝は意味不明な言動を繰り返しながらも平然としようと必死だ。
真剣な眼差しで祐輝を見る越田は「女とイチャつくほど俺は余裕の相手かよ。」と悔しそうに鋭い目で並んだ。
落合キングスは新宿区の中でも北の方にある。
祐輝の西新宿ナインズは文字通り西にある。
各地域に暮らす中学生達は基本的に別の地域に足を踏み入れる事はなかった。
世界情勢的に言えば他国への侵入だった。
わざわざ何キロも離れた西新宿地域まで越田が来た理由こそがミズキと初めてのキスをしようとしていた祐輝だった。
「お前から全打席ホームランを打つために俺は彼女すら作らずにバット振ってんのに随分余裕だな。」
越田の真剣な眼差しに祐輝は返す言葉が見つからなかった。
ただただ気まずそうに下を向くミズキをチラリと見ると祐輝は越田に近づいて「これはその・・・」とあたふたしていた。
越田は祐輝の右肩をガシっと掴んで睨むと「お前努力しないと後悔するぞ。」と言い放った。
「わかってるよ。」と返すのが祐輝の精一杯の抵抗だったが越田に鼻で笑われて「女なんて夢叶えてから探せよ。」と言われ、もはや何も言えなかった。
肩を掴む越田の握力は凄まじかった。
そして胸元をボンッとどつくと越田は祐輝から離れた。
「今日は名前を聞きに来たんだよ。 新宿西中学まで行って適当に生徒から聞いたんだよ。 お前の居場所。」
「祐輝だよ。」
「生徒から聞いたから知っていたけどお前の口から聞きたかった。 だがガッカリだ。 まあ精々楽しんだら練習しろよ。」
越田は走り去っていった。
背中に背負う大きなリュックには一体何が入っていたのか疑問に思う祐輝だったが、越田の言葉に何も返せなかった。
あの試合の時にカーブを打てなかった事や三振した事が怪童の心に火をつけてしまった。
走り去る越田をじっと見ていると。
「や、やっぱりダメだよね・・・」
ミズキは悲しそうに下を向いていた。
これにも返す言葉がなかった。
確かに野球に集中するべきだがミズキの存在も祐輝にとっては大切な存在だった。
小学生時代のトラウマから友人を作ることができなくなっていた祐輝にずっと寄り添い続けてくれたのはミズキだけだった。
そんなミズキが好きと言っているのに何もできず、挙句の果てには困っている始末だった。
「あ、あのさ。」
「うんいいよ。 別れるんでしょ?」
しかし祐輝は思い切り抱きしめた。
驚いて口をぽかんと開けるミズキに「いや。」と耳元でつぶやくと更に続けて「こんな俺だけど彼女でいて。」と言った。
ミズキは嬉しくてたまらなかった。
「じゃあ初めてのちゅーはまだ先にしようね。」と返すと「ありがとう。」と応えて強く抱きしめた。
「悪いな越田。 でもミズキは特別なんだ。 お前から必ず三振取るが、ミズキとは付き合う。」
公園でそう誓った祐輝を遠くから見つめるように稲荷神社の狐が祀られていた。
祐輝は絞り出すような声で「え、えっと。」っと精一杯の言語を発した。
ミズキは何も言わず静かに目をつぶっていた。
どうやらその時が来たようだと覚悟した祐輝はミズキの細くて小さい肩をガシッと掴んで口を近づけていく。
「いちゃついてんじゃねえナインズのエース!!」
声変わりしたばかりの低い声に驚いてひっくり返るようにして振り返る祐輝の前に立っていたのは越田だった。
「な、なんだお前っ!」と慌てふためく祐輝は意味不明な言動を繰り返しながらも平然としようと必死だ。
真剣な眼差しで祐輝を見る越田は「女とイチャつくほど俺は余裕の相手かよ。」と悔しそうに鋭い目で並んだ。
落合キングスは新宿区の中でも北の方にある。
祐輝の西新宿ナインズは文字通り西にある。
各地域に暮らす中学生達は基本的に別の地域に足を踏み入れる事はなかった。
世界情勢的に言えば他国への侵入だった。
わざわざ何キロも離れた西新宿地域まで越田が来た理由こそがミズキと初めてのキスをしようとしていた祐輝だった。
「お前から全打席ホームランを打つために俺は彼女すら作らずにバット振ってんのに随分余裕だな。」
越田の真剣な眼差しに祐輝は返す言葉が見つからなかった。
ただただ気まずそうに下を向くミズキをチラリと見ると祐輝は越田に近づいて「これはその・・・」とあたふたしていた。
越田は祐輝の右肩をガシっと掴んで睨むと「お前努力しないと後悔するぞ。」と言い放った。
「わかってるよ。」と返すのが祐輝の精一杯の抵抗だったが越田に鼻で笑われて「女なんて夢叶えてから探せよ。」と言われ、もはや何も言えなかった。
肩を掴む越田の握力は凄まじかった。
そして胸元をボンッとどつくと越田は祐輝から離れた。
「今日は名前を聞きに来たんだよ。 新宿西中学まで行って適当に生徒から聞いたんだよ。 お前の居場所。」
「祐輝だよ。」
「生徒から聞いたから知っていたけどお前の口から聞きたかった。 だがガッカリだ。 まあ精々楽しんだら練習しろよ。」
越田は走り去っていった。
背中に背負う大きなリュックには一体何が入っていたのか疑問に思う祐輝だったが、越田の言葉に何も返せなかった。
あの試合の時にカーブを打てなかった事や三振した事が怪童の心に火をつけてしまった。
走り去る越田をじっと見ていると。
「や、やっぱりダメだよね・・・」
ミズキは悲しそうに下を向いていた。
これにも返す言葉がなかった。
確かに野球に集中するべきだがミズキの存在も祐輝にとっては大切な存在だった。
小学生時代のトラウマから友人を作ることができなくなっていた祐輝にずっと寄り添い続けてくれたのはミズキだけだった。
そんなミズキが好きと言っているのに何もできず、挙句の果てには困っている始末だった。
「あ、あのさ。」
「うんいいよ。 別れるんでしょ?」
しかし祐輝は思い切り抱きしめた。
驚いて口をぽかんと開けるミズキに「いや。」と耳元でつぶやくと更に続けて「こんな俺だけど彼女でいて。」と言った。
ミズキは嬉しくてたまらなかった。
「じゃあ初めてのちゅーはまだ先にしようね。」と返すと「ありがとう。」と応えて強く抱きしめた。
「悪いな越田。 でもミズキは特別なんだ。 お前から必ず三振取るが、ミズキとは付き合う。」
公園でそう誓った祐輝を遠くから見つめるように稲荷神社の狐が祀られていた。
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